episode:12
文字数 7,242文字
ギルド『蒼い月』
この世界の四大大国のひとつ、東の国「ランスニュイア」の国家公認ギルド。
その戦力は1国と渡り合えるほどの戦力を持っていた。
ギルドマスター「アルテミス」の死後、ギルドは衰退し解散する。
拠点だった酒場宿には、最後のギルドメンバーの1人「オルファリス」が、
アルテミスの子「アテナ」と、戦災孤児で引き取った「パラス」の
2人の少女と一緒に慎ましく暮らしていた。
ある日、助けを求める不思議な声のもとへ、夜中部屋を抜け出し向かう少女たち。
その人物は光る羽根を生やした、大天使なる存在「ミカエル」であった。
ミカエルは捕らわれた場所から解放してくれた礼として、
パラスには「亡くなった両親へいつか逢わせる事」約束し、
アテナには「パラスの夢を叶える為のチカラ」を授けた。
"血の契約"
そしてミカエルは二人へ忠告する。「この村を離れるように」と。
2人は忠告通り、急いで村を飛び出して山を登る。
振り返ると、彼女たちの育ったエンドラの村は業火に覆われて焼かれていた。
何もかもを失った2人。
衰弱したパラスを背負い、数日山を登るアテナ。
2人はその後、ランスニュイアの女軍兵「アストライア」に保護される。
そしてその者の使用人として働きながら学び、国の兵を目指すことになった。
生きてゆくために始まる新しい生活。
それから数年の時が流れた…。
~登場人物~
■アテナ=パルティナ
栗色くせっ毛の短い髪。栗色の瞳。男の子みたいな容姿をした少女。
事故死したギルド「蒼い月」のギルドマスター、アルテミスの一人娘。
活発で行動的だが、お馬鹿でお調子者。パラスが大好き。
■パラス=ルイアーナ
長くまっすぐ伸びた金色の髪。真っ白い肌。人形の様な可愛らしい容姿の少女。
戦災孤児となった後、ギルド「蒼い月」の幹部ゼファに拾われる。
時折我儘な面もあるが、人の話をよく聞く優等生。アテナが大好き。
■オルファリス=ルアイル
薄氷のような美しい容姿。青色の長髪。青色の瞳。難病を患った女性。
アテナとパラスと3人で、解散したギルド拠点の酒場宿に住んで暮らしていた。
元ギルド「蒼い月」の副マスター。
■ゼファー=ユイオン
汚らしい身なりの無精ひげを生やした中年男。
難病のオルファリスを気にかけ、酒場によく顔を出していた。
元ギルド「蒼い月」の幹部。
■ミカエル
超長身の謎の男。自分を大天使と名乗り、アテナと血の契約を交わす。
■アルテミス=パルティナ
束ねた栗色の髪。栗色の瞳。「群青の月姫」という異名を持つアテナの母。
かつて精鋭ぞろいのギルド「蒼い月」のギルドマスターだったが、
魔法詠唱実験で事故死する。(その後ギルドは衰退し解散。)
■アストライア=クェス
赤い短髪。赤い瞳。凛とした佇まいに華がある男勝りな女性。
ランスニュイア国の軍兵(大佐)。諜報活動が主な仕事。
アテナとの出会いに運命を感じ、生きる道を示す。
■アヤ=マキナーシブル
黒色の長髪。褐色肌。アストライアに使える使用人。
常に無表情で正面を見たまま目を合わせずに淡々と喋る長身の少女。
口調も表情も硬いが、利口で気づかいが出来る使用人として優秀な子。
■リゼット=リスタニア
2つ結びのオレンジ色の髪。八重歯がチャームポイントの可愛らしい少女。
使用人4人の中では最年少。年の割にはしっかり者で仲間想い。
使用人の先輩として、パラスに色々と教えることになる。
■フォルテシモ
アテナとパラスを襲った、死人の様な謎の青年。
~この世界に存在する4つの大国~
●北の国「ロードレー」
大陸一の軍事大国。
世界の屈強な戦士達が、1度はこの国の兵士を夢見て目指す。
絶対的身分階級制度があり、軍はもちろん、
町民にも収める税の多さによって、いくつかの身分が存在する。
その制度に逆らう者は容赦のない処罰を受け、
見せしめに街中で処刑される事も珍しくなかった。
また奴隷制度もあり、
主に身寄り無い孤児達が、最下級身分として物のように売買されている。
そんな13代目ロードレー国王が統治する厳しい階級制度だったが、
それ以外の法律は穴だらけで、その緩い法を好んで住む人々も多かった。
さらには"大国最強"という傘の元に集まる人も少なくは無い。
人口も、軍事力も、大陸一である。
●南の国「セルクシエ」
魔導士として代々、才受け継ぐ一族達が多く住む魔法大国。
その一族は古くより国兵として仕え、様々な魔法で国を守り、豊かにしてきた。
魔法の素晴らしさに魅入られた多くの世界の若者は、
この国で猛勉強をし、国公認の魔導士を目指す。
しかし魔法の才能に恵まれない者は、国を後にする他ない厳しい現実も待っていた。
セルクシエは過去、ロードレーと戦争をおこして大きな損害を受けたが、
ランスニュイア国仲介の元、なんとか協定を結び停戦。
しかし今も一触即発の状態は続いている。
●東の国「ランスニュイア」
現在アテナ達が住まう国。
科学研究、工業機器等の様々な開発・生産に長けた技術大国。
元々はセルクシエの才無き流れ者と、
ロードレーの厳しい階級制度に反対する人々で集まった山の上の小さな村であった。
その後自分達の技術をどんどんと発展させ、
急速に大国にまで成り上がった、歴史が浅い国である。
まだ小規模な国だった頃、そんな素晴らしい技術を狙うのはロードレーだった。
しかしギルド"蒼い月"の存在で手出し出来ず、
ランスニュイアが大国に発展するまで時は流れてしまう。
そんなランスニュア国王は代々、
更なる平和と、住まう民を第一に考え、
技術開発への投資で国を発展させ豊かにしてきた。
●西の国「イースルー」
国交をすべて断っている孤立した宗教国家。
通貨すらなく、生活する信者は自然と調和した原始的生活を送っている。
人口は少数だが大陸最古の国であり、灼熱の砂漠の中に存在する。
資源も少なく、そこに住まう信者の暮らしは決して豊かとはいえない。
古より伝わる神伝書や禁断魔法書など、
沢山の書を教えとして、神を崇め暮らす謎多き国である。
その城の小さな一角である此処は、
アストライアが前国王から、生活をする為に借り受けた場所である。
時間は午後を回ろうとした頃。
アストライアの仕事部屋を訪れようと、
当番である使用人のパラスが、部屋の扉をノックした。
難しそうな本がビッチリと棚へ並ぶアストライアの仕事部屋。
机に積もる書類を片付けながら、アストライアはパラスへそう返事をした。
静かに扉を開け、丁寧に会釈をしてパラスは室内へ入る。
元々勉強熱心で、分からない事を分かるまで調べる性格のパラス。
使用人の中で一番、このようなやりとりをするのは彼女だった。
アストライアは丁寧にパラスの質問に答えると、
すぐに理解したパラスは、嬉しそうに本を抱きしめてお礼を言った。
ふわふわと外の風が窓からそよぐアテナとアヤの寝室。
アヤは机に向かって静かに本を読んでいた。
一方のアテナはベッドの上。寝相でグシャグシャになったシーツに包まり、
上着からむき出しになった腹をボリボリとかいて眠っていた。
パラスは部屋に入り、アストライアに言われた事をアヤへと伝える。
そんなアテナのベタなボケを、見事にスーパースルーするアヤ。
クローゼットを開いて、パラスの為にいくつか服を取り出しながら話し出す。
無理やり笑顔を取り繕って、会話に割って入る。
そして部屋の扉を閉めた後、
暫くの間ドアノブに手をかけたまま、心にチクチクと刺す痛みに耐えていた。
アテナは案の定、目を輝かせて声を張り上げた。
こうしてアテナ以外が余所行きの服へと着替え、
出かける支度を整えたアストライア一行。
城で手配した馬車に乗り込むと、アストライアは手綱を握った。
そして城門をくぐり、いつもの丘を下って城下町へと向かっていく。
アテナは車体の窓にかじりつき、
落ち着きなく外の景色を眺めてはしゃいでいた。
アテナのハイテンションとは対照的に、元気がないパラス。
様子がおかしい事に気が付いたリゼットは、明るい話題を振った。
そんなリゼットの話題にも、
パラスは複雑な顔を浮かべ、フイっと顔を背けた。
アテナは様子のおかしいパラスが、気掛かりになっていく。
暫くしてアストライアが手綱をひくと、
馬車が止まり、城下町のとあるレストランへと辿り着く。
全員が馬車から降りると、アストライアは全員に1つだけ約束事を作った。
アヤはアテナの身なりへと目を移し、気まずそうに発言した。
いつもの買い出し時に羽織るフードコート。
その姿でやってきたアテナは顔を引きつらせて答えた。
アテナはお金とメモを手渡されると、一人ぽつんと馬車の前に残された。
皆が店へ進んで行くのを、ずっと悲しそうに眺めている。
パラスは気まずそうに、アテナをチラチラ振り返りながら、
アストライア達へとついて行った。
レストラン入口へとやってきたアテナ以外の4人。
中から受付人が扉を開け、丁寧に出迎えた。
使用人3人は、まったく同じ言葉を飲み込んだ。
するとアストライアは優雅に口元を扇で隠し、その挨拶に返事を返した。
またもや3人は、目を見開いて同じ言葉を飲み込んだ。
アテナは手渡されたメモを握りしめ、
不満げな顔でトボトボといつもの露店広場へとやってきた。
そう口を尖らせて不満をつぶやくと、
いつもの見慣れたアーテルの露店へと辿り着く。
アーテルはアテナに気が付くと、パン!と手を叩いて出迎えた。
アテナは買い物メモをポケットから取り出すと、
それをアーテルへと手渡した。
2人笑ってそんな会話を楽しんだ。
アーテルは手渡されたメモを見て品物を用意する。
そしてもう一つ、ずっと気掛かりだった事をアーテルへ尋ねる。
その後"街外れの鍛冶屋"を目指し、手を振ってアーテルの店を後にした。
まだ見たことのない景色を見渡しながら、
アーテルの教えてくれた道順通り進んだアテナは、
無事にようやく街外れの鍛冶屋へとたどり着いた。
店の裏庭には大量の洗濯物が干してあり、生活感が漂う。
アテナが入口の扉に手をかけたその時、中から女性の怒鳴り声が聞こえてきた。
うちだって生活かかってんだよ!!」
しょうがないだろ!酒場のじいさんの頼みなんだから!」
店の中から色んな物が割れる音がする。
バリンと凄い音が鳴るたび、アテナは肩をすぼめた。
アテナは喉を鳴らし、覚悟を決めて店の扉を開けた。
すると来客を知らせるベルが綺麗な音を鳴らす。
目の前で取っ組み合いになっている夫婦と目が合う。
店主はアテナの来店に救われて、ほっとした表情で出迎えた。
主人は驚いた様子でアテナの顔をジっと見つめる。
夫人は邪魔にならないように店の奥へと戻っていった。
店主はホコリまみれの小さな箱を持ってくると、
蓋を開けようとした手を止め、思い悩んでいる様子だった。
アテナはキョトンと首をかしげる。
このメモに書いてあるのは恐らくこれの事だ。」
箱の中から出てきたのは、輝く宝石を施した腕輪。
磨いてはあるが、使い古した傷だらけの代物だった。
アテナは腕輪を受け取り、店主へ代金を支払った。
用事も済んで、お礼を言って店から出ようとすると、
去り際に店主に声をかけられた。
駆け足でアストライア達の元へと向かっていくのだった。
アテナの去った後、暫く経った夕暮れ時の鍛冶屋店内。
ボンは夕日が差し込む窓の近くで、久しぶり煙草を取り出し火をつけた。
そして懐かしい香りをしみじみと感じながら煙を吐くと、
忘れられない、楽しかった昔の記憶を鮮明に蘇らせる。