主人公には残酷を?

文字数 1,101文字

 今書いている小説に中国茶カフェを登場させようと思い、せっかくフィクションなんだから、茶館というちょっと非現実的な場所を描こうと、図書館から茶館の本を借りてきた。

 茶館というのは中国茶の喫茶店だが、中華風な装飾様式と西洋の建築様式をあわせ持つ建物だったり、香港なら飲茶(ヤムチャ)を提供したりと、とにかくエキゾチックな異空間な場所なのだ。板の間で寝ころび、頭の骨がごろごろと鳴るのを聞きながら、パラパラとページをめくる。こういうのいいなあと空想にふけるこの時間が溶けるように優しい。

 エッセイも楽しいけど、やっぱり現実にない場所を組み立てられ、まるでドールハウスのように登場人物を動かせるのは楽しいことだ。


 前に近況ノートで@zettsuさんに大沢在昌著『小説講座 売れる作家の全技術 デビューだけで満足してはいけない』をおすすめしてもらい、まんまとハマり読んでいる。その本では出来るだけ取材したり本で調べた方が良いと書いてあったので、これを実践しているのだ。

 その中で『主人公を残酷な目に遭わせろ』と大沢氏は言う。

ーー面白い小説というのは、ミステリーであれ、恋愛小説であれ、どんなジャンルの小説でも、主人公に対して残酷です。(中略)「主人公に残酷な物語は面白い」。これ、テストに出ます。絶対に覚えておいた方がいい。残酷であればあるほど、主人公が苦しめば苦しむほど、物語は面白くなる。

 両親が豚になってしまい異世界で働くことになった内気な千尋(千と千尋の神隠し)、将来スカイネットに対抗する未来の指導者を産み、自らの数奇な運命に抗うサラ(ターミネーター)、自分の母親が家族を無理心中に巻き込み、自分だけが生き残って、それから不自然な死を追求するミコト(アンナチュラル)など確かに名作と呼ばれる作品には残酷な現実を登場人物たちに与えている。
 
 だから大沢氏は主人公にもっと我慢をさせなさい、もっと頑張らせなさい、泣かせなさい、苦しめなさいと言う。

 確かに頷けるのだが、一方で今流行りの俺TUEEEE、無双、チート系の物語はこれに当てはまるのかな?と思った。彼らは確かに転生・召喚前は残酷な現実を背負っていたり、ほとんどの場合不本意に飛ばされているので、その点においては残酷だと言えるだろう。しかし、彼らの能力については(おおむ)ね残酷とは無縁の、最強の能力をするっと手に入れる。総合的には彼らは美味しい運命を享受している。もしくは見てくれの良い、若い女の子たちになぜかモテまくるハーレムものなども人気だ。

 最近はサクッと読者を気持ちよくさせてくれる物語が流行っているので、もしかしたらこの従来の理論の転換期なのかもしれない。
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