コーヒーブレイク

文字数 806文字

「ふう、ちょっと一休みしよ」

 レポートの提出期限を明日に控えた深夜。半分くらいまでレポートを書き終えたところで、少し休憩を取ることにした。眠気覚ましのコーヒーをすすりつつ、窓越しに遙か向こうの星々を見上げる。もう既にレポートの構想はメモにまとまっている。後はひたすら清書作業をこなしていくだけ。そう考えれば少しは気が楽だ。
 本来ならもっと早めに取りかかって、今頃はもう書き終えて最終確認をしていたかった。けど、今週バイト仲間が体調を崩してしまい、シフトの穴埋めを買って出たらいつの間にかこんな体たらくになっていたのだ。
 今宵の空は殊の外美しい。だが皮肉なことに、夜空を悠長に眺めている時間はそれほど残されてはいない。名残惜しい気持ちを振り払って机に向かい、お気に入りの万年筆を手に執って作業を再開する。
 うちの教授は時代錯誤も良いところで、レポートは手書きで清書されたものでないと何があっても受け付けてくれない。タダでさえねちねちしたいやらしい口調で学生をバカにして嫌われているんだから、こういうところぐらい融通を利かせてくれても良いだろうに……。バカバカしいという気持ちと、まあ仕方がないという二つの気持ち。それらが心の天秤を激しく揺り動かす中で、丁寧に丁寧に筆を走らせていく。

 それから数時間。構成変更や誤脱字による書き直しが幾つかあったものの、それらを乗り越えて無事レポートはまとまった。最初から軽く流し読みをして全体の確認を行う。うん。申し分のない出来だ。安堵の息を吐いて目線を上げると、もう東の空が白みはじめていた。
「夜、明けちゃったかぁ」
そう呟いて、レースのカーテンを開けようと立ち上がったその時、何かが手の甲に触れた。それは、コーヒーカップ。

 バランスを崩したカップの中ですっかり冷め切っていたコーヒーは、次の瞬間カップの隔壁から自由になり、今さっきできたばかりのレポートを茶色く蹂躙しきっていた。
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