イチゴ月

文字数 1,099文字

 「イチゴ月、すなわち15夜。今度の満月にお嬢さんをさらうという予告状に違いありません。」
 シロマジンは自信満々に、かうぞうに力説した。
 「その日は家にいてもらいますぞ。」
 「え~、せっかくのハリケーンのコンサート日なのに。絶対行きますからね。」
 いいづらありす。かなりわがままで気が強い。
 「それなら警察の方も、ありすちゃんとコンサートにいけばいいじゃない。」
 母親もかなり甘い。

 6月の満月の夜。うっすら赤みがかった月はストロベリームーンと呼ばれている。大型のドローンに吊り下げられ守はいいづら邸の屋根の上に降り立った。家族も警備も娘についてコンサートに出かけてしまっている。
 「シロマジンのおかげでレイジョウが娘のことだとすっかり信じている。」
 守はかうぞうの部屋に入ると、書類を探した。探し物は、机の引き出しに無造作に突っ込んであった。そのあたりの情報は家政婦から得ている。

 「そこまでだ。」
 いきなり、クローゼットからシロマジンが飛び出してきた。
 「おや、じいさん。なんでここにいるの?」
 「ははは、驚いたか。わざわざ外出している娘を誘拐するなどお前の流儀にあわないからな。」
 「さすが。だてに長生きしてねえや。」
 「ところで、何を盗んだんだ。」
 「礼状だよ。」
 そういって、紙の束をちらつかせた。忖度によって刑を免れた連中のお礼状がいいづら邸には保管されている。こいつを白日の下にさらせば、多くの犯罪が暴かれよう。
 「それをどうする気だ。」
 「さて、どこかの週刊誌にでも売るかな?」
 「そんなことしても、メディアもすべて忖度するぞ。世に出ることはない。悪いことは言わん。それを置いていけ。今回ばかりは相手が悪い。」
 シロマジンの言葉が終わるか終わらないうちに窓から一発の銃弾が守をかすめた。
 「政治家だけならともかく、その中には自衛隊の幕僚や警察官僚のOBも含まれているはずだ。」
 この件は確かにやばい。
 「わしが、警察を追われたのも、この一件にかかわったからだ。」
 「じいさんの正義ってはその程度のものかい?」
 「わしだって、わしだって、悔しい。」
 「だったら、こいつを公にしてみせなよ。」
 そういって、守は礼状の束を彼の前に放り投げた。そして、赤く輝く月の中へと消えた。
 「オマエモ、アマイナ。」
 その夜、掲示板にはウンメイからの新たな書き込みがあった。

 それから、半年後。かうぞうは逮捕される。さらに、突然の衆議院解散。礼状の中身はあかされることはなかったが、関係者はそれなりの報いを受けることになるのだった。
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登場人物紹介

稲田法喜

米の自由化を推進する農政大臣

棚田守(たなだまもる)

悪徳政治家を相手に戦う中学生盗賊:外米四世(ガイマイヨセイ)

予告状を出すのが彼のスタイル

黒岩燕真

外米の相棒:クロエンマ

行方不明の外米の父親に代わって現四世の世話をする執事

城田万次

通称:シロマジン

元刑事の探偵でガイマイを捕まえることが生きがい

棚田謙蔵(たなだけんぞう)

元、外米四世

ある事件以来、行方不明

謎の殺人予告者

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