第三巻 第一章 武士の誕生

文字数 2,352文字

〇平良将(将門の父)の屋敷
N「平安時代中頃、坂東(関東)、平良将の屋敷」
広い庭に、流鏑馬の的がいくつか立てられている。
そこに弓を構え、馬を馳せてくる相馬小次郎(平将門、十歳くらい)。馬上で弓を引き絞るが、バランスを崩して落馬する。
小次郎「くそっ!」
小次郎、馬を呼び戻してもう一度またがる。
と、そこへ、門の方から、郎党を連れた騎馬の良将(三十歳くらい)がやってくる。
小次郎「(ぱっと明るい顔で)父上!」
小次郎、馬を良将と並べる。
良将「(にこやかに)おお、小次郎。励んでおるようじゃな」
小次郎「それより群盗どもはいかがいたしました?」
良将「(にやっと笑って)蹴散らしてやったわ。多少取り逃がしたが、当分はこの辺りには現れまい」
憧れの表情で良将を見つめる小次郎。
小次郎「私も早く大きくなって、父上と轡(くつわ)を並べて戦いたいです!」
良将「いや……お前は京へ行くのだ」
えっ、という顔をする小次郎。
良将「父上(高望(たかもち)王(おう))は桓武天皇につながる、立派な血筋のお方であった。こうして一門が、坂東で力をつけた今、もう一度平氏の名を京で高めねばならぬ。小次郎、やってくれるな」
小次郎「(緊張の面持ちで)はい!」

〇平安京、藤原(ふじわらの)忠(ただ)平(ひら)の館
庭に膝をついて、従者たちを連れた忠平(中年)と面会している小次郎(十五歳くらい)。
忠平「京で出世が望みか……して、そちは何が得意じゃ?」
小次郎「(誇らしげに)騎射の技なら、坂東一と自負しております」
忠平の従者たちがどっと笑う。きょとんとしている小次郎。
忠平「京ではな、武芸はあまり出世の足しにはならぬ……滝口(たきぐち)の武士(皇居の護衛)の口を紹介してやるから、しばらく務めてみるがよい」
小次郎「はい……」
N「藤原氏の全盛期であった当時の平安京では、武芸をなりわいとする者たちの扱いは低かった。小次郎はさして出世することもなく、父の死をきっかけに、坂東へ帰る」

〇平将門の館・庭園
広い庭に、流鏑馬の的がいくつか立てられている。
そこに弓を構え、馬を馳せてくる平将門(三十歳くらい)。次々に矢を放ち、全ての的を見事に射抜く。
従者「将門さま、さすがにございます!」
将門、従者の前で馬を止め、
将門「一度は京に上り、出世を志しもしたが……やはり私には、この坂東で、馬を自由に馳せている方が性に合う」
と、将平(将門の弟)が飛び込んで来て
従者「兄上、藤原玄明どのが、兄上にかくまっていただきたいといらしておりますが……」
将門「(少し考えて)『窮鳥懐に入らば、猟師もこれを射ず』……よし、受け入れよう」
将平「(驚いて)しかし、玄明どのは、追捕令(ついぶれい)の出ている、いわば反逆者。それをかくまったとなれば……」
将門「(意地になって)京のせせこましい掟を、少しくらい破ったことが何だというのだ。坂東には坂東のやり方がある」
将門が意地になっているのを見て、説得をあきらめる将平。

〇常陸国衙
平安期の典型的な山塞。門前で兵を引き連れた将門が、国府の役人、藤原維幾と交渉している。一触即発の両軍。
将門「……ではどうしても、玄明どのに対する追捕令は取り消さぬと言うのだな」
維幾「玄明は倉を破り、京に納める租(年貢米)を奪ったのだ」
将門「その京は、我らから重い税を取り立てるばかりで、何もしてくれぬではないか。群盗を退治しているのは我らだ。その我らが、所領を巡って争った時も、仲裁すらしてくれなかった」
維幾「それは(詰まる)……ええい、問答無用!」
維幾が引っ込み、代わりに出てきた兵士たちが、将門軍に矢を射かける。
将門「こうなっては、戦うのみだ!」
応戦する将門軍。たちまち門を破り、国衙に乱入する。
N「将門軍はわずか千名で、三千名の国府軍を撃ち破る」

〇常陸国衙、将門軍本陣
将門、将平、興世王、維幾らが軍議をしている。
将平「(沈鬱に)国府を占領し、印綬を奪ってしまった今、我らは反逆者です……」
一同を沈黙が支配する。
興世王「……ならばいっそ、独立しましょう」
将門「独立?」
興世王「将門さまはおっしゃっていたではありませぬか。京は税を取るばかりで、何もしてくれぬと。それならば将門さまがこの地を治めるに、何の不足がございましょう」
将平「しかし、それは、あまりにも……」
興世王「将門さまは坂東の王……いや、東国の帝、新皇にございます!」
将門「……坂東に生きる者たちの帝か。それも悪くない」
さっぱりした表情の将門。
N「こうして罪人を巡るトラブルから反逆者となった将門は、瞬く間に関東一円を占領する」

〇大宰府を襲撃する、藤原(ふじわらの)純友(すみとも)率いる海賊たち
N「時を同じくして、西国では藤原純友が海賊たちを率いて反乱を起こし」

〇京大路を、大荷物を抱えて逃げまどう人びと
N「平安京は大パニックに陥った。しかし……」

〇騎馬の武士(顔は見えない)
きりりと弓を引き絞り、射る。

〇将門の額に深々と矢が刺さる
N「将門が戦死すると将門軍は崩壊、反乱は短期間で終息した」

〇馬上で弓を射た姿勢の平貞盛
N「将門を討ったのもやはり、平氏である平貞盛らが率いる武士たちであった。平氏はますます坂東に強い勢力を持つようになる」

〇後三年の役屏風
N「源氏もまた、地方で実力を蓄えつつあった。源頼義(みなもとのよりよし)・源義家は、奥州(東北)での安倍氏や清原氏の争いに参加して、東国に勢力を築いた」

〇中尊寺
N「奥州の覇権は藤原清衡が握り、奥州藤原氏四代の繁栄の基礎を築くのである」


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