episode:11
文字数 6,764文字
ギルド『蒼い月』
この世界の四大大国のひとつ、東の国「ランスニュイア」の国家公認ギルド。
その戦力は1国と渡り合えるほどの戦力を持っていた。
ギルドマスター「アルテミス」の死後、ギルドは衰退し解散する。
拠点だった酒場宿には、最後のギルドメンバーの1人「オルファリス」が、
アルテミスの子「アテナ」と、戦災孤児で引き取った「パラス」の
2人の少女と一緒に慎ましく暮らしていた。
ある日、助けを求める不思議な声のもとへ、夜中部屋を抜け出し向かう少女たち。
その人物は光る羽根を生やした、大天使なる存在「ミカエル」であった。
ミカエルは捕らわれた場所から解放してくれた礼として、
パラスには「亡くなった両親へいつか逢わせる事」約束し、
アテナには「パラスの夢を叶える為のチカラ」を授けた。
"血の契約"
そしてミカエルは二人へ忠告する。「この村を離れるように」と。
2人は忠告通り、急いで村を飛び出して山を登る。
振り返ると、彼女たちの育ったエンドラの村は業火に覆われて焼かれていた。
何もかもを失った2人。
衰弱したパラスを背負い、数日山を登るアテナ。
2人はその後、ランスニュイアの女軍兵「アストライア」に保護される。
そしてその者の使用人として働きながら学び、国の兵を目指すことになった。
生きてゆくために始まる新しい生活。
それから数年の時が流れた…。
~登場人物~
■アテナ=パルティナ
栗色くせっ毛の短い髪。栗色の瞳。男の子みたいな容姿をした少女。
事故死したギルド「蒼い月」のギルドマスター、アルテミスの一人娘。
活発で行動的だが、お馬鹿でお調子者。パラスが大好き。
■パラス=ルイアーナ
長くまっすぐ伸びた金色の髪。真っ白い肌。人形の様な可愛らしい容姿の少女。
戦災孤児となった後、ギルド「蒼い月」の幹部ゼファに拾われる。
時折我儘な面もあるが、人の話をよく聞く優等生。アテナが大好き。
■オルファリス=ルアイル
薄氷のような美しい容姿。青色の長髪。青色の瞳。難病を患った女性。
アテナとパラスと3人で、解散したギルド拠点の酒場宿に住んで暮らしていた。
元ギルド「蒼い月」の副マスター。
■ゼファー=ユイオン
汚らしい身なりの無精ひげを生やした中年男。
難病のオルファリスを気にかけ、酒場によく顔を出していた。
元ギルド「蒼い月」の幹部。
■ミカエル
超長身の謎の男。自分を大天使と名乗り、アテナと血の契約を交わす。
■アルテミス=パルティナ
束ねた栗色の髪。栗色の瞳。「群青の月姫」という異名を持つアテナの母。
かつて精鋭ぞろいのギルド「蒼い月」のギルドマスターだったが、
魔法詠唱実験で事故死する。(その後ギルドは衰退し解散。)
■アストライア=クェス
赤い短髪。赤い瞳。凛とした佇まいに華がある男勝りな女性。
ランスニュイア国の軍兵(大佐)。諜報活動が主な仕事。
アテナとの出会いに運命を感じ、生きる道を示す。
■アヤ=マキナーシブル
黒色の長髪。褐色肌。アストライアに使える使用人。
常に無表情で正面を見たまま目を合わせずに淡々と喋る長身の少女。
口調も表情も硬いが、利口で気づかいが出来る使用人として優秀な子。
■リゼット=リスタニア
2つ結びのオレンジ色の髪。八重歯がチャームポイントの可愛らしい少女。
使用人4人の中では最年少。年の割にはしっかり者で仲間想い。
使用人の先輩として、パラスに色々と教えることになる。
■フォルテシモ
アテナとパラスを襲った、死人の様な謎の青年。
~この世界に存在する4つの大国~
●北の国「ロードレー」
大陸一の軍事大国。
世界の屈強な戦士達が、1度はこの国の兵士を夢見て目指す。
絶対的身分階級制度があり、軍はもちろん、
町民にも収める税の多さによって、いくつかの身分が存在する。
その制度に逆らう者は容赦のない処罰を受け、
見せしめに街中で処刑される事も珍しくなかった。
また奴隷制度もあり、
主に身寄り無い孤児達が、最下級身分として物のように売買されている。
そんな13代目ロードレー国王が統治する厳しい階級制度だったが、
それ以外の法律は穴だらけで、その緩い法を好んで住む人々も多かった。
さらには"大国最強"という傘の元に集まる人も少なくは無い。
人口も、軍事力も、大陸一である。
●南の国「セルクシエ」
魔導士として代々、才受け継ぐ一族達が多く住む魔法大国。
その一族は古くより国兵として仕え、様々な魔法で国を守り、豊かにしてきた。
魔法の素晴らしさに魅入られた多くの世界の若者は、
この国で猛勉強をし、国公認の魔導士を目指す。
しかし魔法の才能に恵まれない者は、国を後にする他ない厳しい現実も待っていた。
セルクシエは過去、ロードレーと戦争をおこして大きな損害を受けたが、
ランスニュイア国仲介の元、なんとか協定を結び停戦。
しかし今も一触即発の状態は続いている。
●東の国「ランスニュイア」
現在アテナ達が住まう国。
科学研究、工業機器等の様々な開発・生産に長けた技術大国。
元々はセルクシエの才無き流れ者と、
ロードレーの厳しい階級制度に反対する人々で集まった山の上の小さな村であった。
その後自分達の技術をどんどんと発展させ、
急速に大国にまで成り上がった、歴史が浅い国である。
まだ小規模な国だった頃、そんな素晴らしい技術を狙うのはロードレーだった。
しかしギルド"蒼い月"の存在で手出し出来ず、
ランスニュイアが大国に発展するまで時は流れてしまう。
そんなランスニュア国王は代々、
更なる平和と、住まう民を第一に考え、
技術開発への投資で国を発展させ豊かにしてきた。
●西の国「イースルー」
国交をすべて断っている孤立した宗教国家。
通貨すらなく、生活する信者は自然と調和した原始的生活を送っている。
人口は少数だが大陸最古の国であり、灼熱の砂漠の中に存在する。
資源も少なく、そこに住まう信者の暮らしは決して豊かとはいえない。
古より伝わる神伝書や禁断魔法書など、
沢山の書を教えとして、神を崇め暮らす謎多き国である。
この世界の四大大国のひとつ、ランスニュイア。
その城下町にあるこの大きい中央通りは、
毎日ズラリと並ぶ露店や、買い物をする多くの人々で溢れて活気に満ちていた。
もちろん人込みをかき分け進む様な有様なので、
時折、窃盗や喧嘩などのトラブルが起こる事も決して少なくはない。
そう怒鳴り声をあげた商人は、
モタモタと人をかき分けながら盗人を追いかける。
その一方で少年らしき盗人は、汚らしいフードコートをヒラリと揺らし、
小柄な体格を生かして人込みをスルスルとすり抜けていった。
その追いかけっこの結果は一目瞭然。
近場で店を出していた露店商人アーテルは、
その光景を目にして頭をかきながら苦い顔を浮かべた。
そして自分の店で買い物をする、ある1人のお客と話し出す。
お客はその話を聞いて、暫く考え込む。
そして手早く買い物を済ませ、少年を追いかけるように店を去った。
商人から逃げ切った盗人の少年。
後ろを振り返りながら、隠れるように更に細い路地へと入っていく。
やがて足を止めると、腕に抱えたリンゴを息つく暇なく頬張り始めた。
しばらく夢中でリンゴを食べていたその時、
突然の背後からの声に、少年は身をビクリと震わせた。
暫く固まったまま、恐る恐るゆっくりと声の方を振り向く。
栗色の瞳と短い癖っ毛。フードコートに身を包むその小さな少女は、
しゃがんで頬杖を付きながら少年をニコニコと眺めていた。
少年は目を泳がせ、動揺しながら誤魔化そうと話し出す。
オレが買ったものを、どこで食ったっていいだろ。」
少年は再びりんごをほおばると、足早にその場を立ち去ろうとした。
するとなぜかその少女も、しつこく後をついてきて話しかけてくる。
少女の質問に一切答えず、裏路地を早歩きで進んで行く少年。
リンゴの芯を最後、口へと放り込んだ。
耐えかねた少年は立ち止まって強く言い放った。
するとその少女は、ニカっと嬉しそうに笑った。
裏路地の地面に座りこむ2人。
アテナの幼い風貌と屈託ない笑顔に、少年は少しだけ心をひらいていた。
ぎこちないながらもポツポツと会話が続く。
アテナの容姿をチラリと見ながらユズはそう答えた。
暫く会話は途絶えると、膝を抱えたアテナが再び話し出す。
家もねぇ。俺はロードレーから逃げてきたんだ。」
ユズは舌打ちをして皮肉を言う。
恵まれたヤツには難しい話だったな!くそが!!!」
何気ない話から、唐突にされたまじめな質問。
ユズは歯を食いしばり、着ているフードで顔を隠しながら答えた。
生きてりゃ腹は減るんだ。。。こうするしかねぇだろうが…。」
アテナは口をヘの字に曲げ、涙ぐむ顔を隠すユズを黙って見つめていた。
また暫く会話が途切れたその時、
突然背後から男の太い腕が伸びて、ユズのフードコートをガッシリと掴んだ。
そしてそのまま体ごと持ち上げられる。
その男は、先程ユズにリンゴを盗まれて追いかけていた商人だった。
捕まったユズは、手足をバタつかせて逃れようとする。男はユズの頭を掴み、地面へと押さえつけた。
そして背中に乗りかかり、ユズの細い腕を徐々に締め上げていく。
近くでその様子を見ていたアテナへ、
ユズは鋭い眼光を向けて、大声で言い放った。
アテナは立ち上がり、コートのポケットから銅貨をジャラリと取り出す。
そしてその銅貨を、ユズを拘束する商人の男へ差し出した。
男はアテナの掌にある銅貨をチラリとみると、
鼻で笑い、拘束したユズの手をさらに締め上げる。
そして近寄ったアテナを突き飛ばすと、
アテナは地面へ倒れ込み、銅貨は地面にバラバラとまき散らされた。
商人の男は腕に力を入れ、ユズの腕を逆関節へと回した。
ユズは目をつぶり大声をあげた。
がしかし、暫くしても痛みがやってくる事はなかった。
それどころか締め上げられた腕が、どんどんと緩んでいく。
状況が掴めず振り返ると、
男の腕をギリリと掴み、アテナがその行為を止めていたのだった。
見た目から想像できる、か弱いはずの少女の握力。
しかし実際、アテナに腕を掴まれた男は顔をゆがめて青ざめていた。
男の腕に激痛が走る。
アテナが恐ろしくなった男は、喉を鳴らしてユズの腕を離した。
そしてアテナに掴まれた腕を払いのける。
アテナは地面に散らばった銅貨を拾い集め、再び男に差し出すと、
男はアテナの銅貨を奪いとり、舌打ちして足早に去っていった。
それから暫くの間、恐怖でその場に座り込んでいたユズ。
男が居なくなった後に我に返り、無言でその場所を逃げるように走り去っていった。
ランスニュイア城。小さな一角である此処は、
アストライア大佐が前国王から、生活をする為に借り受けた場所である。
帰城したアテナは居間の扉をソロリと開けた。
門限は守れたものの、遅れて未だ夕食の準備に取り掛かれていない最悪の状況。
アテナは食堂を通り抜け、厨房をこっそり覗き込んだ。
するとスープを味見するアヤが、すでに料理を作りこんでいる。
すると・・・
鍋のスープをかきまぜながら、アヤはそう言葉を発した。
アテナは物音を立てた訳でもなく、
かといってアヤがこちらを振り向いた訳でもない。
なのに何故か居るのがバレている…。
ますます混乱するアテナ。
しかしもう笑って誤魔化しながら、厨房へ入る事にした。
表情を見せる事が苦手なアヤは、いつも無表情で会話をする。
浅黒い肌、艶やかな黒髪は背中まで伸び、
少女と呼ぶには少し似合わない、美しい容姿へと成長していた。
買い物袋を置き、肩を落としてトボトボと浴場へ向かおうとするアテナ。
アヤはその袋を広げると、何かに気が付いてアテナに問いかけた。
リンゴ代に使ったなんて言えるわけがなかった。
アテナは冷や汗を垂らしながら答える。今日は全員が揃う食卓。
食事前に祈りをささげるのも慣れたアテナ。
食事をとらないアテナだったが、皆と楽しく会話できるこのひと時が大好きだった。