第13話 自死における共通項

文字数 797文字

 蛍は亡くなった父夏雄の夢を久しぶりに見た。毎晩遅くまで働いていた夏雄の口癖は、体力なら負けない、だったが、夢に出てきた夏雄も朝食の時間帯に帰宅し、「大黒柱に倒れられると困るんだけど」と冗談めかす蛍にいつもの口癖で答えたのだった。
 でも死んでしまったではないか。そう蛍が夢の中で考えたところで目が覚め、それから朝まで、我を忘れる程であった丹羽の騒動を反芻しつつ、丹羽のことを夏雄が命を断った理由と照らしながら考えていた。
 夏雄は勉強が得意でなく低レベルと呼ばれる学校卒ではあったが、有名電機メーカーの末端の営業として採用され、晩年本社の営業統轄部門に抜擢されたのは誰よりもタフに働き結果を出したからだった。一方、丹羽は誰が聞いてもエリートと思うに相応しい経歴を歩んできた。そんな二人が同じように命を断とうとしたのには共通の理由があるのだろうか。
 夏雄の死の理由は――会社は事実を最後まで認めなかったが当時マスコミが報道したし、夏雄の側で働いていた慎二が勇気を出して内実を証言してくれた――厳しいノルマを課されたうえ、上司からのプレッシャーに応えきれなくなったからであるが、丹羽についても重要顧客を担当する営業一課の課長としてやはり厳しいノルマを課されていたし、石原部長はパワハラを辞さない人間であることを総合すると、おそらくかなりのプレッシャーがあったのだろう。
 そんなことを考えているうちに朝が来て、眠気を抱えたまま蛍は出社すると、石原部長や他の課長たちがぞろぞろと会議室に入っていくのを目にした。営業三課、四課、それに企画系の部門からも人が集まっている様子で、蛍はいつもより五分程度遅く会社についていたことから会議の参集のタイミングに自席にいなかったから呼ばれなかったが、集められた面々から察するに自身が名を連ねてもおかしくはなさそうにも思い、立ち止まって眺めていたが、声はかからなかった。
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