episode:7

文字数 5,849文字


ギルド『蒼い月』


この世界の四大大国のひとつ、東の国「ランスニュイア」の国家公認ギルド。

その戦力は1国と渡り合えるほどの戦力を持っていた。

ギルドマスター「アルテミス」の死後、ギルドは衰退し解散する。


拠点だった酒場宿には、最後のギルドメンバーの1人「オルファリス」が、

アルテミスの子「アテナ」と、戦災孤児で引き取った「パラス」の

2人の少女と一緒に慎ましく暮らしていた。


ある日、助けを求める不思議な声のもとへ、夜中部屋を抜け出し向かう少女たち。

その人物は光る羽根を生やした、大天使なる存在「ミカエル」であった。


ミカエルは捕らわれた場所から解放してくれた礼として、

パラスには「亡くなった両親へいつか逢わせる事」約束し、

アテナには「パラスの夢を叶える為のチカラ」を授けた。


"血の契約"


そしてミカエルは二人へ忠告する。「この村を離れるように」と。

2人は忠告通り、急いで村を飛び出して山を登る。

振り返ると、彼女たちの育ったエンドラの村は業火に覆われて焼かれていた。


何もかもを失った2人。


衰弱したパラスを背負い、数日山を登るアテナ。
2人はその後、ランスニュイアの女軍兵「アストライア」に保護される。
そしてその者の使用人として働きながら学び、国の兵を目指すことになった。

生きてゆくために始まる新しい生活。

しかしアテナはミカエルとの血の契約後から、食欲がまったくわかなくなる。


食べなくても平気な奇妙な身体。


そしてついに、自分の体の異変やミカエルとの出来事を全て、

アストライアへ打ち明けたのだった。


~登場人物~


■アテナ=パルティナ

栗色くせっ毛の短い髪。栗色の瞳。男の子みたいな容姿をした少女。

事故死したギルド「蒼い月」のギルドマスター、アルテミスの一人娘。

活発で行動的だが、お馬鹿でお調子者。パラスが大好き。


■パラス=ルイアーナ

長くまっすぐ伸びた金色の髪。真っ白い肌。人形の様な可愛らしい容姿の少女。

戦災孤児となった後、ギルド「蒼い月」の幹部ゼファに拾われる。

時折我儘な面もあるが、人の話をよく聞く優等生。アテナが大好き。


■オルファリス=ルアイル

薄氷のような美しい容姿。青色の長髪。青色の瞳。難病を患った女性。

アテナとパラスと3人で、解散したギルド拠点の酒場宿に住んで暮らしていた。

元ギルド「蒼い月」の副マスター。


■ゼファー=ユイオン

汚らしい身なりの無精ひげを生やした中年男。

難病のオルファリスを気にかけ、酒場によく顔を出していた。

元ギルド「蒼い月」の幹部。


■ミカエル

超長身の謎の男。自分を大天使と名乗り、アテナと血の契約を交わす。


■アルテミス=パルティナ

束ねた栗色の髪。栗色の瞳。「群青の月姫」という異名を持つアテナの母。

かつて精鋭ぞろいのギルド「蒼い月」のギルドマスターだったが、

魔法詠唱実験で事故死する。(その後ギルドは衰退し解散。)


■アストライア=クェス

赤い短髪。赤い瞳。凛とした佇まいに華がある男勝りな女性。

ランスニュイア国の軍兵(大佐)。諜報活動が主な仕事。

アテナとの出会いに運命を感じ、生きる道を示す。


■アヤ=マキナーシブル

黒色の長髪。褐色肌。アストライアに使える使用人。

常に無表情で正面を見たまま目を合わせずに淡々と喋る長身の少女。

口調も表情も硬いが、利口で気づかいが出来る使用人として優秀な子。


■リゼット=リスタニア
2つ結びのオレンジ色の髪。八重歯がチャームポイントの可愛らしい少女。
使用人4人の中では最年少。年の割にはしっかり者で仲間想い。
使用人の先輩として、パラスに色々と教えることになる。


この世界には4つの大国が存在する。

北の国 "ロードレー"

大陸一の軍事大国。
世界の屈強な戦士達が、1度はこの国の兵士を夢見て目指す。

絶対的身分階級制度があり、軍はもちろん、
町民にも収める税の多さによって、いくつかの身分が存在する。
その制度に逆らう者は容赦のない処罰を受け、

見せしめに街中で処刑される事も珍しくなかった。


また奴隷制度もあり、

主に身寄り無い孤児達が、最下級身分として物のように売買されている。


そんな13代目ロードレー国王が統治する厳しい階級制度だったが、
それ以外の法律は穴だらけで、その緩い法を好んで住む人々も多かった。


さらには"大国最強"という傘の元に集まる人も少なくは無い。
人口も、軍事力も、大陸一である。


南の国 "セルクシエ"

魔導士として代々、才受け継ぐ一族達が多く住む魔法大国。

その一族は古くより国兵として仕え、様々な魔法で国を守り、豊かにしてきた。


魔法の素晴らしさに魅入られた多くの世界の若者は、

この国で猛勉強をし、国公認の魔導士を目指す。

しかし魔法の才能に恵まれない者は、国を後にする他ない厳しい現実も待っていた。


セルクシエは過去、ロードレーと戦争をおこして大きな損害を受けたが、

ランスニュイア国仲介の元、なんとか協定を結び停戦。

しかし今も一触即発の状態は続いている。


東の国 "ランスニュイア"

現在アテナ達が住まう国。

科学研究、工業機器等の様々な開発・生産に長けた技術大国。


元々はセルクシエの才無き流れ者と、

ロードレーの厳しい階級制度に反対する人々で集まった山の上の小さな村であった。

その後自分達の技術をどんどんと発展させ、

急速に大国にまで成り上がった、歴史が浅い国である。

まだ小規模な国だった頃、そんな素晴らしい技術を狙うのはロードレーだった。
しかしギルド"蒼い月"の存在で手出し出来ず、

ランスニュイアが大国に発展するまで時は流れてしまう。

そんなランスニュア国王は代々、
更なる平和と、住まう民を第一に考え、

技術開発への投資で国を発展させ豊かにしてきた。


西の国 "イースルー"

国交をすべて断っている孤立した宗教国家。
通貨すらなく、生活する信者は自然と調和した原始的生活を送っている。

人口は少数だが大陸最古の国であり、灼熱の砂漠の中に存在する。
資源も少なく、そこに住まう信者の暮らしは決して豊かとはいえない。


古より伝わる神伝書や禁断魔法書など、
沢山の書を教えとして、神を崇め暮らす謎多き国である。

エンドラの村跡地。


ランスニュイア地域に属する、アテナとパラスのふるさと。小さな田舎村。
アストライアは1人でその地を訪れていた。

痛々しく焼け崩れた家が並ぶ道を、見渡しながら進んで行く。
暫くすると村の奥、昨夜アテナの言っていた"白い建物"の前へと辿り着いた。

「ここか・・・村もひどいが、この建物の損傷が一番ひどいな。」
地下施設ごと爆破されたような酷い損傷。
瓦礫に混じり、飛び散ったガラス片はあるものの、

何者かが掃除をしたような跡も残っていた。


アストライアは書面を広げ、口に手をあて確認する。

「ここは化学研究工場の届け出だな・・・。一体、何の研究をしていたんだ?」
更なる情報を探りに、

アストライアが研究所の中へ足を踏み入れようとしたその時、

地面に散らばったガラス片に影がユラリと映った。


アストライアは足を止め、剣に手をかける。

「誰かいるのか?」
その問いに返事はなく、わずかの時が流れた。
「気のせい・・・か?」
アストライアは何とも言えぬ気味の悪さを感じていた。
剣に伸ばした手の平がジワリと汗ばむ。
過去何度も殺気渦巻く修羅場を潜り抜けた直感が、危険だと言っていた。

張り詰めた空気の中、風の音に混じり、虫の羽音が聞こえる。
アストライアは身構えたまま、ジリジリと瓦礫の中へ歩を進めた。

暫く進んだその時、

当初は気にも留めなかったその虫の羽音が、
突然ありえないほどの大きい音を出して背後から近づいてくる。
アストライアは振り向きざまに、高速で背後に太刀をふるった。
ガキンと固いものを斬った手ごたえ。何かがバウンドして転げ落ちた。

その羽音の正体に恐る恐る近づくと、突然それは甲高い叫び声を発する。


アストライアはその正体を目にして更に驚いた。

そこには人間の頭部くらいある見たこともない巨大昆虫が、

ワシャワシャと気色悪くもがき苦しんでいたからだ。

「!?こいつは一体!!?;;」
戸惑いながら思考を巡らせている隙に、

巨大昆虫はひっくり返った自分をばたつき起こし、
目にも止まらぬ速さでアストライアへ飛びかかる。

剣が間に合わず、アストライアはとっさに右の利き腕で払いのけようとするが、
その奇怪な昆虫は腕にしがみつき、服ごと腕の肉を噛み千切りだした。

一瞬の出来事だった。状況を把握すると同時に右腕に激痛が走りだす。

アストライアは噛みついたままの昆虫の背を逆の手で掴み、
自分の肉ごとブチブチと引きはがすと、宙へと放り投げた。
そして昆虫が地面に着地する前に、俊足の剣をブスリと突き刺す。

突き刺された昆虫は再び奇怪な声を発すると、
もがき苦しみ、次第にその動きが鈍くなって絶命した。

剣を握る腕から、大量の血がボタボタと流れている。
アストライアは負傷した腕を押さえ、その場に膝をついた。
「っく・・・。とりあえずこの生物を持って城へ・・・。」
突き刺したはずの剣先を見ると、謎の生物は黒い灰となり風に散り消えていく。

アストライアは手がかりを得ぬまま、城へ帰還する事にした。

「エンドラの村が焼け落ちた原因・・・いまの生物と何か関係があるのか・・・?」
ランスニュイア城。

謹慎がとけたアテナは当番の合間、

気晴らしに見晴らしのいい城壁の上へとこっそりやってきた。


窓とはまた違うこの絶景に、風に吹かれて歩きながら魅入られていると、
城への用事で門に並ぶ、荷物を抱えた町民達が小さく見えた。

「へー。お城にはいっぱい人が来るんだなー・・・。」
短身のアテナ。つま先立ちで首を伸ばし、城壁の下を眺めると、

何やら城門の方で慌ただしく門兵が騒ぎ出す。


何事か確認は出来なかったが、暫く様子を伺っていると、
突然背後から誰かが声をかけてきた。

「こら!ここは一般人立ち入り禁止だぞ!」
見張りの兵だと焦ったアテナは、手を滑らせバランスを崩した。
「あわ!わわわわわ;;;」
「危ない!」
落ちそうになったアテナの腕を、その人物はとっさに掴んで事無き事を得た。
「ご・・・ごめんなさい!すぐ降ります;;;」
「…なんちゃってねwボクは兵じゃないから安心して。

 君は街の子?こんな所に居たら本当の門兵に怒られちゃうよ?」

兵とは明らかに違う身なり。青年はあどけなくそう笑顔で答えた。

アテナはほっと胸をなでおろす。

「私はアス・・・偉い人の使用人!あなたは?」
「僕はここの・・・」
少年は言葉に詰まった様子でしばらく沈黙し、言葉を続けた。
「・・・この城、専属の開発者だよ。」
アテナはその少年の話を首をかしげて返答する。
「開発者?なにか作ってるの?」
少年は空を見上げ、指さしながら答えた。
「飛行船だよ。空を飛ぶ船。それを作るのが僕の夢・・・仕事かな。」
「へ――!!!すっごぉぉーい!!!w」
この広い大空を鳥のように自由に飛び回れたら・・・。

そんな夢の様な話を、青年は目を輝かせて話している。

アテナは楽しそうに聞きながら、大空をしばらく眺めて答えた。

「魔法は?魔法を使えば空も飛べるんじゃないの?」
「確かに。でもそれは魔法の才ある一部の人たちだけ。

 才能が無ければダメだし、才能があったとしても魔法にはライセンスがいるんだ。」

「そうなんだ…。難しいねー。」
アテナは栗色のボサボサ頭をボリボリとかいて、口をへの字にまげた。

青年はアテナの仕草にクスリと笑うと、また空を愛おしそうに眺めた。

アテナはもう少しこの青年と話をしたかったが、
使用人としての自分の仕事を思い出す。

「ごめんそろそろ戻らないと怒られるかも。;;

 あーえーと・・・。あなたを…なんて呼べばいい?」

「ああw僕は………ビスケット。」
「わたしはアテナ!またお話聞かせて?ビスケット!」
「もちろん、また話そうねアテナ。」
アテナは笑顔で手を振ると、駆け足で城内に戻っていった。
アテナが城内へ戻ると、
パラスとリゼットが何やら慌ただしく走り回っている。
戻って来たアテナを見つけ、アヤは小走りで駆け寄ってきた。
「どこへ行ってたんですかアテナ、大変です;;」
普段のアヤの鉄壁ポーカーフェイスもオロオロと歪んでいる。
アテナはその事態に、ただ事ではない空気を察知した。
「何かあったの・・・?」
「大佐が・・・腕に大怪我を負って帰城されたのです;;」
目を見開いて、アテナの表情が凍り付く。
「出血がひどいので、リゼとパラスが大佐の応急手当をしています。

 私が行こうと思いましたが、アテナは医務の方を呼んできてください。」

「う・・・うん!わかった!;;」
その後の夕暮れ時。

アストライアが手当てを受けている客室の外で、アヤは不安を抱え立っていた。


やがて白衣姿の医務員フィートが、その部屋から静かに出てくる。

そして泣きそうな顔で駆け寄るアヤの肩に手を添えて、柔らかく微笑んだ。

「しばらくはお休みが必要ですね。大丈夫♪

 いっぱい栄養付けて、安静にしていればちゃんと良くなりますよ。

 今は寝てるから、後は宜しくお願いね♪」

「はい、ありがとうございました…。」
不安は消えた訳ではないが、ひとまず安堵の表情を浮かべるアヤ。
心配そうに扉に手をかけ、部屋の中のアストライアを気にかけていた。
夜も更けた頃。

未だ部屋の外で立ったままでいる辛そうな表情のアヤに、
食事の支度を終えたパラスがやってきて声を掛けた。

「アヤ?大佐の具合は?」
アヤはフィートに言われた言葉をパラスへと伝えた。
「そう・・・とりあえずよかった。食事できたよ?たべよう?」
「そう・・・ですね・・・。」
アストライアの事で頭いっぱいの様子のアヤは、空返事を返す。

パラスはそんな様子のアヤを気の毒に感じ、気を回した。

「あそうだ、大佐の食事も用意してあるの。

 食べてもらえるか分からないけど…。届けてきてくれる?」

そのパラスのお願いに、アヤは大きく何度も頷いて返事をした。
香り漂わせるスープとパンを台車に乗せ、
アヤはアストライアの休む客室の扉を叩いた。

しかしやはり休んでいるのか、室内からの返答はなかった。
「失礼します・・・。」
アヤは静かに扉を開け、台車の上のランプにゆらりと火を灯し入室する。
薄暗い部屋の中、台車の音にアストライアが目を覚ました。
「アヤ・・・か?」
「はい…。お休みの所、申し訳ありません…。

 もしよろしければと、お食事をお持ちしました…。」

「そうだな…今日は何も食べていない。頂こう…明かりをつけてくれ。」
アヤは嬉しそうに室内の明かりをつけ、

アストライアの為に食事を口へ運んで食べさせた。

episode:7 奇 怪
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登場人物紹介

アテナ=パルティナ

栗色くせっ毛の短い髪。栗色の瞳。男の子みたいな容姿をした少女。

事故死したギルド「蒼い月」のギルドマスター、アルテミスの一人娘。

活発で行動的だが、お馬鹿でお調子者。パラスが大好き。


パラス=ルイアーナ

長くまっすぐ伸びた金色の髪。真っ白い肌。人形の様な可愛らしい容姿の少女。

戦災孤児となった後、ギルド「蒼い月」の幹部ゼファに拾われる。

時折我儘な面もあるが、人の話をよく聞く優等生。アテナが大好き。


アヤ=マキナーシブル
黒色の長髪。褐色肌。アストライアに使える使用人。
常に無表情で、正面を見たまま目を合わせずに淡々と喋る長身の少女。

口調も表情も硬いが、利口で気づかいが出来る使用人として優秀な子。

リゼット=リスタニア
2つ結びのオレンジ色の髪。八重歯がチャームポイントの可愛らしい少女。
使用人4人の中では最年少。年の割にはしっかり者で仲間想い。
使用人の先輩として、パラスに色々と教えることになる。

アストライア=クェス

赤い短髪。赤い瞳。凛とした佇まいに華がある男勝りな女性。

ランスニュイア国の軍兵(大佐)。諜報活動が主な仕事。

アテナとの出会いに運命を感じ、生きる道を示す。

オルファリス=ルアイル

薄氷のような美しい容姿。青色の長髪。青色の瞳。難病を患った女性。

アテナとパラスと3人で、解散したギルド拠点の酒場宿に住んで暮らしていた。

支援魔法において大陸一の実力を持つ、元ギルド「蒼い月」の副マスター。

ゼファー=ユイオン

汚らしい身なりの無精ひげを生やした中年男。

難病のオルファリスを気にかけ、酒場によく顔を出していた。

イースルー国の黒魔術を扱う魔術師。元ギルド「蒼い月」の幹部。

アーテル

ランスニュイアの城下町で大型露店を営む商人。

アストライアの使用人達が、毎日食材を買いに通う。

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