第51話 2×52年9月 緑地公園

文字数 1,558文字

  2×52年9月 緑地公園

 陽の光が綺麗(きれい)()(そろ)えられた緑濃い芝生で反射して、見る者の目にはひと(きわ)(まぶ)しい。あまりの暑さを警戒して芝生の上に人影は無い。代わりに周囲の木陰(こかげ)にあるベンチが飛び飛びに埋まっている。その光景を右手に(なが)めながら、木陰の道を帷子伸(かたびらしん)、ヤン・シェリル、加藤宗太郎の3人は歩いていた。
「場所は確保できた。うちの会社が使っていた倉庫に良い場所がある。」歩きながら、ヤン・シェリルが言う。「私の所のロボットを3体入れるから、全部で5体になるかな。ちょっと狭いかも知れないけど、食事とかの生命維持(いじ)の心配が()らないから、大丈夫だと思う。」
「俺の所の『サラ』は避難しない。」歩く足元の少し湿った地面を見つめながら、伸が小さな声で2人に伝える。「一度場所を宗太郎も確認しておいて。俺は当日、自分の家の『サラ』を連れて別の場所に居るから、こっちの作戦は支援(しえん)できない。自分の家の『サラ』を助けるつもりは無い。」
「ね、自分はロボットを助けるつもりが無いのに、何で私達のロボットを助けるのを手伝(てつだ)ってくれるの?」
 シェリルは伸の横顔を見ている。
上手(うま)く説明出来ないけど、なんか俺達が承知していない勝手な決め事で振り回されるのが嫌なんだ。散々(さんざん)『サラ』は便利だって、人間の真のパートナーだって喧伝(けんでん)しておいて、都合が悪くなったら、(ことわ)りも無しに無かった事にしようなんて、馬鹿にしているにも(ほど)がある。」
 周囲に気を付けなければならない事を忘れ、伸の声は自然と大きくなる。
「世界の奇妙なイベントの時間の重なりを照合すると、作戦が実行されるのは日本時間では夜になると思う。」加藤宗太郎も暗い表情で足元を見て歩きながら説明する。「でも当日の午後にはロボット達をかくまった方が良いよ。問題は、いつまでかくまっていれば良いかだけど、ずっと捜索(そうさく)されるんじゃないかな。当然、持ち主である僕等は尋問(じんもん)されると思うし、隠し通せるか自信が無いよ。」
「そんな、弱気(よわき)になるなよ。」伸が宗太郎の表情を(うかが)う。「何としても大切な子を守るんだって言ってたじゃないか。」
「もう少し工夫が必要なんだ。きっと。」
 丸顔の宗太郎の眉間(みけん)(しわ)が寄っている。
「日にちは確かなの?あと数日なのに、何の気配も無い。」
 シェリルの声に苛立(いらだ)ちが(にじ)んでいる。
「ネット民は何かが起こる気配を察して騒いでいるよ。」宗太郎は淡々(たんたん)と話す。「軍事演習の振りをして第3次世界大戦を始める気だとか、人間の選別が始まるだとか、一番ぶっ飛んでいるのは、地球外生物との決戦が始まるって書いてあったりする。ま、組織間の通信が(おお)っぴらになって来ているみたいで、ロボットに関する何かが起きるらしいと言う所までは勘付(かんづ)いている人が多いみたいだよ。きっと、間違いなく作戦が行われる。全世界同時に起こすのは難易度(なんいど)が高いと思うから、フライングしてしまう事態も考えておかなけりゃ。」
「じゃあ、シェルと宗太郎はそれぞれ、当日、どうやって連れて行くか考えておいて。」
「ああ、ロボットのメイン電源の切り方も習得しておくよ。GPS機能は金属で囲まれた部屋の中では機能しないと思うけど、念には念を入れてね。倉庫の中でじっとしているのは、ロボットといえどもつらいだろうし。寝かせておいてあげよう。」
「何だか、誘拐(ゆうかい)みたいだな。…ごめん。宗太郎は、まだネット情報とにらめっこか?」
「気が抜けないよ。急に作戦が変更になる可能性だってゼロじゃないだろ。」
「そうだな。…誰かが俺達を監視(かんし)しているかも知れない。そろそろ、分かれて帰ろう。」
「やだ、変な事言わないでよ。」
 伸の言葉に、(あわ)ててシェリルが周囲を見回す。
 下を向いたまま、黙って宗太郎は別の方向に向きを変えると2人から離れて行く。彼の行動に(なら)って、シェリルと伸も互いに別の方向へと向きを変えた。
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