第16話 蒙古タンメン中本
文字数 1,424文字
25日連続の猛暑日
熱帯夜に泳ぐスーツの群れも程なくして家に帰るこの時間、高層ビルの15階に位置するオフィスの窓から外を眺める俺は最終に間に合わない覚悟を決めた。
ホワイトボードの消し忘れに気が付き、踏み出した先で…これは?
白鳥路嘉 16:00~NR
営業先から直帰とは、これ如何に。
新卒、だから?弊社としては新人研修2か月儲け「研修生」として基礎からサポートした上で実際の現場に送り込む。見極めの期間を生き残った社員は半年毎に研修と面談を受け、2年で使えるようになれば儲け者。中途採用の雇用も良かった時期はあるが即戦力に期待して実績が出ない場合も多く人員不足の悩みは尽きない。
路嘉がどのくらい働けるのか?
評価共に本人からも話を聞いたことは無いが、NRの傾向として…
プライベート優先する奴が多い。
会社に身を置く限り、公私混同も覚悟の上で生きる事は食うこと!とは言わないが俺が考えが古風なのか、時代錯誤を感じながらボードを消していると通路からの物音に振り返る。
「江波さーん、いますか?」
路嘉の声に慌てて駆け出す。
「お疲れ様です」
「あ、俺のパスケース届いてませんか」
「見て無いが…」
「中に免許証入れてるんですよ。会員証作ろうとしたら無くて…やばい」
デスクを見回した後、ふと俺のデスクに置かれた封筒の下を見るとパスケースに付箋が添えられていた。そのまま渡すと、顔をしかめる。
「的場さん?今日来てたんですか」
「さぁ…お前のデスクを置けばいいものを」
「こういうお礼は…LINEで返しても失礼じゃない?」
頷くとスマホ片手にすぐ取り掛かるのは良い事だ。しかしグループLINEに送らなくても、通知音OFFにしてないのでオフィスに喧しく鳴る。誰も居なくてよかった。
「残業もいいけど自分の時間も大事にした方がいっすよ。江波さん」
通勤バックからビニール袋を取り出す路嘉は、一度こちらに視線を寄こし、フフッと笑いながらカップラーメンを抜き取った。
「新発売です。もう、食べました?」
セブンプレミアム
蒙古タンメン中本北極ブラック黒い激辛味噌
絶句
俺は激辛耐性、皆無。
ラーメン界を「旨辛」で制する中本は、味覚が壊される恐怖の対象でしかない。
それをここで食べようとする路嘉の手を止める。
「会員証は、いいのか?」
今から行けば間に合う、とはいえ営業時間ギリギリに飛び込むのは感心できない。中本を持って速やかに帰れと促すがスマホをいじり出す。
優しく言ってるうちに理解してくれ。俺は一秒でも早く仕事を終わらせて帰らないと総務から報告書を上げる羽目に遭う。そんなことよりスマホが煩い、誰だ。
『仕事終わるまで待ってる』
路嘉からメッセージを受けて…
やる気を削がれてしまい、荷物をまとめてオフィスを出るまで5分と掛からなかった。
「お前、蒙古タンメン好きなのか」
「刺激的なモノでストレス解消…て、よくある話でしょう」
アナウンスに気が付けば習慣で階段を駆け足で降りる。路嘉の隣で改札を通りホームに流れ込む電車に飛び乗った。
吊皮を握る手に汗。息が上がってるのは走ったせいではない。久しぶりに路嘉の横に立つ緊張の着地点がどこにあるのか、いつもは憂鬱に流れる景色が今夜はとても鮮やかに見えた。
まるで真夏の世の夢だな。
熱帯夜に泳ぐスーツの群れも程なくして家に帰るこの時間、高層ビルの15階に位置するオフィスの窓から外を眺める俺は最終に間に合わない覚悟を決めた。
ホワイトボードの消し忘れに気が付き、踏み出した先で…これは?
白鳥路嘉 16:00~NR
営業先から直帰とは、これ如何に。
新卒、だから?弊社としては新人研修2か月儲け「研修生」として基礎からサポートした上で実際の現場に送り込む。見極めの期間を生き残った社員は半年毎に研修と面談を受け、2年で使えるようになれば儲け者。中途採用の雇用も良かった時期はあるが即戦力に期待して実績が出ない場合も多く人員不足の悩みは尽きない。
路嘉がどのくらい働けるのか?
評価共に本人からも話を聞いたことは無いが、NRの傾向として…
プライベート優先する奴が多い。
会社に身を置く限り、公私混同も覚悟の上で生きる事は食うこと!とは言わないが俺が考えが古風なのか、時代錯誤を感じながらボードを消していると通路からの物音に振り返る。
「江波さーん、いますか?」
路嘉の声に慌てて駆け出す。
「お疲れ様です」
「あ、俺のパスケース届いてませんか」
「見て無いが…」
「中に免許証入れてるんですよ。会員証作ろうとしたら無くて…やばい」
デスクを見回した後、ふと俺のデスクに置かれた封筒の下を見るとパスケースに付箋が添えられていた。そのまま渡すと、顔をしかめる。
「的場さん?今日来てたんですか」
「さぁ…お前のデスクを置けばいいものを」
「こういうお礼は…LINEで返しても失礼じゃない?」
頷くとスマホ片手にすぐ取り掛かるのは良い事だ。しかしグループLINEに送らなくても、通知音OFFにしてないのでオフィスに喧しく鳴る。誰も居なくてよかった。
「残業もいいけど自分の時間も大事にした方がいっすよ。江波さん」
通勤バックからビニール袋を取り出す路嘉は、一度こちらに視線を寄こし、フフッと笑いながらカップラーメンを抜き取った。
「新発売です。もう、食べました?」
セブンプレミアム
蒙古タンメン中本北極ブラック黒い激辛味噌
絶句
俺は激辛耐性、皆無。
ラーメン界を「旨辛」で制する中本は、味覚が壊される恐怖の対象でしかない。
それをここで食べようとする路嘉の手を止める。
「会員証は、いいのか?」
今から行けば間に合う、とはいえ営業時間ギリギリに飛び込むのは感心できない。中本を持って速やかに帰れと促すがスマホをいじり出す。
優しく言ってるうちに理解してくれ。俺は一秒でも早く仕事を終わらせて帰らないと総務から報告書を上げる羽目に遭う。そんなことよりスマホが煩い、誰だ。
『仕事終わるまで待ってる』
路嘉からメッセージを受けて…
やる気を削がれてしまい、荷物をまとめてオフィスを出るまで5分と掛からなかった。
「お前、蒙古タンメン好きなのか」
「刺激的なモノでストレス解消…て、よくある話でしょう」
アナウンスに気が付けば習慣で階段を駆け足で降りる。路嘉の隣で改札を通りホームに流れ込む電車に飛び乗った。
吊皮を握る手に汗。息が上がってるのは走ったせいではない。久しぶりに路嘉の横に立つ緊張の着地点がどこにあるのか、いつもは憂鬱に流れる景色が今夜はとても鮮やかに見えた。
まるで真夏の世の夢だな。