緋銅色に輝く超巨人(9)
文字数 1,710文字
「ピグマリオンを、一躍時代の寵児にしたのが、アンチマタードライブの発明です」
「アンチマタードライブ?」
「反物質宇宙にある反物質を使った、エネルギーの発生装置です」
「そんなもの……、どうやって?」
「それは謎です。彼は『大悪魔から反物質を貰った』などと、冗談を言って誤魔化したそうですが、本当のことは、結局、誰にも言わなかったそうです」
純一少年は、大悪魔と云う単語が気になったが、それについて、今の処、質問は控えることにした。
「もしかすると、その時には既に、彼自身、本当に大悪魔からの贈り物と信じていたのかも知れません。彼はそれ以来、どんどん言動がおかしくなって行ったらしいのです」
「言動が?」
「ええ。自分の妻は異時空から来た大悪魔で、彼女の知識を分けて貰っている……とか、カミキリムシの宇宙人が、アンチマタードライブを狙って、この星を侵略しようとしている……とか言って、怯え続けていたそうです」
「カミキリムシ人間……」
「はい。特にカミキリムシ人間に対する怯え方は凄まじかったそうで、もう誰が見ても普通の精神状態ではなかったそうです」
純一少年は、彼は本当の事を言っていたのではないかと思う。だが、彼はそれも口にしなかった。替わりに、疑問を口にしたのは美菜隊員であった。
「ピグマリオンの奥様が、本当に大悪魔だったと云うことはないのですか?」
それを伝えられたベアトリスは、馬鹿々々しいとばかりに笑って答える。
「そんなことはありません。ピグマリオンの妻は王家の出身で、私の伯母にあたる人です。当然、れっきとした人間ですし、子供の頃から王宮に暮らしていたとのことです」
ベアトリスとピグマリオン博士は、血縁こそないが、伯父姪の関係だったようである。これは、何故この女兵士がピグマリオン博士のことに矢鱈詳しいのか……と云うことの説明になっていると皆に思えた。
「ピグマリオンは、在野の学者に過ぎませんでしたが、伯母のコネに由り研究者として大成できたのではないかと私は思っています」
ベアトリスは、自分が王家に連なる者であると、自慢している様に聞こえたのではないかと顔を赤らめた。そして、咳払いでもするかのように息を整え、話題をピグマリオン博士に関することに戻す。
「ある日突然、ピグマリオンは『カミキリムシ人間に、アンチマタードライブのレプリカ盗まれた。だが、それがレプリカだと知って、今度は私を捕え、アンチマタードライブの在り処を吐かせる為、拷問しようとしている』と世間に訴えだしたのです」
「レプリカ??」
「ピグマリオンは、『記者会見で使用したのは、アンチマタードライブのレプリカで、本物の反物質はガラスケースになど入れられない』と言っていたそうです」
確かに、反物質なるものを、ガラスケースになど入れられはしないのかも知れない。
「ピグマリオンの言い分は、勿論、誰にも信用されませんでした。でも……」
「でも……?」
「ピグマリオン博士は、突然失踪してしまいました。そして暫くした後、彼の言う様に、カミキリムシ人間が、本当に我々の星、ロートルテラスへと攻め込んで来たのです」
「では、カミキリムシ人間は侵略者で、この星とは戦闘状態にあると?」
「いいえ。カミキリムシ人間は既に絶滅しています。ええ、確かに絶滅まではしていないのかも知れません。でも、ロートルテラスに再び攻め込むことは、もう二度と出来ない程の打撃を受けてしまったのです……」
「ど、どうして……?」
ここから先の話は、この星の軍事的な機密に属することであったのかも知れない。だが、勢いに乗ったベアトリスは、以降も包み隠さず話し続けた。
「本物のアンチマタードライブは、三つありました。ひとつは我々の中央都市の発電システムに使われています。残りのふたつは、ピグマリオン博士に因って軍事転用され、二体の超巨人として生まれ変わりました。その内の一体が、カミキリムシ人間の星に送られ、彼らの星を滅亡に追いやったのです!」