祈り

文字数 783文字

「お…、めちゃくちゃかわいいじゃん」
 ピンキーリングのつもりが少し大きくて、右手の薬指につけることにしたビーズにリング。スモーキーピンクなので、夏のせいで焼けた肌にも肌馴染みがいい。夕暮れでチェーン店のぴかぴか光る照明をビーズは光を閉じ込めて、まるで潤んでいるように見える。
「ええなあ、わたしもそれ作りたかったわ」
「また一緒に作ればいいじゃん」
 
 命がけのドライブが再開した。わたしは心の中で“事故しませんように”と祈っていた。
 麗香は元々かなりルールは守らないといけないと思う性格なのと躁の症状が相まって、白熱したドライブが展開された。救急車にはきちんと道を譲り、譲らない車に(いか)り、無理やり車線変更してきた車をあおろうとしたり(もちろん止めた)。なぜドライブがこんなにエキサイティングなんだろうか。
「自分自身の感情の起伏に振り回されてつらい…」
 何度も麗香はそう言った。このドライブは彼女の心の中なのかもしれない。

 やがて街の中に突如森のように木が生い茂った場所が見えてきた。愛知で有名な神社だった。
「前にここへ参拝しに行ったのよ」
「へえ」
 大きな神社で、小学校の担任の先生の結婚式の式場などで何度も訪れたことがあった。なので、そこまで気に留めるような場所ではなかった。
「その時お願いしたんだよ。友達のこと」
「友達?」
「そう。完治することができない病気をしてて。今度進行を少しでも遅くするための手術をするんだって。他県にいるから、その友達に会いに行けないんだけど、“手術が成功しますように”この神社のすべての神様にお願いしたんよ」
 この神社の神様すべてに祈ったんだ―—…。
 この神社は大きい。その中で大小さまざまな神様が(まつ)られている。その中を友達のためにひとつひとつ回ったのか。麗香が眼を閉じ、祈っている姿が思い浮かんだ。
 
 自分のことも大変なのに。本当に尊い奴。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み