第四巻 第四章 豊臣秀吉の天下統一

文字数 2,100文字

〇水に沈んだ高松城
N「明智光秀が織田信長を本能寺の変で討った時、羽柴(豊臣)秀吉は中国で毛利氏と戦っていた」

〇秀吉本陣・夜
密書を読み、わなわなと身を震わせている秀吉(四十六歳)。
秀吉「上様……上様!」
おうおうと号泣する秀吉。控えていた黒田官兵衛(三十七歳)、秀吉の耳元に口を寄せ
官兵衛「(囁く)殿……ご運の開ける時が参りましたな」
きっとにらみつけられ、かしこまる官兵衛。

〇山陽道(夜)
秀吉軍の兵士たちが、裸に近い姿で疾走している。街道の所々には松明が焚かれ、
その下で水や握り飯が、地元民たちによって供されている。
N「秀吉は光秀を討つべく、常識を超えた速度で京都へと全軍を向かわせる」
地元民たちを指揮している、石田三成(二十三歳)と大谷吉継(十八歳)。

〇山崎の戦い
N「山崎の戦いで光秀を討ち取った秀吉は、柴田勝家らも打ち破り、信長の後継者の地位を手にする」

〇浜松城の一室
徳川家康(四十二歳)が、榊原康政(三十七歳)・本多忠勝(三十七歳)・、井伊直政(二十四歳)・酒井忠次(五十八歳)らと会話している。
家康「わしは信長公の同盟者であって、家臣ではない……秀吉どのの下につく理由は、何一つない!」
強くうなずく四人。

〇小牧・長久手の戦い
N「家康は小牧・長久手で、三倍の秀吉軍と互角に戦ってみせたが」

◯大坂城
壮大な天守閣を見上げる家康(四十四歳)一行。
家康(M)「今は勝てぬ……!」

〇大坂城・広間
居並ぶ諸大名の前で、秀吉(五十歳)の陣羽織をうやうやしく拝領する家康。
N「天正十四(一五八六)年、関白となった豊臣秀吉に臣従した」
家康「今後は上様に陣羽織を着せる(戦場へ行かせる)ことはございませぬ」
上機嫌の秀吉。

〇博多・秀吉本陣
秀吉(五十一歳)がポルトガルの宣教師・ガスパール・コエリョ(五十八歳)を詰問して
いる。控えている石田三成(三十八歳)。
N「天正十五(一五八七)年、九州を平定した秀吉は、ポルトガルの宣教師、ガスパール・コエリョを博多に呼び出す」
秀吉「唐天竺への討ち入りは、亡き信長公の宿願でもある。それに協力できぬと申すか」
コエリョ「我らは神の教えを広めに来たのであって、戦争のために来たのではありませぬ」
秀吉「ならばこれはどういうことだ……三成!」
うなずいた三成が掲げた書類を見て、愕然とするコエリョ。
秀吉「その方どもが日本人を奴隷として国外へ売り飛ばしていることを証明する、取引の書類よ」
コエリョ「(しどろもどろに)そ、それは……」
秀吉「今後その方どもバテレン(宣教師)が日本に来ること、まかりならん。今おる者もすぐに退去せよ」
コエリョ「しかし……」
三成「秀吉さまのご命令である」
がっくりとうなだれ、出て行くコエリョ。
三成「関白殿下……唐天竺征伐など、本気でお考えなのですか?」
秀吉「そうとも。その折には、帝には北京にお移りいただき、日本は甥の秀次にでもくれてやるつもりじゃ」
三成「お考え直しを。唐は日本の十倍以上も広うございます。日本の全ての力をもってしても……」
秀吉「ではそちは、日本を平定した後、どうやって大名どもを従わせようと言うのじゃ?」
三成「そ、それは……」
秀吉「大名どもは一人として、余に心服しておるわけではない。与える恩賞……くれてやる土地が無くなれば、すぐにも反乱を起こそう」
三成「しかし……」
秀吉「くどい!」
手にした茶碗を三成の顔に叩きつける秀吉。茶碗は三成の額に当たって割れ、三成の顔と服は茶で濡れる。その三成を残して出て行く秀吉。
N「天正十八(一五九〇)年、小田原征伐・奥州仕置によって日本を平定した秀吉は、計画通り文禄元(一五九二)年から朝鮮出兵を開始する」

〇蔚山城
飢えでぼろぼろにやつれた、加藤清正(三十六歳)とその軍勢。
N「はじめは快進撃を続けた日本軍であったが、明軍の本格的な参戦と、朝鮮水軍の活躍による補給線の寸断により、次第に苦戦を強いられるようになる」

〇農村
三成(中年)らによる検地がおこなわれている。
N「その間秀吉政権は、国内では検地や刀狩りを積極的におこない、身分の統制と、農民の土地への定着を進めていった」

〇醍醐寺境内
七百本の桜が咲きほこる境内に、諸大名や文化人たちが思い思いに敷物を敷いて、茶を点てている。秀吉(六十二歳)も淀殿(秀頼の生母、三十六歳)・豊臣秀頼(秀吉の息子、六歳)と共に参加している。
穏やかな顔の秀吉が不意に咳き込む。慌てて介抱する淀殿。
N「慶長三(一五九八)年、醍醐寺で壮大な花見の宴を施したあと、秀吉は病に倒れた」

〇伏見城の一室
死の床の秀吉に付き添っている、淀殿・秀頼・家康(五十六歳)・前田利家(と(五十一歳)・石田三成(三十九歳)、他諸大名たち。
秀吉、枕元に家康と利家を呼び、
秀吉「くれぐれも秀頼のことを……!」
うなずく二人。秀頼を抱いた淀殿、涙をこぼす。
N「八月十八日、秀吉は病により亡くなった。これにより朝鮮出兵も中止となる」
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