第13話 ナポリタン
文字数 1,474文字
遅く起きた日曜の朝
ドリップコーヒーを飲みながらキッチンに立つ。
全粒粉のトルティーヤに、辛く炒めた挽肉、細切りのレタスとストックした常備菜の塩トマトとズッキーニのソムタムに即席サルサソースをかけたら二つ折りにして写真を撮る。
食べ物は鮮度が命。
撮影には時間をかけず、すぐ口に運ぶ。
酸味と塩味のマッチングをヨーグルトベースのスムージーで流し込み、指を舐めたら唇に触れて…あの日の出来事を、塗りつぶす。
溜まった家事をこなしつつパソコンに向かってSNSを始動、タイムリーな記事ではないが個人でやる分には進捗。和真が運営しているサイトにデータベースを送信すると折り返し着信。
一晩寝て、説教される覚悟はできた。
『おはよう。昨日仕事だったの?』
『ああ、うん…』
『お疲れ様。宗ちゃんと寄り戻したの?』
『そうじゃないけど、成り行きで』
『だと思った』
沈黙。電話でよかった、と思う。
『白鳥と喧嘩でもした?』
『路嘉とは何もない』
『ふーん。俺との仲まで疑われてるから、そっちで話つけて』
『路嘉が迷惑かけて、すまない』
『いいえ、どう致しまして。じゃあね』
一方的に打ち切る和真の怒り心頭に押し流され、冷めたコーヒーの底に残る甘さを飲み干す。掃除が終わったら昼は流しのカフェ巡りで仕切り直しだ。
◇
宗一郎と別れてからの半年
俺はひとりで飲食店に入る度胸が持てずにいた。今このタイミングでなら…とはいえ昼時の行列を避けて他所へ行ってもカフェは圧倒的な女性客で埋め尽くされ敷居が高い。諦めた先で白壁の一軒家からブラックボードが引き上げられているのを見つけて走り出せばclosed(閉店)軽く会釈して爪先を返す。
「あ、よかったらどうぞ」
ボードを店内に入れるエプロン姿の女性に案内され、木製のドアを押して進むと子供の頃から見慣れたアニメ映画のような空間に引き込まれる。ステンレスのポットは水滴を落としながら水を注ぎ「ご注文お決まりでしたら声かけて下さいね」その後、呼ばれて厨房へ消えた。
注文は?
紙に書かれたメニューを指さし、ナポリタンのサラダ付きに決めた。
メモを取る三つ編みのまとめ髪をした店員の後姿を目で追う。流行りじゃない丸い眼鏡が印象的だ。間もなくして届くサラダは何種類かのグリーンリーフに、ポテトサラダ、ごまドレッシングのシンプル構成。
ランチサービスのゆで卵は程よい半熟で、テーブルの塩をかけて食べる。
この店はオフィス街で弁当の移動販売をしていた仕出し屋が元だとレビューサイトに投稿されていた。メニューを眺めること10分余りで待望のナポリタンがやって来る。
写真で見るより少々ボリュームに欠けるが味の方はトマトのホール缶を使った「おふくろの味」赤いソーセージが、懐かしかった。
実家は共働き
食事は弁当か袋ラーメンばかり。
幼心に赤いウインナーがご馳走だったな。
久しぶりに食べるとうまい!帰りに買って帰ろう。
「ごちそうさまでした」
「880円です。ありがとうございます、お気をつけて」
外に出て見上げれば陽は高く、白昼夢のようなランチにご満悦の俺はバッグの中からスマホを取り出し、路嘉に連絡をした。
相変わらずの不機嫌で声のトーンも低め、和真と居るのか?独りだと言っても、路嘉は信じてくれないだろう。
彼氏ができると友達と疎遠になる。
どちらも大切で捨て置けない現実に汗を滲ませ、運動がてら家まで歩くとするか。
ドリップコーヒーを飲みながらキッチンに立つ。
全粒粉のトルティーヤに、辛く炒めた挽肉、細切りのレタスとストックした常備菜の塩トマトとズッキーニのソムタムに即席サルサソースをかけたら二つ折りにして写真を撮る。
食べ物は鮮度が命。
撮影には時間をかけず、すぐ口に運ぶ。
酸味と塩味のマッチングをヨーグルトベースのスムージーで流し込み、指を舐めたら唇に触れて…あの日の出来事を、塗りつぶす。
溜まった家事をこなしつつパソコンに向かってSNSを始動、タイムリーな記事ではないが個人でやる分には進捗。和真が運営しているサイトにデータベースを送信すると折り返し着信。
一晩寝て、説教される覚悟はできた。
『おはよう。昨日仕事だったの?』
『ああ、うん…』
『お疲れ様。宗ちゃんと寄り戻したの?』
『そうじゃないけど、成り行きで』
『だと思った』
沈黙。電話でよかった、と思う。
『白鳥と喧嘩でもした?』
『路嘉とは何もない』
『ふーん。俺との仲まで疑われてるから、そっちで話つけて』
『路嘉が迷惑かけて、すまない』
『いいえ、どう致しまして。じゃあね』
一方的に打ち切る和真の怒り心頭に押し流され、冷めたコーヒーの底に残る甘さを飲み干す。掃除が終わったら昼は流しのカフェ巡りで仕切り直しだ。
◇
宗一郎と別れてからの半年
俺はひとりで飲食店に入る度胸が持てずにいた。今このタイミングでなら…とはいえ昼時の行列を避けて他所へ行ってもカフェは圧倒的な女性客で埋め尽くされ敷居が高い。諦めた先で白壁の一軒家からブラックボードが引き上げられているのを見つけて走り出せばclosed(閉店)軽く会釈して爪先を返す。
「あ、よかったらどうぞ」
ボードを店内に入れるエプロン姿の女性に案内され、木製のドアを押して進むと子供の頃から見慣れたアニメ映画のような空間に引き込まれる。ステンレスのポットは水滴を落としながら水を注ぎ「ご注文お決まりでしたら声かけて下さいね」その後、呼ばれて厨房へ消えた。
注文は?
紙に書かれたメニューを指さし、ナポリタンのサラダ付きに決めた。
メモを取る三つ編みのまとめ髪をした店員の後姿を目で追う。流行りじゃない丸い眼鏡が印象的だ。間もなくして届くサラダは何種類かのグリーンリーフに、ポテトサラダ、ごまドレッシングのシンプル構成。
ランチサービスのゆで卵は程よい半熟で、テーブルの塩をかけて食べる。
この店はオフィス街で弁当の移動販売をしていた仕出し屋が元だとレビューサイトに投稿されていた。メニューを眺めること10分余りで待望のナポリタンがやって来る。
写真で見るより少々ボリュームに欠けるが味の方はトマトのホール缶を使った「おふくろの味」赤いソーセージが、懐かしかった。
実家は共働き
食事は弁当か袋ラーメンばかり。
幼心に赤いウインナーがご馳走だったな。
久しぶりに食べるとうまい!帰りに買って帰ろう。
「ごちそうさまでした」
「880円です。ありがとうございます、お気をつけて」
外に出て見上げれば陽は高く、白昼夢のようなランチにご満悦の俺はバッグの中からスマホを取り出し、路嘉に連絡をした。
相変わらずの不機嫌で声のトーンも低め、和真と居るのか?独りだと言っても、路嘉は信じてくれないだろう。
彼氏ができると友達と疎遠になる。
どちらも大切で捨て置けない現実に汗を滲ませ、運動がてら家まで歩くとするか。