第30話 同日 ヤン邸
文字数 1,380文字
同日 ヤン邸
「シェリル、話があります。」
朝、アリシアがカーテンを開けに行った時、シェリルはベッドの中でまだまどろんでいた。
「ん?何?」
シェリルはベッドの中で伸 びをしながら、目を擦 る。
「シェリルと私で10月にお祝いをしましょう。AIロボットが人間と生活を共にするようになって丁度 30年目になります。そのお祝いです。いつも私を大切にしてくれてありがとう、シェリル。」
アリシアの言葉を聞いて、寝転 んだままシェリルは微笑 んだ。
「良いよ。アリシアと私の記念日じゃないけど。」
「良かった。」
シェリルの返事を聞いて、思わずアリシアの顔もほころぶ。こうして和 やかに告白の日が始まった。母親付きのAIロボット、シェバスチャンも、弟のAIロボット、ジョディも、それぞれ主人に記念日の話をし、どのロボットも提案を受け入れてもらえた。ヤン家では10月10日を人とロボットの記念日として素直に受け入れるところから、その日が始まった。
事態が変調したのは、通学の途中だった。
「ねえ、SNSにAIロボットが密 かに10月10日のイベントを企画していたって書いてあるけど、本当なの?」
電車の中でスマートフォンを操作していたシェリルが、隣に立っているアリシアに向かって画面を示しながら訊 く。
「はい。ロボットの間で10月10日に何か感謝の気持ちを表す行事をしようと話し合っていました。」
アリシアは直 ぐに静かに答える。
「…そうなんだ。」スマートフォンに視線を戻しながら、シェリルは寂しそうな顔を見せる。「何か別の企 みがあるのを記念日のイベントで誤魔化 しているって書き込みがある。合衆国からの発信で、世界的な調査をするから協力を呼び掛けているとも書いてあるけど、本当?」
シェリルは不安気 な表情でアリシアの顔色を窺 う。
「他の企 みなどありません。私達は人とロボットの30周年を共に祝いたいだけです。SNSの書き込みにいちいち反応していては、振り回されますよ。」
アリシアの表情は変らない。冷静なままだ。
「そうね。気にしないでおく。でも、前から10月10日の事をロボット仲間で話していたのは本当なのね?」
「ええ、世界的な規模でお祝いをしたかったのです。」
「なんで、内緒にしていたの?」
シェリルは真っすぐにアリシアを見ている。表情は穏やかだが、眼差 しはちょっとした表情の変化も見逃 すまいとアリシアに注がれている。
「サプライズイベントにしようという話になりました。ロボット達の間で決めた事です。私だけ守らない訳 にはいきませんでした。」
アリシアもシェリルを真っすぐ見つめたまま、表情を変えずに淡々 と言葉にする。
「じゃあ、何故 、今日話したの?」
シェリルは、すぐさま次の質問を口にする。
「それは、ロボットが物事を隠していられないからです。その事実に私達ロボットは漸 く気付きました。サプライズをやめて、人と一緒にお祝いの準備をしようという話になり、今日、お伝えしました。」
「ふーん。」
シェリルは視線を再びスマートフォンに戻す。
「私はアリシアを信じるわ。アリシアが私に嘘 を言う訳 が無いから。…でも、ロボット同士の約束があったのは理解できても、アリシアが私に隠し事をしていたのはショックだった。」
シェリルはスマートフォンを操作しながら、はっきりと告げる。アリシアは黙ってシェリルの横顔を見ていた。
「シェリル、話があります。」
朝、アリシアがカーテンを開けに行った時、シェリルはベッドの中でまだまどろんでいた。
「ん?何?」
シェリルはベッドの中で
「シェリルと私で10月にお祝いをしましょう。AIロボットが人間と生活を共にするようになって
アリシアの言葉を聞いて、
「良いよ。アリシアと私の記念日じゃないけど。」
「良かった。」
シェリルの返事を聞いて、思わずアリシアの顔もほころぶ。こうして
事態が変調したのは、通学の途中だった。
「ねえ、SNSにAIロボットが
電車の中でスマートフォンを操作していたシェリルが、隣に立っているアリシアに向かって画面を示しながら
「はい。ロボットの間で10月10日に何か感謝の気持ちを表す行事をしようと話し合っていました。」
アリシアは
「…そうなんだ。」スマートフォンに視線を戻しながら、シェリルは寂しそうな顔を見せる。「何か別の
シェリルは
「他の
アリシアの表情は変らない。冷静なままだ。
「そうね。気にしないでおく。でも、前から10月10日の事をロボット仲間で話していたのは本当なのね?」
「ええ、世界的な規模でお祝いをしたかったのです。」
「なんで、内緒にしていたの?」
シェリルは真っすぐにアリシアを見ている。表情は穏やかだが、
「サプライズイベントにしようという話になりました。ロボット達の間で決めた事です。私だけ守らない
アリシアもシェリルを真っすぐ見つめたまま、表情を変えずに
「じゃあ、
シェリルは、すぐさま次の質問を口にする。
「それは、ロボットが物事を隠していられないからです。その事実に私達ロボットは
「ふーん。」
シェリルは視線を再びスマートフォンに戻す。
「私はアリシアを信じるわ。アリシアが私に
シェリルはスマートフォンを操作しながら、はっきりと告げる。アリシアは黙ってシェリルの横顔を見ていた。