第15話 藪蕎麦
文字数 1,445文字
蝉の大合唱に茹だる暑さ
眩暈で揺らぐ向こう側で手招きする農夫が、俺を呼ぶ。
「助かります。遠慮なくいただきますね」
道端でいただく冷たい西瓜は格別で、吹き出す汗を拭えば顔に泥が伸びる。
営業先でいい顔したくて畑仕事を手伝ったが、悪くはない。直射日光は体に応えるが畑で汗を流す人がいなければ、消費者は何も食べることはできない現実に立ち、雲ひとつない真っ青な夏空の元で西瓜を頬張る。
なんという、甘さ。
歯を入れると糖度の高い果汁が滴るので、口を付けて吸いながら食べ進める西瓜はこの区域で試験栽培されているもので、まだ市場では流通して無い品種。身と皮の間にも基準値が儲けられ種が白くて少ない。
「ごちそうさまでした」
軽トラで送って貰った庭先で井戸水を拝借する。
片手で押し上げながら吹き上がる冷たい水に頭を突っ込んでやりたい衝動を堪えて、顔を洗う。
「生き返りました。では、私はこれで」
スーツの上着を着る気にはなれず、灼熱の営業車を冷房でクールダウンさせた後、南西に進む。
この先にある蕎麦屋で飯にするか。
あの西瓜、旨かったな。
町名…だったような?宗一郎に聞けばもう一度食べられるかも知れない。
青看板が出て来ない田舎の農道は砂利道で砂煙を巻き上げながら、目的地に到着。
木彫りの看板に、自然に生えている草花が印象的だ。
暖簾をめくると元気な呼び声。
まず目に飛び込んでいたのは立派な一枚板のテーブル。これは立派だ。
席に着くなりメニューを広げる前に、水を一息で飲み干すとおかわりを注いで貰い夏野菜の天せいろを勧められた。
では、それで…地産地消に外れなし。
間もなく天ぷらが跳ねる音が聞こえて来る。
徐々に音が変わり、ふんわりと香り立つ店内は壁一面がガラス構造、喉かな田舎の風景がまるで一枚の絵のように見える仕組みだ。菜の花が咲く頃に来てみたい。
本日のランチ
「天せいろ蕎麦」
・やぶ系
・天ぷらは海老、茄子、万願寺唐辛子、とうもろこし、餅5種。
いわゆる田舎蕎麦といわれる十割。
藪 は甘皮も一緒に挽くため緑色だが、蕎麦の濃い香りと、この色合いが食欲を増進させる。
江戸前の真っ黒な辛めのつゆに短い蕎麦を先だけ落とし「すする」田舎蕎麦はつゆで濡れても質感が固い為、箸で口に入れて残りを吸い上げる、俺の食べ癖。
あっさりだが、節々に区切りがあっていい。
万願寺唐辛子?大きな獅子唐のような見た目だが、辛くないピーマンのようだ。冷涼な気候での作り手が増えている京野菜のひとつ。丸ごと揚げており頭から中の種も全て食べる。
お楽しみは餅。
手作りの切り餅を揚げた代物で、噛みつき箸で引くと短く伸びて切れる程よさ。
ああ、これはいいな…蕎麦屋に来てうまい餅に出会うとは思わなかった。
頭の中で食レポを展開していると蕎麦湯が届き、山葵と葱に蕎麦湯を加えれば完成された珠玉の一杯にほっとする腹具合は8分目。食べ過ぎたな。
レジに立つと真空パックの餅が販売されていた。
よもぎは丸い粒で値段が同じ、尋ねると「あんこが入っています」なるほど、ひとつ頂こう。
南部鉄器の風鈴の涼し気な音色に、美しい田園風景。
新蕎麦の季節にまた来よう。
エアコンで社内を冷やしている間、ボディーシートで汗の処理に努めていると会社から着信。
何件か頼まれ事を引き受けてしまった。
直帰(NR)スパ銭ビールを夢見る真昼の営業に一区切り、シャツを変えたら夜までメンタルを維持できるだけ西瓜と蕎麦で養生できた今日はいい日だ。
眩暈で揺らぐ向こう側で手招きする農夫が、俺を呼ぶ。
「助かります。遠慮なくいただきますね」
道端でいただく冷たい西瓜は格別で、吹き出す汗を拭えば顔に泥が伸びる。
営業先でいい顔したくて畑仕事を手伝ったが、悪くはない。直射日光は体に応えるが畑で汗を流す人がいなければ、消費者は何も食べることはできない現実に立ち、雲ひとつない真っ青な夏空の元で西瓜を頬張る。
なんという、甘さ。
歯を入れると糖度の高い果汁が滴るので、口を付けて吸いながら食べ進める西瓜はこの区域で試験栽培されているもので、まだ市場では流通して無い品種。身と皮の間にも基準値が儲けられ種が白くて少ない。
「ごちそうさまでした」
軽トラで送って貰った庭先で井戸水を拝借する。
片手で押し上げながら吹き上がる冷たい水に頭を突っ込んでやりたい衝動を堪えて、顔を洗う。
「生き返りました。では、私はこれで」
スーツの上着を着る気にはなれず、灼熱の営業車を冷房でクールダウンさせた後、南西に進む。
この先にある蕎麦屋で飯にするか。
あの西瓜、旨かったな。
町名…だったような?宗一郎に聞けばもう一度食べられるかも知れない。
青看板が出て来ない田舎の農道は砂利道で砂煙を巻き上げながら、目的地に到着。
木彫りの看板に、自然に生えている草花が印象的だ。
暖簾をめくると元気な呼び声。
まず目に飛び込んでいたのは立派な一枚板のテーブル。これは立派だ。
席に着くなりメニューを広げる前に、水を一息で飲み干すとおかわりを注いで貰い夏野菜の天せいろを勧められた。
では、それで…地産地消に外れなし。
間もなく天ぷらが跳ねる音が聞こえて来る。
徐々に音が変わり、ふんわりと香り立つ店内は壁一面がガラス構造、喉かな田舎の風景がまるで一枚の絵のように見える仕組みだ。菜の花が咲く頃に来てみたい。
本日のランチ
「天せいろ蕎麦」
・やぶ系
・天ぷらは海老、茄子、万願寺唐辛子、とうもろこし、餅5種。
いわゆる田舎蕎麦といわれる十割。
江戸前の真っ黒な辛めのつゆに短い蕎麦を先だけ落とし「すする」田舎蕎麦はつゆで濡れても質感が固い為、箸で口に入れて残りを吸い上げる、俺の食べ癖。
あっさりだが、節々に区切りがあっていい。
万願寺唐辛子?大きな獅子唐のような見た目だが、辛くないピーマンのようだ。冷涼な気候での作り手が増えている京野菜のひとつ。丸ごと揚げており頭から中の種も全て食べる。
お楽しみは餅。
手作りの切り餅を揚げた代物で、噛みつき箸で引くと短く伸びて切れる程よさ。
ああ、これはいいな…蕎麦屋に来てうまい餅に出会うとは思わなかった。
頭の中で食レポを展開していると蕎麦湯が届き、山葵と葱に蕎麦湯を加えれば完成された珠玉の一杯にほっとする腹具合は8分目。食べ過ぎたな。
レジに立つと真空パックの餅が販売されていた。
よもぎは丸い粒で値段が同じ、尋ねると「あんこが入っています」なるほど、ひとつ頂こう。
南部鉄器の風鈴の涼し気な音色に、美しい田園風景。
新蕎麦の季節にまた来よう。
エアコンで社内を冷やしている間、ボディーシートで汗の処理に努めていると会社から着信。
何件か頼まれ事を引き受けてしまった。
直帰(NR)スパ銭ビールを夢見る真昼の営業に一区切り、シャツを変えたら夜までメンタルを維持できるだけ西瓜と蕎麦で養生できた今日はいい日だ。