麗香と一宮

文字数 1,004文字

 ヤンキーの麗香は愛知県の地理をドンキホーテの位置で把握いている。わたしの家の一番近いドンキで待ち合わせをしていた。本日一緒に穂波ちゃんの家へ向かう予定だ。駐車場で麗香を見つける。
「ごめん一宮、運転できる?」
「いや2年前から運転はしてない、どうした?」
「いやミンザイがまだ残ってて」
「ミンザイ?」
「睡眠導入剤」
「え」
 眠剤を飲んだ奴と2年間運転してないペーパードライバー、どちらが安全に目的地に着くだろうか? 二人の厳正なる協議の末、麗香がコーヒーの力で眠剤を吹き飛ばすという手に至った。わたしは助手席に乗り込むとき、こう言った。

「麗香、わたしはまだ死にたくない」
 
 大学生時代からの友人・麗香は元々OLとして働いていた。ただ6月ごろ、躁うつ病とパニック障害を発病し、現在休職中だ。OLの仕事の前に大阪で広告の営業をしていたのだが、その時の度を越したパワハラの傷がぶり返してしまったようだ。
 そしてちょうどわたしもその頃が人生どん底期だった。わたしがどろどろになりながらも生きてこれたのは麗香の存在が大きい。麗香も大変な時期だったのに、
「苦しかったらやめたらいい! わたしみたいになるな! 無理なんか絶対するな!」
と励ましてくれていた。

 麗香は中々破天荒な人物ではあるが、真面目な人物ではあるので、医者から働くことを止められているのに働こうとしたりして、医者に怒られたりしていた。
「先生にそんなこと言われるからさ、わたしも怒っちゃって、そしたら先生がさ、“今麗香さんは躁鬱状態における躁の時でして…”とか言ってくるわけよ。余計怒るわ」
「まあ確かにそう言われたらね」
 麗香が慣れた手つきでメビウス10ミリのタバコを取り出す。そしてスパーっと吸う。社内にタバコの煙で満たされる。
「そういやまたタバコ税上げやがった」
「そうなんだ? 知らんかったわ」
「この間も上げてさあ、うちらはこんなに従順に税金払ってんのに」
「無理だよ。タバコ税上げるって言っても誰も反対しないもん」
「くそがー」
 
 その時、穂波ちゃんがこっそり麗香の写真を送ってきた。それには愛車の赤いダッチラムに乗り、窓から顔を出し、紙タバコを吸う麗香。そしてバックにはメガドンキの文字が。
「ぷっ…!」
 笑ってしまう。何この完璧な写真は? 宣材写真か。
「おい、一宮、何笑ってんだよ?」
 メンチを切ってくる麗香。
「なんも〜」
 無事に穂波ちゃんちに着きますように。
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