第6話 グランマーブル
文字数 1,153文字
月末の金曜はプレミアムフライデー。
午後3時に仕事を終えることを奨励する働き方改革に沸いたのは何年前か覚えてないが、会社員にしてみれば月締めの納品や溢れんばかりの書類や雑務が押し寄せる恐怖そのもの。甘いものでブレイクしようにも会社では憚られる。
「お疲れ様です」
背後からの声に咄嗟の作り笑顔で対応するが白鳥だとわかった途端、真顔に戻る。
「会社で話しかけるなといったはずだ」
「的場さんから伝言、出張で北海道に行くから予定キャンセルだって」
「なんでお前が…」
「LINE既読にならないんですけど?」
まるで印籠のようにスマホの画面を見せてくる白鳥の距離が近い。
言われてみれば会議に行く前、通勤バックに入れてから一度もスマホを取り出した記憶がないことを今になって思い出す。
「あと、これ預かってる」
差し出された紙袋の中身は鮮やかなオレンジ色の箱。
どこかで見た覚えがある。
堂島ロールか?保冷剤も無しに持って来るとは思えない。
「パンだって…名前は…ルーブル?」
ああ、グランマーブルか。よく外回りがてら手に入れてくるなと感心しながら白鳥に礼を言うと紙袋を奪われ「半分は俺に権利がある」とパン改めデニッシュを人質に取られた。
和真はこれを見越して渡したに違いない。
この男のわがままに付き合う気は無いがグランマーブルのデニッシュ食べたさに約束をしてしまった俺は稀代の食いしん坊として後世に名を残すだろう。
◇
待ち合わせ場所は通勤とは違う路線の駅waist5番出口。
仕事帰りに白鳥と一緒に歩いている所を見られたくはない後ろめたさと駅ビル直結の純喫茶を覗き見たさに選んだ。タウン誌で見たスパニッシュオムレツが食べたい俺の意に反する白鳥は通勤リュックから財布を取り出し、コンビニで日用品を買いだす。
歯ブラシ、洗顔フォーム…次々とカゴに放り込む後ろをついて歩くと、長方形の箱を指先で引き抜いた。
「おい、それ…」
「何かあってからじゃ遅いので」
呆気なくカゴの中に落ちる箱
白鳥の意思表示として受けるべきか…
男同士で買い物しているのにそんな代物をレジに通して怪しまれないか心が競る。
俺は明らかな総称で自分のセクシュアルを表明したわけではないのに白鳥にとってそれは容易いことなのか、どれだけ疑問を背に投げても明確な答えはひとつだけ。
電子マネーで決済されたそれが白鳥の手にぶらさがっている、派手なパッケージなんだから紙袋に入れろよ。あの店員、やるな。
「絢斗も食べる?」
人工的な果汁の香を放つグミに一瞥をくれる俺の疲労は今がピーク。男をお持ち帰りするのがこれ程までに心労だったのは、かつてない貴重な経験だ。
午後3時に仕事を終えることを奨励する働き方改革に沸いたのは何年前か覚えてないが、会社員にしてみれば月締めの納品や溢れんばかりの書類や雑務が押し寄せる恐怖そのもの。甘いものでブレイクしようにも会社では憚られる。
「お疲れ様です」
背後からの声に咄嗟の作り笑顔で対応するが白鳥だとわかった途端、真顔に戻る。
「会社で話しかけるなといったはずだ」
「的場さんから伝言、出張で北海道に行くから予定キャンセルだって」
「なんでお前が…」
「LINE既読にならないんですけど?」
まるで印籠のようにスマホの画面を見せてくる白鳥の距離が近い。
言われてみれば会議に行く前、通勤バックに入れてから一度もスマホを取り出した記憶がないことを今になって思い出す。
「あと、これ預かってる」
差し出された紙袋の中身は鮮やかなオレンジ色の箱。
どこかで見た覚えがある。
堂島ロールか?保冷剤も無しに持って来るとは思えない。
「パンだって…名前は…ルーブル?」
ああ、グランマーブルか。よく外回りがてら手に入れてくるなと感心しながら白鳥に礼を言うと紙袋を奪われ「半分は俺に権利がある」とパン改めデニッシュを人質に取られた。
和真はこれを見越して渡したに違いない。
この男のわがままに付き合う気は無いがグランマーブルのデニッシュ食べたさに約束をしてしまった俺は稀代の食いしん坊として後世に名を残すだろう。
◇
待ち合わせ場所は通勤とは違う路線の駅waist5番出口。
仕事帰りに白鳥と一緒に歩いている所を見られたくはない後ろめたさと駅ビル直結の純喫茶を覗き見たさに選んだ。タウン誌で見たスパニッシュオムレツが食べたい俺の意に反する白鳥は通勤リュックから財布を取り出し、コンビニで日用品を買いだす。
歯ブラシ、洗顔フォーム…次々とカゴに放り込む後ろをついて歩くと、長方形の箱を指先で引き抜いた。
「おい、それ…」
「何かあってからじゃ遅いので」
呆気なくカゴの中に落ちる箱
白鳥の意思表示として受けるべきか…
男同士で買い物しているのにそんな代物をレジに通して怪しまれないか心が競る。
俺は明らかな総称で自分のセクシュアルを表明したわけではないのに白鳥にとってそれは容易いことなのか、どれだけ疑問を背に投げても明確な答えはひとつだけ。
電子マネーで決済されたそれが白鳥の手にぶらさがっている、派手なパッケージなんだから紙袋に入れろよ。あの店員、やるな。
「絢斗も食べる?」
人工的な果汁の香を放つグミに一瞥をくれる俺の疲労は今がピーク。男をお持ち帰りするのがこれ程までに心労だったのは、かつてない貴重な経験だ。