第六巻 第四章 明治維新と西南戦争

文字数 2,794文字

〇江戸・書店
庶民たちがこぞって『太政官日誌』(現在の官報)を手に取っている。彼らが見ているページには『五箇条の御誓文』。
N「慶応四(一八六八)年三月十四日、戊辰戦争の続く中、明治天皇は『五箇条の御誓文』を発布した」
五箇条の御誓文「広く会議を興し、万機公論に決すべし……」
N「坂本龍馬の『船中八策』の内容を承け、由利公正が起草したものに、若干の修整を加えたものである」
庶民「『会議』ってのは、俺たち庶民も混ぜてもらえるのかねえ」
庶民「『盛んに経綸を行う』ってのは、お国が商売繁盛を目指すってことか」
庶民「『知識を世界に求め』……何だ結局、攘夷でなく、開国するのかよ」

〇皇居
N「明治二(一八六九)年から明治三(一八七〇)年にかけて、東京に移った新政府は、四民平等のスローガンを掲げ、公卿・大名を華族、武士を士族、その他を被差別民まで含めて平民とした」

〇内務省
大久保利通(四十一歳)・岩倉具視(四十六歳)・伊藤博文(三十歳)・大隈重信(三十三歳)・山縣有朋(三十三歳)、木戸孝允(三十八歳)らが会議している。
利通「版籍奉還で土地と人民を、新政府に預けたと言っても、形ばかりのことに過ぎない。依然、旧藩主は知事として土地と人民を支配し、兵力を保持している」
孝允「だが、無理に土地と人民を返還させようとすれば、彼らは反乱を起こすだろう」
具視「……西郷どのに頼むよりないか」
利通「このままずるずると旧体制が続くくらいなら、改革を試みて新政府が瓦解した方がいい」
驚くが、納得してうなずく一同。
N「西郷は新政府に加わらず、悠々自適の生活を送っていた」

〇鹿児島・西郷邸
隆盛(四十三歳)が、具視・利通・有朋らと会見している。
隆盛「……お話はよっくわかり申した。版籍奉還の実を挙げるためには、旧藩主どもを一斉にクビにして、新政府の役人を代わりに据えるしかありもはん」
利通「だが、今の新政府には、それを実行するための兵力がない……」
隆盛「薩摩・長州・土佐の兵を『御親兵』として組織し直しもそ。反乱が起きれば、彼らが鎮圧し申す」
具視「御親兵の編成……やってくれるか、西郷どの」
深くうなずく隆盛。
N「明治四(一八七一)年、御親兵の編成を完了した新政府は、廃藩置県を実行。一気に中央集権体制に移行する」

〇鹿児島城(夜)
無数の花火が打ち上げられている。天守閣でそれを見上げている島津久光(五十五歳)。
久光「何が御一新だ! 西郷と大久保に、してやられたわ!」

〇東京港
船出する具視(四十七歳)・利通(四十二歳)・博文(三十一歳)・孝允(三十九歳)らを見送る隆盛(四十四歳)・有朋(三十四歳)・板垣退助(三十五歳)ら。
N「明治四(一八七一)年十二月、岩倉具視・大久保利通をはじめとする、新政府首脳のほとんどが不平等条約の改正と諸外国の事情の調査のため、アメリカ・ヨーロッパ訪問に出発する」
利通、隆盛の手を握って
利通「留守の間、日本を頼む」
うなずく隆盛。

〇西郷隆盛UP
N「岩倉・大久保らが留守の間は新しい改革には手を付けないという約束があったにも関わらず、西郷は徴兵令・学制・太陽暦の導入など、急進的に改革を進めた」

〇東京・居酒屋
不平士族たちが集まっておだをあげている。
士族「なぜ平民の軍隊を作る必要がある! 我々士族がいるではないか!」
そうだそうだ、と気勢をあげる不平士族たち。
N「特に徴兵令の施行は、士族たちの不満を集めることとなった」

〇アメリカ・ホワイトハウスの一室
岩倉具視(四十八歳)・大久保利通(四十三歳)が、ユリシーズ・グラント(アメリカ大統領、五十一歳)と面会している。
N「一方、岩倉使節団は」
グラント「憲法も国会もない国と、平等な条約を結ぶなどあり得ません」
にべもない拒絶に、声も出ない二人。
N「使節団は目的を諸外国の政治や産業の視察に切り替え、明治六(一八七三)年九月十三日まで欧米各国を歴訪した」

〇太政官府
西郷隆盛(四十六歳)・板垣退助(三十六歳)・後藤象二郎(三十六歳)・江藤新平(三十九歳)らが閣議をしている。
退助「朝鮮は日本人を排斥しようとしております! 断固、兵を出して懲らしめるべきです! 戦争となれば、不平士族たちの不満も収まるでしょう」
隆盛「いや、いきなり兵を出してはいかぬ。おいどんが使節として、話し合いのために行き申す」
退助「しかし……それはあまりにも危険です!」
隆盛「おいどんが殺されたら、その時派兵を決定してもそ。おいどんの命あるうちは、派兵は許しもはん」
N「一度は決定した西郷の朝鮮派兵だが、帰国した岩倉使節団の面々が反対、西郷と征韓論派の多くの議員が野に下った」

〇台湾出兵
N「朝鮮出兵を取りやめた政府は、台湾に出兵することで不平士族の気をそらそうとしたが」

〇反乱する不平士族たち
N「明治七(一八七四)年から明治九(一八七六)年にかけて、佐賀の乱・神風連の乱・秋月の乱・萩の乱など、不平士族たちが次々反乱を起こす」

〇鹿児島・温泉
温泉につかって目を閉じている隆盛(四十九歳)。
N「しかし肝心の西郷は動かず、これらの反乱は全て鎮圧された」

〇鹿児島・草牟田火薬庫
私学校の生徒たちが、陸軍火薬庫を襲う。
N「明治十(一八七七)年二月、新政府が送り込んだ密偵を、西郷に対する暗殺者と受け取った西郷の私学校の生徒たちは、鹿児島の軍火薬庫を襲撃した」

〇鹿児島・私学校校舎
西郷隆盛(五十歳)・桐野利秋(三十九歳)と、私学校の生徒が集まっている。
隆盛「……ことここに至った今、おいどんの体はおはんらに預けもっそ」
意気上がる一同。

〇熊本城
本丸の焼け落ちた熊本城に籠城する政府軍と、それを包囲する西郷軍。
N「各地の不平士族を糾合しながら進撃した西郷軍だったが、熊本城に籠城する政府軍に苦戦する」
桐野「くそっ! 徴兵された平民の軍隊なぞに苦戦するとは……!」

〇田原坂
政府軍の抜刀隊と西郷軍が、白刃を交えて激突している。
N「田原坂で大苦戦した政府軍は、元士族の抜刀隊を編成、白刃を交えた」

〇自刃する西郷
N「激戦の果て、城山に追い詰められた西郷は自刃、西南戦争は終結した」

〇東京・紀尾井坂
大久保利通(四十九歳)の乗る二頭立ての馬車が、六人の暗殺者に襲撃される。
N「その翌年、大久保利通も不平士族に暗殺された」

〇沖縄・首里城
三百人の軍隊、百六十人の警官が首里城を包囲している。
N「明治十二(一八七九)年三月、琉球は正式に沖縄県として日本に編入される」

〇北海道
牛に鋤を引かせて、開墾している農民たち。
N「また北海道の開拓も進み、日本の南北もこの時期に確定する」
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