第11話 アフタヌーンティー
文字数 999文字
六本木某所
品格が求められるエグゼクティブに許された完全会員制のプライベートクラブは窓のないラグジュアリーな空間にシノワズリを潜める。海外エアライン機内誌で紹介される高級クラブは第一線で働くビジネスパーソンの社交場。
燦然と輝くアフタヌーンティーセットに見惚れる。
ここで見たものは全て、表には出せないので、記憶に留めたい。
ケーキスタンドは下から順に、サンドイッチ、スコーン、ペストリー。
英国式キューカンバ―サンドイッチにフォークを入れると鮮やかな緑色に吐息が漏れる。軽快にピクルスを口に運んだところで、宗一郎が笑いながら長椅子に背を預けた。
「ニースでこれ食べた時の俺たちは若かったな」
ティアンと呼ばれる器に野菜を入れて焼いた料理のエピソード。
スライスしたトマト、ズッキーニ、シェーブル(山羊のチーズ)が並ぶフランス料理は彩りこそ良いが味に馴染みがない俺にとって酸っぱい思いで。
あれから10年
別れても宗一郎と居るのは、一度きりの奇跡が起こす縁で、結ばれているのかも知れない。
「お前の初めてを貰った時は
こんなに幸せでいいのか、さすがに躊躇ったよ」
フォークの先が急に重くなって落としそうになる。
その話だけは、やめてくれ。
初めての男といえば美しく聞こえるが、それまで経験する機会がなかっただけで恋人はいた。相手が求めて来ても応える事ができなかったのは…誰にでもある葛藤、簡単に許せるほど性的な興味を示すことができずに避けてきた俺の心と体は、宗一郎のいいようにされた。
3段目、待望のペストリーに屈託のない笑顔を見せる宗一郎は大好きなショコラに狙いを定め、天の川のような星屑を散りばめたグラサージュに唇を寄せる。
続いて俺も、ああ…
職人の技術もさることながら、恋人たちがロマンチックに過ごす時間を演出する為だけに創られた一欠が甘く溶けていく最中に一瞬の煌めきを残しながら消えていく至高の完成度に瞳を閉じて、胸に募る思いごと飲み込む。
「芸術的で、言葉にならない」
「だろ?ルノーのショコラは俺のサルバトーレなの」
真っ赤なラズベリーに舌鼓を打つ、宗一郎の唇から抜き取られる金のスプーンが艶めき、不敵な笑みを呼び寄せる。慌てて視線を外したがテーブルの下で指先を忍ばせる攻防に勝てないまま捻じ込んでくる強引さに、負けた。
品格が求められるエグゼクティブに許された完全会員制のプライベートクラブは窓のないラグジュアリーな空間にシノワズリを潜める。海外エアライン機内誌で紹介される高級クラブは第一線で働くビジネスパーソンの社交場。
燦然と輝くアフタヌーンティーセットに見惚れる。
ここで見たものは全て、表には出せないので、記憶に留めたい。
ケーキスタンドは下から順に、サンドイッチ、スコーン、ペストリー。
英国式キューカンバ―サンドイッチにフォークを入れると鮮やかな緑色に吐息が漏れる。軽快にピクルスを口に運んだところで、宗一郎が笑いながら長椅子に背を預けた。
「ニースでこれ食べた時の俺たちは若かったな」
ティアンと呼ばれる器に野菜を入れて焼いた料理のエピソード。
スライスしたトマト、ズッキーニ、シェーブル(山羊のチーズ)が並ぶフランス料理は彩りこそ良いが味に馴染みがない俺にとって酸っぱい思いで。
あれから10年
別れても宗一郎と居るのは、一度きりの奇跡が起こす縁で、結ばれているのかも知れない。
「お前の初めてを貰った時は
こんなに幸せでいいのか、さすがに躊躇ったよ」
フォークの先が急に重くなって落としそうになる。
その話だけは、やめてくれ。
初めての男といえば美しく聞こえるが、それまで経験する機会がなかっただけで恋人はいた。相手が求めて来ても応える事ができなかったのは…誰にでもある葛藤、簡単に許せるほど性的な興味を示すことができずに避けてきた俺の心と体は、宗一郎のいいようにされた。
3段目、待望のペストリーに屈託のない笑顔を見せる宗一郎は大好きなショコラに狙いを定め、天の川のような星屑を散りばめたグラサージュに唇を寄せる。
続いて俺も、ああ…
職人の技術もさることながら、恋人たちがロマンチックに過ごす時間を演出する為だけに創られた一欠が甘く溶けていく最中に一瞬の煌めきを残しながら消えていく至高の完成度に瞳を閉じて、胸に募る思いごと飲み込む。
「芸術的で、言葉にならない」
「だろ?ルノーのショコラは俺のサルバトーレなの」
真っ赤なラズベリーに舌鼓を打つ、宗一郎の唇から抜き取られる金のスプーンが艶めき、不敵な笑みを呼び寄せる。慌てて視線を外したがテーブルの下で指先を忍ばせる攻防に勝てないまま捻じ込んでくる強引さに、負けた。