指先におねがい
文字数 963文字
マイダーリン、ナイトメア、ネッシー、ノーススターにバニラブレイク。さあ、どれにしようか。
わたしは眼の前の小さな四角い小瓶を手に取り、あれこれ考える。今日はマニキュアをぬる。
化粧品というのはだいたい“名前”が付いているのだが、アディクションというコスメブランドの名前はとにかく面白い。とことん万人受けを狙ったあざといピンクの『マイダーリン(My Darling)』、赤黒く、血豆のような色の『ナイトメア(Nightmare)』は“悪夢”なんて名前つけられていて、サファリのような野性的なモスグリーンの『ネッシー(Nessie)』はきっとあのネッシーから取っているのだろう。
そんな中『ラブバイト(Love Bite)』というネイルもある。これは透明なレッドカラーではっきり言って全然タイプの色味ではない。じゃあ、どうして買ったのか。名前である。ラブバイトというのは愛を噛む、つまりキスマークのことだ。ちなみにキスマークは和製英語らしい。
コロナが始まる前に好きな男の子がいたのだが、あいにくの脈なし。脈なしの上にハートのスタンプなんて送って来るもんだから、わかっていてもネットでの検索は止められなかった。わたしの心はおもちゃだね。そしてコロナになり、あっけなく会えなくなってしまった。そんな時にこのラブバイトを買った。キスマークを付けられることなんてないだろうこの世界で、ぶつくさする度に、仕方なく隙間を埋めるように指を赤く染めていった。
「なんでマニキュアするの?」
よく聞かれるけど、それを説明するのは難しい。だって傍から見たら何がそんなに楽しいかわからないっていうのはわたしだってよく分かるから。でも本人にはフレームのように指先が視界に入って、世界がきらきらっとするのだ。世界がぱっと自分色に色づく。だけれどそれは究極の自己満の世界だ。
でもこれだけは言える。マニキュアは乾くまで時間がかかる。1時間とかそのぐらいはかかる。そんな面倒臭いことをわざわざしてるのだから、しのごの言わず、「かわいいね」って言っとけばいいのだ。おそらくだけど、マニキュアのしていて何かのお願いしていない人間なんていないんじゃないかな。おまじないをしているその指先に「かわいいね」っていう言葉を掛けられたら、その魔法が花開くかもしれない。
わたしは眼の前の小さな四角い小瓶を手に取り、あれこれ考える。今日はマニキュアをぬる。
化粧品というのはだいたい“名前”が付いているのだが、アディクションというコスメブランドの名前はとにかく面白い。とことん万人受けを狙ったあざといピンクの『マイダーリン(My Darling)』、赤黒く、血豆のような色の『ナイトメア(Nightmare)』は“悪夢”なんて名前つけられていて、サファリのような野性的なモスグリーンの『ネッシー(Nessie)』はきっとあのネッシーから取っているのだろう。
そんな中『ラブバイト(Love Bite)』というネイルもある。これは透明なレッドカラーではっきり言って全然タイプの色味ではない。じゃあ、どうして買ったのか。名前である。ラブバイトというのは愛を噛む、つまりキスマークのことだ。ちなみにキスマークは和製英語らしい。
コロナが始まる前に好きな男の子がいたのだが、あいにくの脈なし。脈なしの上にハートのスタンプなんて送って来るもんだから、わかっていてもネットでの検索は止められなかった。わたしの心はおもちゃだね。そしてコロナになり、あっけなく会えなくなってしまった。そんな時にこのラブバイトを買った。キスマークを付けられることなんてないだろうこの世界で、ぶつくさする度に、仕方なく隙間を埋めるように指を赤く染めていった。
「なんでマニキュアするの?」
よく聞かれるけど、それを説明するのは難しい。だって傍から見たら何がそんなに楽しいかわからないっていうのはわたしだってよく分かるから。でも本人にはフレームのように指先が視界に入って、世界がきらきらっとするのだ。世界がぱっと自分色に色づく。だけれどそれは究極の自己満の世界だ。
でもこれだけは言える。マニキュアは乾くまで時間がかかる。1時間とかそのぐらいはかかる。そんな面倒臭いことをわざわざしてるのだから、しのごの言わず、「かわいいね」って言っとけばいいのだ。おそらくだけど、マニキュアのしていて何かのお願いしていない人間なんていないんじゃないかな。おまじないをしているその指先に「かわいいね」っていう言葉を掛けられたら、その魔法が花開くかもしれない。