特定

文字数 913文字

 その闇掲示板は、守がガイマイとして活動する際の情報源の一つだった。クロエンマの運転するボックスカーの後ろで、守は30センチはあろうシークレットブーツを脱ぎ、異様なまでに張り出した肩パッドを上着から抜いた。
 「大人に見せるのも大変だよ。」
 「お父様も小柄でしたけど、お陰で子供に成りすますことができて重宝だといっておっしゃいました。」
 クロエンマは笑いながら答えた。
 「坊ちゃんが働いている間に、おかしな書き込みが掲示板にありました。」
 彼は後部席のモニタにその内容を映し出した。
 「これって、中学生としての僕のことか?それともガイマイとしての僕のことか?」
 「解りません。カタカナで書かれているので、お父様のペンネームの可能性もあります。」
 守の父は、農林試験場で米の品種改良を行なっていた。退職後にはその知識を活かし、日本の米政策に関する執筆も行なった。その影で、外米四世として権力者の不正を暴き続けてきた。怨まれるには十分だ。

 しかし、掲示板に名前を出されたとなれば、少なからず特定されてしまう。だが、それ以上にこの殺すということの意味が、生命のことか、実社会的に抹殺なのか、それともネットでの抹殺なのかなんともあいまいだ。

 ただ、書き込みは稚拙で幼児性も感じられる。大人であれば怨みつらみの一つも書かれていよう。なぜなら、そのほうが己の正当性を共感する連中が現れるからだ。
 「発信元は特定不能。」
 相棒のAIから連絡が入った。AIはコンピュータではない。AIを使うやつだからコードネームがAIなのだ。本人は表に出てこない。ネットを通じて、作戦に参加するだけだ。今回も、監視カメラや捜査のかく乱など裏で貢献してくれていた。
 「ただ、いい情報もある。内の学校のサーバーを踏み台にしている。」
 AIと守は同じ中学だったが、AIは引きこもりでテストの時以外学校に来ない。学校に来ないくせに学年トップをキープしている。
 とにかく、殺人予告を書き込んだ本人か協力者が中学内にいるということは相手を突き止める上で行動を起こしやすいということだ。だが逆に、こちらも特定されてしまっていることになる。
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登場人物紹介

稲田法喜

米の自由化を推進する農政大臣

棚田守(たなだまもる)

悪徳政治家を相手に戦う中学生盗賊:外米四世(ガイマイヨセイ)

予告状を出すのが彼のスタイル

黒岩燕真

外米の相棒:クロエンマ

行方不明の外米の父親に代わって現四世の世話をする執事

城田万次

通称:シロマジン

元刑事の探偵でガイマイを捕まえることが生きがい

棚田謙蔵(たなだけんぞう)

元、外米四世

ある事件以来、行方不明

謎の殺人予告者

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