第97話 同日 大栄大学

文字数 859文字

  同日 大栄大学

 大学の校舎のロビーに着くと、いち早くシェリルの姿を見つけた颯田(さった)健治が手を上げて招く。シェリルは呼ばれるままにまっすぐ健治と帷子伸(かたびらしん)、柳田ことりの居る輪に向かう。
「シェル、おはよう。」
 最初に健治が挨拶(あいさつ)する。
「おはよう。」
 答えるシェリルに合わせて、他の者達も挨拶をする。
「シェルは、ゼミどこにするか決めた?」
 健治は元気だ。意識して(さわ)やかさを前に押し出しているのが(いや)でも分かる。
「宮原ゼミにしようと思ってる。マクロ経済の授業、意外と面白かったから。」
「宮原ゼミ?結構(けっこう)(きび)しいって聞いたよ。山口ゼミは親切に指導してくれるって評判。山口ゼミ見てみない?」
 (たた)み掛ける(よう)に健治が話す。
「ねえ、帷子君はどこにしたの?」
 シェリルが健治の話をかわすのは無意識なのだろう。
「俺?豊田ゼミにしようかと思う。人気倍率の高いところは避けようかなと思って。」
「ふーん。みんな、それぞれだね。…そう言えば、加藤君ってどうしたの?」
 シェリルは3人の顔を見まわす。
「ああ、加藤?夏からこっち、(ほとん)ど大学来てないよ。必修単位足りてないから留年(りゅうねん)だろ。」
 (こと)()げに健治が言い放つ。伸とことりは出来(でき)るだけ反応せずに黙っている。
「そうなんだ。」
「あいつ、ロボットフェチだっただろ。…あ、ごめん。シェルとは違って、あいつ恋愛対象として見てたって事。多分、いなくなっちゃって、()んじゃったんじゃないかな。」
 1人健治だけが元気だ。
「でも、あの事件になる前にロボットを処分したって聞いた。」
 シェルは気にせずに話す。
「あ、そうなの?ま、変わってるよな。」
 ははっと、健治が軽く笑う。
「ねえ、もうそろそろ時間だから、教室行こうよ。」
 ことりが話を切る。それに応じて伸が健治を誘い、先に立って歩き出す。
「ねぇ、柳田さんはどこのゼミにしたの?」
 後ろについてことりと歩きながら、シェリルが()く。
「…豊田ゼミにした。」
 ことりは、少し恥ずかしそうに小声(こごえ)で答える。
「あ、そう。…そうなんだ。」
 シェリルはことりと並んで歩きながら、2度(うなず)くと微笑(ほほえ)んだ。 
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