第4話 同日 ヤン邸

文字数 1,114文字

  同日 ヤン邸

夕方にシェリルは自宅に帰って来た。タワーマンションの最上階がヤン家の居住空間だ。此処(ここ)で母と弟の3人で暮らしている。父親は貿易商を(いとな)み、シンガポールを拠点(きょてん)にしている。エレベーターを降りると、その前にある一坪程(ひとつぼほど)の空間の向こうにドアがあり、そこから先は階全体をヤン家が使用している。指紋認証で解錠(かいじょう)すると、ドアを開けて玄関に入った。
「お帰りなさい。」
金髪の長い髪をした長身白人顔のAIロボットが待ち(かま)えていて、声をかける。アリシアだ。
「ただいま。」3畳ほどの広さの玄関で(くつ)を脱ぎながら、シェリルが答える。「ごめんね、今日は留守番(るすばん)させちゃって。明日は一緒に行きましょ。」
スリッパに()き替えてシェリルはアリシアに向き合うと、彼女の目を見て言う。
「いいえ。気にしないで。さっきまでシェリルの部屋を片付けてた。後で感想を教えてください。」
「ありがとう。(かえ)って助かっちゃったわね。部屋が散らかってきたら、お留守番してもらうのがいいかな。」
廊下をリビングに向かいながら、シェリルが悪戯(いたずら)な眼をする。
「良いですよ。整理するのは得意だから。」
アリシアは真面目(まじめ)に答えながらシェリルの後を付いて行く。
リビングは40畳の広さがあり、玄関から続く廊下から入った反対側は一面ガラス張りになっている。ガラスを通して、港を囲む高層ビル群とその先に広がる青い海が遠望できる。リビングに入った右手には大きなアイランドキッチンが()え付けられている。反対の左手には大きな液晶テレビが白い壁を背に置かれている。部屋の中央には5mの長さがある南洋材のテーブルとL字型に置かれた白い革のソファがある。
シェリルはリビングに入ったところで立ち止まり、バッグの中を探ってスマートフォンを取り出した。
「何か来た?」
アリシアは遠慮(えんりょ)なしに画面を(のぞ)き込む。
帷子(かたびら)君からだ。」
シェリルが(つぶや)く。
〈今日は何か(いや)な気分にさせてしまったようで御免(ごめん)。そのことで少し話がしたい。明日、話す時間がないかな。〉
SNSには帷子伸からの文が表示されている。
「何かあったの?」
 アリシアがスマートフォンを見ているシェリルの表情を(うかが)う。
「大した事じゃない。どうでもいいのに。」
 シェリルは、画面を操作して返事を書き込む。
〈二限目が無いから、その時間なら大丈夫。〉
「私、その時、居ない方がいい?」
 アリシアがソファに座りながら()く。
「別に大丈夫だよ。一緒に居て。」
 スマートフォンをしまうと、シェリルもソファに身を投げ出した。
「シェリル、帰ったの?」
 書斎(しょさい)から母親の声がする。
「うん。何だかもう、ムシムシしてへこんだ。」
 大きな四角いLEDパネルが()め込まれた天井を見上げながら、シェリルは大声で返事をした。
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