第49話 同日 加藤宗太郎アパート

文字数 1,285文字

  同日 加藤宗太郎アパート

「お帰りなさい、大学はどうでしたか?」
 加藤宗太郎が玄関のドアを開けて入ると、ベッドの(わき)に座っていたアオイは立ち上がって(むか)えに出て来る。
「久し振りに行ったけど、つまらない所だったよ。」
 宗太郎は(くつ)を脱ぎながら、コンビニのポリ袋をアオイに渡す。
「勉学をする所だから、しようがありません。アオイは部屋で待っていても問題有りませんから、後期が始まったら、大学に行く(よう)にしてください。」
 アオイは袋からペットボトルを冷蔵庫に移す。
「うーん、そうだなぁ。考えておくよ。…あ、そうだ。これ(もら)った。」宗太郎はポケットからクシャクシャの包みを取り出して、アオイに渡す。「伸から。ロスのお土産(みやげ)だってさ。」
「そうですか。帷子(かたびら)さんに会われたんですね。」
 アオイは(てのひら)の上に包みを載せて、仔細(しさい)に観察している。
「そうだ、アオイちゃん。夕飯を作ってくれるかな。」
 宗太郎はアオイの肩に手を掛け、自分と向き合わせる。
「はい、分かりました。材料を買って来ます。」
 素直で元気の良い言葉が返って来る。
「ああ、頼むよ。僕も出掛けて来るよ。夕方には帰って来るから、食事の準備をしておいて。」
「帰って来たばかりで、お出掛けですか?」
「うん、部屋は暑いから、どこか涼しい所でレポートを書いて来るよ。後期も大学に行くには課題を進めないとね。」
「分かりました。」
「途中まで一緒に行こう。」
 宗太郎は部屋の(すみ)からバックパックを取り上げ、筆記用具や専門書をぞんざいに放り込んだ。

 30分後、インターネットカフェの一室で、宗太郎はパソコンの画面に向かっていた。持ってきたバックパックは(かたわ)らに放り出し、アイスコーヒーを片手にキーボードを操作する。画面にはチャットの文章がリアルタイムで表示されていく。
〈中華人民共和国政府が今年の抗日戦勝記念日の日程を変更し、準備に時間を掛けて大々的に祭典を行うと言っている。準備に時間がかかるとしても、日にちを変えちゃうのはダメっしょ!やってんこと、おかしくね?〉
〈あと数日に(せま)ったところで変更するかね?〉
「ふーん。」
 宗太郎は(うな)りながら、サイトを閉じると、別のサイトからサイトへと渡って行く。
〈FIFAはワールドカップの各地区予選を同日に一斉開催すると発表…〉
〈合衆国東部、西部、テキサスの各広域系統運用機関は電力インフラの一斉更新(いっせいこうしん)を計画。同時実施された場合、全米で大規模な計画停電が発生する…〉
成程(なるほど)ね。」
 (ひと)り言を(つぶや)きながら、更にサイトを()っていく。
〈スンニ派宗教指導者とシーア派宗教指導者の間で歴史的な合意がなされ、今年のアーシュラーはイスラム圏で盛大に行われることになった…〉
「2日に(わた)る行事になるのは、(きわ)めて異例の事…。なんだ、これ。なんで、こんな事が騒がれないんだ?」
 バックパックを引き寄せると、中からスマートフォンを取り出し、SNSに入力する。
〈調べてみると簡単に情報が集まった。半分信じていなかったけど、これは本当だ。日程の予想はついた。すぐに会って話がしたい。大きな何かが動いている。怖くてSNSに詳しく書けない。〉
 宗太郎は3人に送信した。
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