第六巻 第三章 明治維新

文字数 2,606文字

〇ロッシュ(フランス公使、五十九歳)と握手する洋装の慶喜(三十一歳)
N「イギリスとの結びつきを強める薩摩・長州に対し、慶喜はフランスとの結びつきを強めることで対抗しようとした」

〇夕顔丸(土佐藩藩船)
龍馬の声「このままではいかんぜよ!」

〇夕顔丸船内
龍馬(三十二歳)と後藤象二郎(土佐藩参政、三十歳)が会話している。
象二郎「何がいかんと言うのだ」
龍馬「公儀はフランスの力を借りる。薩長はイギリスの力を借りる。戦が終わったらどうなる? 日本はイギリスとフランスの分け捕りじゃ」
象二郎「だからと言ってどうする」
龍馬「わしには八つ、策がある。まず一つ目は、『天下の政権を朝廷に奉還せしめ、政令宜しく朝廷より出すべき事』……!」
驚く象二郎。
龍馬「(得意げに)そう、大政をいったん、朝廷にお返しするがじゃ。そして公儀……徳川と薩長土が力を合わせて、新政権を作る」
象二郎「……今度は誰の策を盗んだ」
龍馬「(頭をかいて)大久保一翁(幕臣)どのの知恵じゃ」
象二郎「(笑って)二つ目も聞かせろ」
龍馬「『万機宜しく公義に決すべきこと』……」
N「この時龍馬が語って聞かせた『船中八策』は、明治新政府の綱領の基礎となる」

〇二条城の一室
慶喜と会見している山内容堂(四十一歳)。
N「そして『大政奉還』のアイデアは、土佐藩前藩主・山内容堂を通じて、慶喜にもたらされた」

〇二条城・広間
四十藩の重臣が集められている。慶喜、彼らを睥睨して
慶喜「余は大政を、天朝に奉還するつもりである」
驚く重臣たち。
N「慶応三(一八六七)年十月十四日、『大政奉還上表』が朝廷に提出される」

〇京都・薩摩藩邸
小松帯刀(三十二歳)・西郷隆盛(三十九歳)・大久保利通(三十八歳)が会議している。
帯刀「大政奉還とは……!」
利通「岩倉さまからいただいた、この『倒幕の密勅』、無駄になりもした……」
N「この前日、武力による倒幕を急ぐ薩摩・長州は、岩倉具視から『倒幕の密勅』を受け取っていた。現在では正統性が疑われている密勅だが、大政奉還が数日遅ければ、この密勅に基づき、薩摩・長州は倒幕の兵を起こしていたのである」
隆盛「……このまま慶喜公の思い通りにさせるわけには行き申さぬ」
決意に満ちた隆盛の顔。

〇京都・小御所(夜)
明治天皇臨席の下、松平春嶽(四十歳)・山内容堂(四十一歳)ら議定、岩倉具視
(四十二歳)・西郷隆盛・大久保利通・後藤象二郎ら参与らが会議している。
N「慶喜の大政奉還を受け、新政府の体制を決定すべく、小御所会議が開かれたが……」
容堂「この席に慶喜公がおられぬのはいかがなわけでござるか」
具視「慶喜公は政権を返上したが、徳川四百万石を手放そうとはしておりませぬ。慶喜公の誠意、未だ感じられませぬ」
春嶽「これは異なことを。慶喜公ご自身の居られぬ場で、処分を決めようと申すか。それは道理が通りませぬ」
白熱する議論の中、
西郷「(小声で)……短刀一本あれば、片付くことにてごわす」
西郷の隣でそれを聞きとがめた象二郎、ぎょっとして容堂の元に行き、何事か囁く。容堂、ぎょっとして押し黙る。
N「西郷の脅迫に近いつぶやきが、会議の大勢を決した。慶喜は新政府に、何の居場所も与えられぬどころか、官位と領地の返上を求められたのである」

〇江戸の町(夜)
あちこちであがる火の手に、逃げ惑う江戸の民衆。
N「さらに武力での徳川打倒にこだわる西郷は、江戸の町で殺人・放火・略奪・強盗などを行わせた。江戸警備に当たっていた庄内藩はこれに怒り、薩摩藩邸を焼き討ちする」

〇大坂城の一室
目を閉じて沈思黙考している慶喜に、松平容保(三十二歳)らが迫る。
容保「もはや戦端は開かれたも同然! 不義の薩長を討ちましょう!」
慶喜「……いたしかたあるまい。しかし徳川は決して朝廷に刃を向けるに非ず。薩長を打倒し、天朝の下、新政権を樹立するのだ」
意気上がる一同。

〇鳥羽・伏見の戦い
N「慶応四(一八六八)年一月三日にはじまった鳥羽・伏見の戦いで、旧幕府軍一万五千に対し、五千の新政府軍は一歩も退かず、よく戦った。しかも」
新政府軍の陣地にひるがえる錦旗。
旧幕府軍兵士「錦旗だ……我らは賊軍とされた!」
動揺する旧幕府軍。
N「新政府軍が『官軍』となったことにより、旧幕府軍は総崩れとなり、さらに淀藩など新政府軍に寝返る藩も続出した」

〇夜の海を行く開陽丸(幕府軍艦)
甲板で呆然と遠ざかる大坂城を見ている容保。
船室では慶喜がガタガタと震えている。
慶喜(M)「天朝に弓を引くことだけは……断じてできぬ……」
N「しかも慶喜は、大坂城に退却してきた旧幕府軍をそのままにし、わずかな供回りだけを連れて、軍艦・開陽丸で江戸に帰ってしまったのである」

〇東海道
錦旗をひるがえして進軍する新政府軍。
N「新政府軍が江戸に迫る中、慶喜は謹慎し、新政府軍との交渉を勝海舟に委ねた」

〇江戸・薩摩藩屋敷の一室
西郷隆盛(四十一歳)と勝海舟(四十六歳)が会見している。
隆盛「……イギリスのパークス公使から釘を刺され申(も)した」

〇パークス公使(四十一歳)
パークス「新政府軍が江戸の町を焼くようなことがあれば、イギリスにも考えがある」

〇江戸・薩摩藩屋敷の一室
海舟「(すっとぼけて)……さあ、知らねえな」
目線を合わせて、笑い合う海舟と隆盛。
N「この会見により江戸城は無血開城となり、慶喜の生命と徳川家の存続も保障された」

〇上野戦争
刀で武装した彰義隊士たちが、アームストロング砲の砲撃で吹き飛ばされていく。
N「納得しない旗本を中心に彰義隊が結成され、上野の山に立て籠もったが、長州の大村益次郎率いる新政府軍に、一日で撃破された」

〇会津戦争
若松城周辺から煙が上がるのを見た白虎隊士たちが、望陀の涙を流している。
N「会津藩を中心に、奥羽越列藩同盟が結成され、新政府軍に抵抗したが敗れ」

〇五稜郭
馬上突撃する土方歳三(三十五歳)に、新政府軍の銃弾が命中する。
N「さらに榎本武揚ら、旧幕府艦隊を中心とした一団が箱館で『蝦夷地共和国』の建国を宣言したが、明治二(一八六九)年五月十八日には降伏し、一年半にわたる内戦(戊辰戦争)は終結した」
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