第六巻 第五章 文明開化と自由民権運動

文字数 1,941文字

〇慶応義塾校舎
福沢諭吉(三十四歳)が、英語の講義をしている。しかし外からは大砲の音が聞こえてきて、落ち着かない生徒たち。
N「かつて勝海舟と共に渡米した福沢諭吉は、慶応四(一八六八)年に慶応義塾を創設、教育に力を入れた」
生徒「先生、流れ弾が飛んできたら大変です。避難した方が……」
諭吉「(笑って)上野からここまでは、アームストロング砲でも届きはしない。その程度の算術も君はできないのかね」
平然と講義を続ける諭吉。
N「福沢は上野戦争(彰義隊の戦い)の最中も、講義を休まなかったという」

〇走る国鉄150形蒸気機関車
N「明治五(一八七二)年には新橋から横浜まで、鉄道が開通した」

〇銀座煉瓦街(夜)
ガス燈の明かりの下を人びとが行き交う。
N「同年に起こった大火の後、銀座の町並みは防火性の高い煉瓦街に改築され、ガス燈が夜の銀座を照らした」
行き交う人びとは総髪で洋服姿である。
N「チョンマゲが禁止され、洋服が流行した」

〇牛鍋屋
牛鍋に舌鼓を打つ庶民たち。
N「庶民たちの間では牛鍋が流行、食文化も変わっていく」

〇山奥
電線を張り巡らす工夫たち。
N「全国に張り巡らされた電信網は、士族の反乱に対抗する政府の強力な武器となった」

〇富岡製糸場
働く女工たち。
N「産業を盛んにすべく、富岡製糸場などの施設が次々作られた」

〇学校で勉強する子供たち
N「国民皆学を目指して学制が制定され、子供たちは学校に通うこととなる」

〇徴兵検査
裸にされて医師に検査されている青年たち。
医師「甲種合格!」
青年「しもたぁ(しまった)!」
どっと笑い声が起きる。
N「徴兵には士族だけでなく、平民からの反発も多く、『血税反対一揆』も起こったが、何とか施行された」

〇鹿鳴舘外観(夜)
ライトアップされた鹿鳴舘。
N「明治十六(一八八三)年に完成した鹿鳴館では」

〇鹿鳴舘・ダンスホール
燕尾服やドレス姿で踊る紳士淑女。外国人の姿も多い。
N「各国公使などを招いて、連日連夜舞踏会が開かれた」

〇東京・後藤象二郎邸の一室
後藤象二郎(三十七歳)・板垣退助(三十八歳)・江藤新平(四十一歳)・副島種臣(四十七歳)らが会議している。
象二郎「我々が政府から追放されたのは、単に薩摩と長州が、権力を独占せんがためである」
退助「『広く会議を興し、万機公論に決すべし』……この精神は、国会開設として、形にならねばいかぬ」
うなずく一同。
N「明治七(一八七四)年、彼らは『民撰議院設立建白書』を政府に提出する。自由民権運動のはじまりである」

〇正装の板垣退助(中年)と大隈重信(中年)
N「やがて板垣退助は自由党を、大隈重信は立憲改進党を結成する」

〇演説会会場
講壇の上で演説している板垣退助(中年)。満員の聴衆の後ろには、警官隊が待機している。
退助「薩長閥に牛耳られた今の政府は、我ら国民はもちろん、天皇陛下すらもないがしろにし……」
警官「(叫ぶ)中止ー!」
ホイッスルの合図で、どっと講壇に押し寄せる警官隊。それを阻止しようとする聴衆との間で、乱闘が起きる。
N「自由民権運動を危険視した政府は、厳しい弾圧を加えた」

〇岐阜・神道中教院
入り口の階段を降りる板垣退助(四十五歳)に、
相原尚褧「将来の賊!」
匕首を構えた相原尚褧(二十九歳)が突っ込んで来て、退助を刺す。
慌てて周囲の者たちが二人を引き離すが、血を流して倒れる退助。
退助「板垣死すとも、自由は死せず……」
N「幸い板垣の負傷は軽く、板垣は運動を続けた」

〇秩父市役所(夜)
農具などで武装した農民が、市役所に殴り込み、書類を焼いて回る。
N「明治十七(一八八四)年十月三十一日、生活に苦しむ秩父の農民たちが、自由党員と共に『秩父困民党』を結成して蜂起。市役所や高利貸を襲撃する事件が起きた」

〇正装の伊藤博文(四十四歳)
伊藤(M)「自由民権運動の言っておることは、まさにその通り。近代国家のためには、憲法と国会を持たねばならぬ……!」
N「政府もこの運動への対処の必要を痛感、伊藤博文を憲法調査のために渡欧させて準備を進め、明治十八(一八八五)年に政府を内閣制に移行、明治二十二(一八八九)年に大日本帝国憲法を発布した」

〇選挙会場
平民や士族が投票のために並んでいる。
N「明治二十三(一八九〇)年七月一日、国会開設のための総選挙が実施されたが、成人男性のみ、財産によって投票権が制限されるなど、普通選挙にはまだ遠かった」

〇第一回帝国議会
N「十一月二十五日、第一回帝国議会が招集された。日本はようやく、近代国家の体裁を整えたのである」
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