episode:13
文字数 6,203文字
ギルド『蒼い月』
この世界の四大大国のひとつ、東の国「ランスニュイア」の国家公認ギルド。
その戦力は1国と渡り合えるほどの戦力を持っていた。
ギルドマスター「アルテミス」の死後、ギルドは衰退し解散する。
拠点だった酒場宿には、最後のギルドメンバーの1人「オルファリス」が、
アルテミスの子「アテナ」と、戦災孤児で引き取った「パラス」の
2人の少女と一緒に慎ましく暮らしていた。
ある日、助けを求める不思議な声のもとへ、夜中部屋を抜け出し向かう少女たち。
その人物は光る羽根を生やした、大天使なる存在「ミカエル」であった。
ミカエルは捕らわれた場所から解放してくれた礼として、
パラスには「亡くなった両親へいつか逢わせる事」約束し、
アテナには「パラスの夢を叶える為のチカラ」を授けた。
"血の契約"
そしてミカエルは二人へ忠告する。「この村を離れるように」と。
2人は忠告通り、急いで村を飛び出して山を登る。
振り返ると、彼女たちの育ったエンドラの村は業火に覆われて焼かれていた。
何もかもを失った2人。
衰弱したパラスを背負い、数日山を登るアテナ。
2人はその後、ランスニュイアの女軍兵「アストライア」に保護される。
そしてその者の使用人として働きながら学び、国の兵を目指すことになった。
生きてゆくために始まる新しい生活。
それから数年の時が流れた…。
~登場人物~
■アテナ=パルティナ
栗色くせっ毛の短い髪。栗色の瞳。男の子みたいな容姿をした少女。
事故死したギルド「蒼い月」のギルドマスター、アルテミスの一人娘。
活発で行動的だが、お馬鹿でお調子者。パラスが大好き。
■パラス=ルイアーナ
長くまっすぐ伸びた金色の髪。真っ白い肌。人形の様な可愛らしい容姿の少女。
戦災孤児となった後、ギルド「蒼い月」の幹部ゼファに拾われる。
時折我儘な面もあるが、人の話をよく聞く優等生。アテナが大好き。
■オルファリス=ルアイル
薄氷のような美しい容姿。青色の長髪。青色の瞳。難病を患った女性。
アテナとパラスと3人で、解散したギルド拠点の酒場宿に住んで暮らしていた。
元ギルド「蒼い月」の副マスター。
■ゼファー=ユイオン
汚らしい身なりの無精ひげを生やした中年男。
難病のオルファリスを気にかけ、酒場によく顔を出していた。
元ギルド「蒼い月」の幹部。
■ミカエル
超長身の謎の男。自分を大天使と名乗り、アテナと血の契約を交わす。
■アルテミス=パルティナ
束ねた栗色の髪。栗色の瞳。「群青の月姫」という異名を持つアテナの母。
かつて精鋭ぞろいのギルド「蒼い月」のギルドマスターだったが、
魔法詠唱実験で事故死する。(その後ギルドは衰退し解散。)
■アストライア=クェス
赤い短髪。赤い瞳。凛とした佇まいに華がある男勝りな女性。
ランスニュイア国の軍兵(大佐)。諜報活動が主な仕事。
アテナとの出会いに運命を感じ、生きる道を示す。
■アヤ=マキナーシブル
黒色の長髪。褐色肌。アストライアに使える使用人。
常に無表情で正面を見たまま目を合わせずに淡々と喋る長身の少女。
口調も表情も硬いが、利口で気づかいが出来る使用人として優秀な子。
■リゼット=リスタニア
2つ結びのオレンジ色の髪。八重歯がチャームポイントの可愛らしい少女。
使用人4人の中では最年少。年の割にはしっかり者で仲間想い。
使用人の先輩として、パラスに色々と教えることになる。
■フォルテシモ
アテナとパラスを襲った、死人の様な謎の青年。
~この世界に存在する4つの大国~
●北の国「ロードレー」
大陸一の軍事大国。
世界の屈強な戦士達が、1度はこの国の兵士を夢見て目指す。
絶対的身分階級制度があり、軍はもちろん、
町民にも収める税の多さによって、いくつかの身分が存在する。
その制度に逆らう者は容赦のない処罰を受け、
見せしめに街中で処刑される事も珍しくなかった。
また奴隷制度もあり、
主に身寄り無い孤児達が、最下級身分として物のように売買されている。
そんな13代目ロードレー国王が統治する厳しい階級制度だったが、
それ以外の法律は穴だらけで、その緩い法を好んで住む人々も多かった。
さらには"大国最強"という傘の元に集まる人も少なくは無い。
人口も、軍事力も、大陸一である。
●南の国「セルクシエ」
魔導士として代々、才受け継ぐ一族達が多く住む魔法大国。
その一族は古くより国兵として仕え、様々な魔法で国を守り、豊かにしてきた。
魔法の素晴らしさに魅入られた多くの世界の若者は、
この国で猛勉強をし、国公認の魔導士を目指す。
しかし魔法の才能に恵まれない者は、国を後にする他ない厳しい現実も待っていた。
セルクシエは過去、ロードレーと戦争をおこして大きな損害を受けたが、
ランスニュイア国仲介の元、なんとか協定を結び停戦。
しかし今も一触即発の状態は続いている。
●東の国「ランスニュイア」
現在アテナ達が住まう国。
科学研究、工業機器等の様々な開発・生産に長けた技術大国。
元々はセルクシエの才無き流れ者と、
ロードレーの厳しい階級制度に反対する人々で集まった山の上の小さな村であった。
その後自分達の技術をどんどんと発展させ、
急速に大国にまで成り上がった、歴史が浅い国である。
まだ小規模な国だった頃、そんな素晴らしい技術を狙うのはロードレーだった。
しかしギルド"蒼い月"の存在で手出し出来ず、
ランスニュイアが大国に発展するまで時は流れてしまう。
そんなランスニュア国王は代々、
更なる平和と、住まう民を第一に考え、
技術開発への投資で国を発展させ豊かにしてきた。
●西の国「イースルー」
国交をすべて断っている孤立した宗教国家。
通貨すらなく、生活する信者は自然と調和した原始的生活を送っている。
人口は少数だが大陸最古の国であり、灼熱の砂漠の中に存在する。
資源も少なく、そこに住まう信者の暮らしは決して豊かとはいえない。
古より伝わる神伝書や禁断魔法書など、
沢山の書を教えとして、神を崇め暮らす謎多き国である。
ランスニュイアの城下町。
アテナはアストライアの言いつけ通り、
メモに書かれた品物を手に入れて、皆の待つ馬車へ戻ろうとしていた。
辺りはすっかり日が落ちて、街は夜のにぎわいを見せていく。
アテナは時刻を気にして、足早に酒場の通りを抜けていった。
一日の仕事を酒で癒そうとする、大勢の男達が群がる。
するとアテナの向かい側から、
人の群れどかしながら馬に乗った小団体がやってきた。
先を急ぐとはいえ、馬にひかれないようにアテナも道を開ける。
するとその団体を眺めていた近くの男が、一緒の連れと会話を始めた。
会話をしていた男達の前に無理やり割り込んだ。
見覚えのあるボロボロのフードコート。
首、手足に付けられた拘束具。顔は暗くて見えなかったものの、
アテナは馬に乗せられて揺れる、ユズらしき姿を見つけた。
その声に、ユズは首の鎖を鳴らして振りかえった。
しかしその顔は助けを乞うというよりも、すべてに絶望している様子だった。
団体が通り過ぎると、やじ馬達が小声で会話をする。
やっぱりロードレーはろくでもねぇよ。」
過ぎ去ろうとする団体を見つめ、
ユズの身を案じたアテナは、その団体を追いかけて走り出した。
団体は酒場通りを抜けた後、人通り少ない川沿いの道をゆく。
更に先の住宅区を過ぎていくと、やがて街外れとやってきた。
アテナはしばらく様子を伺って追いかけていたが、
このままでは埒が明かないので、団体の1人に声をかけた。
団体は一斉に手綱を引いて馬を止める。
すると最後尾の男は、アテナを馬から見下ろし口を開いた。
そんなやり取りをする中、
足止めをくっているこの状況を耐えかねた肥えた男が、
列の前方から馬を降りてノシノシとアテナの元へ近づいてきた。
話を聞いたのち、更にアテナを威圧するように近づく。
あいつはうちの大事な商品。逃げ出してから行方を追っていたのだよ。」
アテナはたじろぎながら、ナバールに言葉を返す。
これからロードレーに連れ帰る所だ。先を急ぐから邪魔しないでくれ。」
最高に面倒くさそうな顔を浮かべるナバール。
やがて何かに気が付いたように、手持ちのランプを掲げてアテナの顔を照らした。
その質問にアテナが小さく頷くと、
ナバールは目を細め、笑みを浮かべながら上唇に舌を這わした。
アテナ、君も一緒にロードレーのわしの屋敷に来たらいい!!!」
「一緒にくれば不自由はさせないぞ?わしは稼げている商人だからねえ!
身分も上位。わしのモノになってくれたら、君は幸せに暮らせる。///」
誘いを何度も断られ、プライドを傷つけられたナバール。
ひくにひけなくなった上に、アテナの容姿をとても気に入ってしまっていた。
どうしたらアテナをうまく連れていけるか?舌打ちをして知恵を振り絞る。
その時、ナバールは悪知恵を思いつく。
アテナの言葉へ、臭い芝居をうって返答した。
わしも心を痛めている!なんとかできるならそりゃ助けたい!」
もし引き渡せない場合、違約金を支払わないといけない。カネだよ金。」
ナバールは眉をしかめて思わずミスをつっこんだ。
銀貨だと18、000枚、銅貨だと108、000枚だ!」
「そうだろう?しかし可愛いアテナの願い、わしも叶えてやりたい!
そこで皆が幸せになれる、素晴らしい提案がある。聞いてくれるか?」
笑みを浮かべつつ、耳元で囁くように話を続けた。
その金、立て替えてやってもいい。」
可愛らしいメイド服を用意しよう!欲しいものも沢山買ってやる!」
アテナは後ろを振り返り、アストライアが待つ方角を眺めた。
そして拘束された動かないユズを見つめ、考え込む。
あと一押し。そう考えたナバールは追い込みをかけた。
更に客は金を手に入れ、ユズ君は自由! 皆がハッピーになれる!!!」
迫られた提案。暫く応じる事を迷っている様子のアテナ。
次第にナバールは苛立ちを見せ始め、その場で地団駄を踏んだ。
もし自分が断れば、ユズはどうなってしまうだろう?
アテナはもう一度、拘束されたユズの姿を見つめた。
しかし帰りを待つ皆の顔が頭によぎると、ようやくナバールへ答えを出した。
わしが後日、話をつけに行ってやる。」
耐えかねたナバールは表情を変えて本性をさらけ出してゆく。
すると金で雇われた強そうな男達が大勢、馬から降りてアテナを取り囲む。
アテナは混乱したまま、状況がつかめず身構える。
すると詰め寄る男の1人が、ナバールへ大声を出してアテナへ飛びかかった。
そのナバールの言葉に、男達は我も我もとアテナへ一斉に飛びかかる。
全身を掴まれ、地面に押し付けられて拘束されるアテナ。
ようやく状況を理解して抵抗を始めた。
その時アテナの右腕を掴んだ1人の男が、その意外な力に振り払われる。
男達はその出来事を目の当たりにすると、更に全力でアテナを押さえつけた。
アテナは自由になった右手を使い、
自身の頭を押さえつける手を力いっぱい掴んで引き離そうとした。
アテナは足をばたつかせ、足を掴んだ男の腹を蹴り上げる。
そして更に後ろの男達諸共、吹っ飛ばした。
男の1人がアテナの剛力に恐れを抱き、
弱らせようと背中を思い切り踏みつける。
すると鈍い音と共に、アテナは息苦しそうにして気を失った。
すぐさまナバールは、その一撃を加えた男の背中をドンと叩いて注意する。
気を失ったまま拘束具をつけられたアテナ。
ナバールはその小さな身体を抱きかかえ馬にのせると、頬を愛おしそうに摩った。
私の屋敷でたっぷりと可愛がってやるからな…アテナ。」