誰でもいいから

文字数 1,183文字

 ベッドの中で丸まっている。昨日は慣れないヤケ酒をし(おちょこ1杯)、目覚めた朝である。さすがに二日酔いはしないが、酒を飲んでも気分は晴れない。

 頬を擦り切れるぐらいぬぐったので、ひりひりする。まぶたも重たく感じる。

 何が原因か解らないけど、急に翼から避けられ始めた。急に恋愛対象として接するようになったからだろうか。たぶん、本人は少し就活で傷ついて、誰でもいいから甘えたかったんだろう。そう



 わたしは翼をそういう対象として見たくはなかった。思いたくなかった。だから、自分から近づくことはけしてなかったはずだったのに。…勘違いするなんてばかみたい。わたしが恋愛対象になれるはずもないのに。

「けー子、大丈夫?」
「うーん、別に…」
 昨日べろべろに酔っぱらいながら、事のあらましというか翼の悪行をすべて妹に吐いた。
「ねえ、そのプレゼント、もうあげないんだったらそれちょうだい」
 ロフトで買ったプレゼントを指す。
「…いいけど」
 それが視界に入る度に、わたしの足の痛みとその時の気持ちを思い出してサクサクと傷つく。けれど、もうあげる気すらなかった。行動するのがこわい。
「ちょうどほしかったんだよねぇ、スマートフォンのケース」
 何の躊躇もなく包み紙をほどき、遠慮なくケースの入った透明な箱を開ける。取り出すと、あつ子は自分のスマートフォンのケースを外し、新しいスマートフォンのケースをぱちんぱちんとはめ込んだ。

 妹にはがされた、前のスマートフォンケースを見る。妹は最近韓国でそのスマートフォンのケースを買ってきた。お気に入りだったのも知っている。しかしわたしがプレゼントで買ってきたケースを見る度に傷つくだろうから、そう言ってスマートフォンのケースをもらったのだろう。その時もそのことは解っていたけど、妹に何も言えなかった。

「ねえ、翼くんのどこがいいのさ? 別にむちゃくちゃかっこいい訳じゃないんだし」
「うーん…、今は嫌いだけど」
「はは、それはまだ好きってことだけどね。ま、新しく出会いでも探したら? K2紹介してあげるよ」
「けーつー?」
 K2とは、妹がインカレであったN大の大学生で、わたしと同い年。K2というあだ名は「けー子に行動がなんか似てるから、けい2号、K2ってわけ」らしい。わたしに似てる? 
「N大の大学生がわたしなんかを相手にするわけないさ」
 N大といえば、全国的にも有名なかの大学である。こっちはただの私立文系学生なので、どう転んでも無理だろうと思っていた。
「けー子って自信あるところはあるけど、ないところは本当にないよね。いいじゃん、男で受けた傷は男で癒してもらえば」
「えー?」
「じゃあ、今から連絡しておくわ!」
「え! ちょっと」
 翼にあげる予定だったケースをつけたあつ子の携帯からK2に連絡が飛んだ。

 これがK2――—幸孝(ゆきたか)との出会いになった。
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