オオアリクイは主人を殺すだけでなく少年だって嫉妬させちまうんだぜ

文字数 1,003文字

「実は俺、男が好きなんだ」
学校帰りに入ったファミレスで、ユキオは開口一番俺にそう言った。
「へえ、そうなんだ」
努めて平静を装ったが、やはり俺の心中には衝撃が走った。それを敏感に察知したユキオは、重ねて言う。
「いや、お前とヤるなら、オオアリクイとヤった方がマシだ。友人としては良い奴だけど」
……どうやらそういう事らしい。

「で、お前に頼みがあるんだよ」
こんな話の後だ、どう考えても面倒事に決まってる。ただでさえ、こいつは普段から厄介な事ばかり持ってくるのだ。俺は、負の感情を嫌というほど露骨に顔に出しながら、ユキオに話を促した。
「美術の浜野いるだろ、俺とあいつを引き合わせて欲しいんだ」
「よりによって浜野かよ」
苦虫どころか、Gを噛み潰したってしないくらい不快な顔で俺は言い捨てた。

 浜野ってのは、俺たちの学校の美術教師だ。あいつはプロレスラーみたいな体格をしている。美術教師の癖に。常に竹刀を持ち歩き、風紀を乱す生徒に、注意とは名ばかりの説教をする。朝は校門で「服装の乱れは心の乱れ」つっては説教だ。自分はよれよれのジャージ姿なのに。まとめると、素行の良くない俺の天敵って奴だ。

「お前、そんなの自分でなんとかしろよ」
帰ろうとして席を立つ俺。追いすがるユキオ。
「だってよ、うちのクラス美術の先生違うから浜野と接点ないし。それにお前、浜野といっつも話してんじゃん」
「話してんじゃねえ。怒られてんだよ!」
キレながらも、他ならぬ友人の頼みだ、一肌脱いでやるかなんて思いが心に芽生え始めていた。

 それから数日後、浜野はユキオの担任教師の小川ちゃんと突然婚約した。


「小川ちゃん、『そろそろプロポーズしてほしいなぁ』ってぼやいててさ」
こないだのファミレス、こないだの席に俺とユキオはいた。
「バレてないつもりでも、あの二人がデキてたのは、大抵の奴が知ってたし」
……俺は知らなかったけどな。
「浜野みたいな奴には、ああいうやり方が効くと思ってね」
生徒、しかも男子に真顔で言い寄られたら、さすがのコワモテ浜野でも焦るだろうさ。
「お前をかついだのは悪かったよ。でも、人を介した方がリアリティあるし」
ふん。そういうもんかね。
「だから、そんな怒んなよ。ドリンクバーおごっからさ」


 結局、ユキオは本当に男が好きなのか、わからずじまいになってしまった。俺の気持ちを伝えて真相を確かめたいけど、「オオアリクイの方がマシ」って言われちまったしなぁ。
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