第3話 マキシマム

文字数 1,254文字

 このまま放っておいたら居座りそうなので早めに追い出し、まず不在通知の番号に問い合わせ、午前中の配達が可能であることを確認。壁掛けの時計を見て逆算しながら迅速に痕跡を消し洗濯機を回して間もなく友人からのチャイムを受ける。
 いつもの挨拶、どうにか間に合った。
 まさか男を連れ込んだなんて知れたら独身貴族の品格を損ねる。

 「誰か来てたの?」

 テーブルにスーパーの袋を置く和真は白鳥の社員証を指の間に挟めていた。

 「言ってくれたら今日は遠慮したのに」
 「そうじゃなくて…」
 「これないと出社できないんじゃなかった?白鳥…なんて読むの」
 「るか」
 「あーそう、もうそんな関係?」

 口を押えて笑う的場和真(まとばかずま)は会社の取引先でバイヤー関連の職業柄、お互いの休みが合えば市場調査の報告をする事を習慣としてる飯友。今日は新しい調味料の試食会議、もちろん料理は俺が担当。和真はティーインストラクターの資格を所持しているため食後の紅茶は何よりの楽しみだ。
 荷物を受け取り、嬉しさ余って和真とハイタッチする俺の胸中、お察しください。

 「これがマキシマム。ついにこれで肉が食えるんだな、やったぜ」

 宮崎県民熱愛、肉屋のスパイスはテレビ番組で放送されて以来1年間品薄が続き再販と同時に入手した逸品。こいつで肉を食ったことがある和真いわく東方美人に出会った時の衝撃に匹敵するとのこと、開封して香りを確かめると市販のスパイスにはない合わせ技の手応えに期待が高まる。
 付け合わせの野菜をオーブンで焼いてる間、手早くステーキ肉の下拵えを済ませフライパンに落とす。


 じゅわわ……肉の焼ける音はいいな。


 サーロインも骨付きラムも俺の耳には心地よい賛歌に聞こえる。
 焼き加減を音で聞き分けマキシマムを振りかけるとスパイスの香りが一瞬で広がり食欲を増進させる。今までいろんな調味料を試してきたが、これは上物だ。
 ステーキに野菜を添えてローレルを飾ると和真に声を掛ける。

 「いいよ、来て」

 撮影のセッティングを整える和真の前に皿を置くとシャッタースピードを上げて湯気まで巧妙に捉える。早くしろと急かす俺を宥める和真とのやり取りはこの後SNSで称賛に変わる。
 さて、冷めないうちにいただきます。

 「あ、思っていたより和風」
 「カツオエキスだな。うん、これは良くできてる。うまい」
 「アクアパッツァも試してみたい」
 「ポテトサラダもいいな、サンドイッチのメニュー考えておくよ」

 和真はあっという間に最後の一口を迎えた。
 サラリーマンの早食い加速させる魔法のスパイス「マキシマム」3本セット買っておいて正解、暫くはコイツで楽しめそうだ。
 食後の紅茶は熊本産べにふうき。
 日本茶だが発酵の進んでいるタイプで紅茶の色に近い、花粉症対策に効果があると言われたらより一層の深みと旨味を感じる。二杯目はまた一段と表情を変えて魅せるお茶の世界に漂う、俺のおかわりは続く。
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登場人物紹介

江波絢斗

176/65/37・A型

趣味が料理の純然たるアラサー部長。

仕事には誠実で真面目、温厚な性格。恋愛には臆病…元彼のあまい呪縛から

逃れられない一方で、令和チャンの彼氏に翻弄される日々。

好きなもの・肉、麺類、和菓子

白鳥路嘉

165/56/23 B型

平成最期の新入社員で毎日が食べ盛り!令和のツン担当タチわんこ

性格

・小悪魔です

・すぐ機嫌が悪くなります

・親しい人に対してどS

・好きな食べ物「絢斗のつくるごはん」

・酒が弱い

・基本めんどくさがり

・ぼっち嫌い

・絢斗が大好き過ぎる!でも浮気っぽい…飽きっぽい…

・怒ると泣く

・双子の兄はラガーマンで弟/溺愛♡

的場和真

180/69/37 O型

日本全国を食べ歩く!バイヤーが天職のイケメン営業バリダチ

絢斗の食を常にリードする、ティーインストラクターの資格を持つ紅茶王子。

オンラインで料理研究家として名を上げる。

実業家の父親と2人の母を持つ複雑な家庭環境で人間不信…

絢斗にずっと片思い。一途な面も?

性格

・見た目と中身が全然違う

・好きになったら一直線

・現状維持型マイペース人間

・恋愛アドバイザー

・絢斗以外にあまり興味がない

・キレると面倒くさい感じになります

佐伯宗一郎

185/72/32 AB型

絢斗の元彼。国民的スイーツ王子として芸能人レベルで活動中、タチ寄りのリバ。

甘い物が主食で「男」も食べ物として見ているせいか

病的な浮気性…他人に理解されないところがある天才肌。

激しい収集癖があり、一度言ったらきかない頑固者。

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