第八巻 第四章 GHQの占領政策

文字数 3,302文字

〇満州
荒野を進撃するソ連軍戦車(T-34)に、塹壕に籠もった日本兵が立ち向かう。
N「日本本土では八月十五日に終わった戦争だが、ソ連は『休戦協定が結ばれるまでは戦争中である』という解釈で、満州国などの日本領に進撃を続けた。この時ソ連が獲得したのが、後に『北方領土』と呼ばれる千島四島である」

〇シベリア
氷と雪に閉ざされた大地で、木材の伐採などの作業に駆り出される旧日本兵。
N「捕虜になった日本兵は、シベリアで十年に渡る抑留生活を余儀なくされた」

〇厚木飛行場
『バターン号』(ダグラスC-54B)のタラップに立つダグラス・マッカーサー(米陸軍元帥、六十六歳)。
N「昭和二十(一九四五)年八月三十日、連合国軍最高司令官・ダグラス・マッカーサーが厚木の飛行場に到着」

〇ミズーリ号甲板
大勢の米兵たちが見守る中、マッカーサーと重光葵(日本側全権、五十九歳)が降伏文書に調印する。
N「九月二日、米軍艦・ミズーリ号の艦上にて降伏調印式が行われ、第二次世界大戦は正式に終結した。連合国側では、この九月二日を『対日戦勝記念日』としている」

〇第一生命館・マッカーサー執務室
コーンパイプをくわえ、書類仕事をしているマッカーサー。
と、ノックの音がして
マッカーサー「(英語)どうぞ」
米兵に護衛された、昭和天皇が入ってくる。米兵を下がらせるマッカーサー。
※以下、英語での会話。昭和天皇は留学経験があり、通訳は不要だった
マッカーサー、昭和天皇に椅子を勧める。ぎこちなく座る昭和天皇。
マッカーサー「あなたの扱いについては、連合国の間でも意見が割れている。『戦犯として裁くべきだ』という意見の国も多い」
昭和天皇「……私の扱いについて話すためにうかがったわけではありません」
マッカーサー「(意外そうに)では、何のために?」
昭和天皇「戦争の責任は私にあります。私は絞首刑で構いません。しかし、日本国民を罪に問うことはしないでいただきたい」
深々と頭を下げる昭和天皇に、驚いてコーンパイプを取り落とすマッカーサー。
マッカーサー(M)「ヒトラーはドイツ全国民を道連れに自殺を図り、ムッソリーニ(イタリア総統)は逃げようとして国民に殺害された。しかるにヒロヒトのこの振る舞いは……!」
N「ただし、この時の会談内容について、昭和天皇は生涯一言も語らなかった。以上の内容は、マッカーサーの一方的な証言を元に再現したものである」

〇地方の小さな町
昭和天皇(四十六歳)が、みすぼらしい背広姿で、わずかな供回りを連れて巡行している。大勢の貧しそうな庶民が、沿道でそれを歓迎する。昭和天皇はふと、痩せた子供に目を留めて
昭和天皇「(子の母親に)食料は足りているか」
母親「(本音をぐっとこらえて)……大丈夫です」
昭和天皇「(全てを察して)……ア、ソウ」
N「昭和二十一(一九四六)年一月一日に、自ら現人神(あらひとがみ)であることを否定する『人間宣言』を発した昭和天皇は、昭和二十九(一九五四)年までかけて、全国を巡行され、国民と触れ合った」

〇新宿・ヤミ市
多数のバラックが建ち並び、店を出している。
N「全国には多くのヤミ市が自然発生的に生まれ、不足する物資(主に食料)が高額で売買された」

〇第一生命館(連合国最高司令官総司令部、GHQ)
N「GHQは戦争犯罪人の逮捕、日本の武装解除、民主化、農政改革と財閥解体、教育改革などを矢継ぎ早に日本政府に指令する」

〇マッカーサー執務室
マッカーサー(六十七歳)が英字の書類をデスクに叩きつけ、秘書に怒鳴る。
N「さらに、憲法改正の草案提出を要請したマッカーサーだが……」
マッカーサー「何だ! この日本の憲法草案は! こんななまぬるい改正で、ソ連やオーストラリアが納得すると思うのか!」
首をすくめる秘書。
マッカーサー「全く、日本人は十二歳の子供だ……仕方ない、GHQ内に憲法草案起草チームを設けろ」
秘書「具体的に、どのような憲法になさりたいのですか?」
マッカーサー「・天皇は国家の元首とする。ただし、その職務及び権能は、あくまでも憲法に定められた範囲内でのみ行使される。
・日本は紛争解決手段としての戦争、及び自国防衛のための戦争を放棄する。日本は陸海空軍はもちろん、交戦権も持つことはない。
・日本の封建制度は廃止される。
この三つが大原則だ」
タイプする秘書。
N「こうして制作された『マッカーサー草案』に基づき、日本国憲法案が作成され、帝国議会での審議を経て、昭和二十一(一九四六)年十一月三日に公布され、翌年五月三日に施行された」

〇投票する和服姿の日本女性たち
N「民主化政策の一環として、婦人参政権が認められ、昭和二十一(一九四六)年四月十日の衆議院選挙では、日本初の女性議員三十九名が誕生した」

〇市ヶ谷・旧陸軍士官学校講堂
極東国際軍事裁判(東京裁判)が開かれている。
N「昭和二十一(一九四六)年五月、日本の戦争犯罪人を裁くための東京裁判がはじまる」
と、ラダ・ビノード・パール(インド法学者、連合国判事、六十一歳)が立ち上がって
パール「私は、この裁判そのものに反対する。彼らが『平和に対する罪』を犯した時、『平和に対する罪』を定めた法律は存在していなかった。その時存在していなかった法律で裁判を行うのは公正ではない! また、裁判官は全員、戦勝国民であり、公正な判決は期待できない!」
感銘を受ける被告・弁護士一同。苦虫を噛みつぶした顔の判事・検察官一同。
N「しかし裁判は滞りなく行われ、『平和に対する罪』を犯したとして、東条英機らA級戦犯七名が絞首刑、十六名が終身刑を宣告された。また、通常の戦争犯罪と人道に関する罪(捕虜の虐待や民間人の殺害など)人であるBC級戦犯も各国で裁かれ、約五千七百名が被告となり、約千人が死刑判決を受けた」

〇自由主義陣営と共産主義陣営の勢力図
N「日本が平和と民主化への足取りを進めている間にも、世界の情勢は激しく動いていた。
アメリカを中心とする自由主義陣営と、ソ連を中心とする共産主義陣営の間で、冷戦が発生したのである。どちらの陣営も多数の核兵器を保有し、世界を滅ぼす『最後の戦争』の準備を進めていた」

〇北緯三十八度線を越えて侵攻する北朝鮮軍
N「昭和二十五(一九五〇)年六月二十五日、北朝鮮軍が韓国に対して奇襲をかけ、朝鮮戦争がはじまる。アメリカが国連軍を編成して韓国を救援すると、ソ連の支援を受けた中華人民共和国(中国)が北朝鮮に援軍を送った」

〇造船所
大型船がドックで組み上げられていく。
N「この朝鮮戦争は、日本に大量の戦争需要をもたらし、好景気を呼んだ」

〇GHQ執務室
マッカーサー(六十七歳)と吉田茂(首相、七十三歳)が会談している。
マッカーサー「我々米軍は朝鮮戦争で忙しく、日本の防衛や治安維持に当たることができない。再軍備を許可するから、これからは自衛してくれたまえ」
吉田「(とぼけて)それは……憲法違反になりますな」
口をあんぐりと開けるマッカーサー。
吉田(M)「せっかく経済が軌道に乗ってきたのに再軍備では、防衛予算で破綻した戦前の二の舞だ。米軍に日本の防衛をさせて、日本は通商政策にまい進しよう」
N「結局、八月十日に『警察予備隊令』が公布され、警察予備隊が設立されたが、マッカーサーの期待する規模の物ではなかった。自衛隊の前身である」

〇サンフランシスコ・オペラハウス
日本の吉田茂(首相・全権、七十四歳)・池田勇人(蔵相、五十四歳)らと、五十一ヶ国の代表が集まっている。
N「昭和二十七(一九五二)年九月七日、サンフランシスコで連合国との平和条約が締結され、日本は占領状態を脱した。ただしソ連や中華人民共和国などは出席せず、全面講和とはならなかった」

〇厚木・米軍基地
N「同時に『日米安保条約』も締結され、アメリカが日本に基地を維持し、日米共同で日本の防衛に当たることも定められた」
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