第八巻 第三話 太平洋戦争

文字数 2,963文字

〇日本の最大占領版図
N「開戦当初、日本軍は破竹の大進撃を続け、東南アジアに大勢力を築くが」

〇炎上する赤城・蒼龍・加賀の日本軍三空母
N「昭和十七(一九四二)年六月のミッドウェー海戦に敗れ、守勢に転じる」

〇ガダルカナル島
スコップとモッコで滑走路を作っている日本兵。
N「ガダルカナル島への航空基地の建設を巡って、日米は激しく戦った」
隊長「三ヶ月もあれば、立派な飛行場ができる。みんな頑張れ!」
と、そこに米軍機の空襲。ジャングルに隠れる日本兵たち。
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N「数日後」
ジャングルから、自分たちが工事していた飛行場を偵察している日本兵たちが、あっと声をあげる。
ブルドーザーやショベルカーが、物凄い勢いで飛行場の工事をしている。
ぽかんと見ている日本兵たちに、見張りの米兵二人が近づいてくる。慌てて身を隠す日本兵たち。見張りの米兵二人、隠れている日本兵には気づかずにタバコを吹かしながら
米兵「飛行場は三日で完成か。待ち遠しいな」
米兵「空からジャップをやっつけてやる!」
そのまま行ってしまう米兵。日本兵たち、ほっと息をつき
隊長「我々が三ヶ月で完成させようとしていた飛行場を、三日で完成させるというのか……」
と、部下が駆け寄ってきて
日本兵「隊長、奴らの捨てた糧食を拾いました!」
日本兵たち、米軍の糧食を見て驚きの声をあげる。
日本兵「ステーキにケーキにコーヒー。しかも全部缶詰になっている!」
日本兵「我々は麦飯とタクアンで戦争しているというのに……」
がっくりと肩を落とす日本兵たち。
N「日本軍と米軍は、兵力や武器以前のところで、あまりにも差がついていた」

〇ジャングル
ジャングルの中を黙黙と行進する日本兵たち。いずれも飢えや病気でひどく弱っており、足取りはおぼつかない。そこにさらにスコールが襲いかかる。最後尾の兵がついに倒れるが、誰も振り向こうともしない。
倒れた兵「待って……置いていかないで……せめて殺して……」
日本兵たちが遠くへ去って行くのを見て、手にした手榴弾で自決する兵士。
N「南方戦線での日本軍の死因のほとんどは戦死ではなく、餓死・病死・自殺などであった」

〇東京駅
客車の窓から、見送りの両親たちと別れを惜しむ小学生たち。
N「昭和十九(一九四四)年、米軍機が日本本土を空襲するようになると、小学生たちを地方に避難させる『学童疎開』がはじまった」

〇地方の山の中
疎開してきた児童たちに、地元の子供たちが石を投げている。
地元の子供「お前らのせいで俺たちの食い物が減った!」
泣きながら耐えている児童たち。
N「疎開した児童たちが、いじめや差別を受けることも少なくなかった」

〇東京大空襲
低空を飛ぶB29(米爆撃機)の下で、東京の町全体が燃えている。
子供の手を引いて逃げる母親の体に、飛んできた火の粉が降りかかり、服が燃え上がる。母親、地面に転がって
母親「あなただけでも逃げて!」
一瞬息を飲むが、言われた通りに逃げる子供。行く手に川が見える。
子供(M)「川だ! 助かった……!」
川にたどり着いて、息を飲む子供。川は焼けた死体や水死体で一杯である。
N「昭和二十(一九四五)年三月十日の東京大空襲は、十万人の死者と、百万人の被害者を生んだ」

〇海軍航空隊基地
パイロットたちが横一列に並んでいる。その前に隊長。
隊長「ようし、特攻に志願する者は一歩前へ!」
一人を除いて、全員が前に出る。隊長、前に出なかった者をにらみつけ
隊長「……一歩前へ!」
仕方なく前へ出るパイロット。
隊長「貴様たちの覚悟はよくわかった! 必ずや軍神として靖国に祀られるのだから、安心して行ってこい!」
凍り付いた表情のパイロットたち。

〇海上
海上を行く米艦隊に、十機ほどの特攻機が突入してくる。
対空砲火に次々撃ち落とされるが、一機が突入に成功、米駆逐艦が爆発・炎上する。
パイロット「……お母さん!」
N「飛行機に爆弾を積んで、敵艦に体当たりする『特攻』は、志願する兵によってはじめられたが、やがて事実上の強制になっていった。はじめは衝撃を受けた米軍だったが、特攻戦術に慣れると、ほとんど戦果を挙げられなくなっていく」

〇沖縄戦
N「昭和二十(一九四五)年三月には、米軍は沖縄に上陸、激しい地上戦が繰り広げられた」

〇洞窟の内部
真っ暗な中で息を殺している、数人の軍人と数十人の避難民。
と、避難民の赤ん坊が泣き出す。
軍人「米軍に見つかったらどうする! すぐに泣きやませろ!」
必死であやす母親だが、赤子は泣きやまない。軍人、軍刀を抜いて
軍人「貴様にできないなら、俺が泣きやませてやる!」
赤子を抱いて洞窟から飛び出す母親。
軍人「敵前逃亡は銃殺だ!」
拳銃を抜いて背後から母子を撃つ軍人。倒れる母子。
そこに偵察中の米兵の一団が現れる。洞窟内に逃げ込む軍人。
米兵、洞窟の入り口で火炎放射器を構えて
米兵「死ね、ジャップ!」
洞窟の中は業火に包まれる。
N「沖縄での地上戦は民間人をも容赦なく巻き込み、軍民合わせて二十万人の死者・行方不明者を出した。うち半分は民間人であった」

〇ポツダム会談
ハリー・S・トルーマン(米大統領、六十二歳)・ウインストン・チャーチル(英首相、七十二歳)・ヨシフ・スターリン(ソ連書記長、六十八歳)が会談している。
N「昭和二十(一九四五)年七月、ドイツ降伏後、ベルリン郊外のポツダムに米・英・ソの指導者が集まり、日本に無条件降伏を求める『ポツダム宣言』を出した」

〇広島
広島の町を覆う、巨大なキノコ雲。
N「日本は返答をしなかったが、八月六日には広島に原爆が投下され二十万人が、八月九日には長崎に原爆が投下され十万人が亡くなった」

〇満州の原野
ソ連軍の大軍が侵攻してくる。
N「八月九日には、ソ連も対日参戦を表明、満州に侵攻を開始した」

〇皇居・大防空壕
昭和天皇(四十五歳)が臨席して、御前会議が開かれている。
N「八月十日、和平案を飲むかどうかについて、御前会議が開かれた」
鈴木貫太郎(首相、七十八歳)を挟んで、米内光政(海軍大臣、六十六歳)と阿南惟幾(陸軍大臣、五十九歳)が議論している。
阿南「ポツダム宣言では、陛下の地位と生命のご安全が約束されない。この二つが守られない和平には、反対です」
米内「それは和平を結んでから、あらためて交渉すればよいではありませんか」
ぐっとにらみ合う二人だが、互いにそれ以上の言葉が出ない。鈴木、タイミングを見計らって
鈴木「……政府は和平とも徹底抗戦とも、決められなくなりました。この上は、陛下のご聖断にお任せするばかりです」
昭和天皇、深くうなずいて
昭和天皇「朕の身一つで、国民の生命が助かるなら、それでよい。兵が従わぬのなら、朕自らマイクの前に立とう」
覚悟を決めた昭和天皇の姿に、ぐっと涙をこらえる一同。

〇宮城前広場
大勢の国民が、宮城に向かって土下座し、涙を流している。
N「八月十五日、終戦のご詔勅がラジオを通じて流れ、日本人にとっての戦争は終わった」
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