掲示板
文字数 1,259文字
その夜、大臣は自宅にいた。本来であれば、より警備しやすい議員宿舎などにいてくれたほうがありがたかったが、翌朝の地元への会合に参加するために自宅にもどらざるを得なかったからだ。ホテルなどは不特定多数の人物が出入りするため、警備がしづらい。客もそうだが、業者にまぎれて賊が侵入したり、従業員に紛れていたりするからだ。
しかし、自宅といえども大臣になる人物。ましてや農政に関わるとなれば、広大な屋敷に、多くの家政婦がいる。地元の有力者や支持者の出入りもある。
「こりゃ、ホテルのほうがまだ警備しやすかったな。」
くやんでも後の祭り。
「出前お待ち!」
すし屋の丸い桶が大量にならぶ。
「警備ご苦労様です。さあ、みなさんで召し上がってください。うちに来たものに食事一つ出さなかったとなれば末代までの恥じ。しかし、ただというわけにはいきませんからな。地元の新種米を使った握りで、アンケートに答えていただこうかと。ウィンウィンというわけですな。」
警備隊の食事といえばカップ麺というイメージが定着している。そこで、手軽で衛星的、体にもいい酢飯を握りというかたちでアピールできないかというのである。生魚というわけにはいかないので、しっかりした処理を行なった江戸前をベースに、さらには焼き肉や野菜といった創作ねたもある。
結果は、ネットに公開されることになっていた。上機嫌の大臣のそばに若い秘書が駆け寄った。やがて二人は屋敷の奥へと去っていった。
「何?アメリカ米の関税撤廃の密約がすっぱ抜かれただと!」
秘書の見せる早刷りの週刊誌の記事に大臣は激昂した。
「まずい。総理が首脳会談で独断で約束したこと。こんなことが世に知れたら、総理だけでなくワシの首も危うい。いや、政権そのものがひっくり返るぞ。」
「記事を止めることはもう無理です。いかがいたしましょう。」
頭をかかえる大臣に若い秘書が詰め寄る。
「どうすれば、大臣として生き残れる?」
「総理と共に路頭に迷うか、総理を裏切って生き延びるか。農政大臣として、関税の現状維持を約束するよう指示を出すしかないでしょう。」
「現状維持は大臣命令だ。関税維持のために総理の弾劾を副総理に要請しよう。」
かくして、国家を揺るがす事件が始まることとなった。一通りの緊急連絡が済むころには真夜中になっていた。
「大臣、勝手に戻られては困りますな。ガイマイのやつがいつやってくるか。」
城田が部屋に勢いよく入ってきた。
「遅いぜ、じいさん。今夜の獲物はすでにいただいた。」
若い秘書が、窓のそばで叫ぶ。
「ガイマイ!なにを寝ぼけたことを。まだ大臣は生きているぞ。」
「おいおい、誰が殺すなんていった。大臣の命。いのちでなくメイ、つまり命令をいただくといったはずだ。しっかり、関税維持の命令をいただいたぜ。これで、日本の農家も安心ってわけだ。」
そのころとある闇掲示板に一つの殺人予告が載った。
「タナダマモル。近いうちにお前を殺す。」
しかし、自宅といえども大臣になる人物。ましてや農政に関わるとなれば、広大な屋敷に、多くの家政婦がいる。地元の有力者や支持者の出入りもある。
「こりゃ、ホテルのほうがまだ警備しやすかったな。」
くやんでも後の祭り。
「出前お待ち!」
すし屋の丸い桶が大量にならぶ。
「警備ご苦労様です。さあ、みなさんで召し上がってください。うちに来たものに食事一つ出さなかったとなれば末代までの恥じ。しかし、ただというわけにはいきませんからな。地元の新種米を使った握りで、アンケートに答えていただこうかと。ウィンウィンというわけですな。」
警備隊の食事といえばカップ麺というイメージが定着している。そこで、手軽で衛星的、体にもいい酢飯を握りというかたちでアピールできないかというのである。生魚というわけにはいかないので、しっかりした処理を行なった江戸前をベースに、さらには焼き肉や野菜といった創作ねたもある。
結果は、ネットに公開されることになっていた。上機嫌の大臣のそばに若い秘書が駆け寄った。やがて二人は屋敷の奥へと去っていった。
「何?アメリカ米の関税撤廃の密約がすっぱ抜かれただと!」
秘書の見せる早刷りの週刊誌の記事に大臣は激昂した。
「まずい。総理が首脳会談で独断で約束したこと。こんなことが世に知れたら、総理だけでなくワシの首も危うい。いや、政権そのものがひっくり返るぞ。」
「記事を止めることはもう無理です。いかがいたしましょう。」
頭をかかえる大臣に若い秘書が詰め寄る。
「どうすれば、大臣として生き残れる?」
「総理と共に路頭に迷うか、総理を裏切って生き延びるか。農政大臣として、関税の現状維持を約束するよう指示を出すしかないでしょう。」
「現状維持は大臣命令だ。関税維持のために総理の弾劾を副総理に要請しよう。」
かくして、国家を揺るがす事件が始まることとなった。一通りの緊急連絡が済むころには真夜中になっていた。
「大臣、勝手に戻られては困りますな。ガイマイのやつがいつやってくるか。」
城田が部屋に勢いよく入ってきた。
「遅いぜ、じいさん。今夜の獲物はすでにいただいた。」
若い秘書が、窓のそばで叫ぶ。
「ガイマイ!なにを寝ぼけたことを。まだ大臣は生きているぞ。」
「おいおい、誰が殺すなんていった。大臣の命。いのちでなくメイ、つまり命令をいただくといったはずだ。しっかり、関税維持の命令をいただいたぜ。これで、日本の農家も安心ってわけだ。」
そのころとある闇掲示板に一つの殺人予告が載った。
「タナダマモル。近いうちにお前を殺す。」