月にある宇宙海堡(9)
文字数 1,406文字
しかし、それは純一少年も望む所。空気の殆ど無い月の上では、流石の純一少年も満足には戦えない。それに、宇宙服のベアトリスには、服に裂け目が出来るだけでも致命傷となる危険がある。宇宙海堡の中で戦うのは、純一少年たちにとっても、メリットが無い訳ではないのだ。
「どうやら僕たち、宇宙海堡の中に、ご招待されているみたいですね」
純一少年は、そうベアトリスに話そうとしたが、ここでは声を出すことが出来ない。移送用カプセルの中とは違い、ここには空気が全く無いのだ。彼は手で中に入ろうと彼女に合図を送った。ベアトリスも大きく頷く。
純一少年が第1ハッチを開き、その中に2人が入って第1ハッチを閉じると、その小部屋に空気が流れ込んで来た。
「ふう……。これでやっと喋れる……」
「純一君、気を付けて! 第2ハッチを開いて入った途端、相手は撃ってくるわよ!」
「想定内です……」
純一少年はそう言って、ベアトリスを庇う様に前に出て、第2ハッチを開く。すると、予想通り、そこに銃撃の横殴りの雨。
それが少し治まったところで、純一少年は右の掌を前に翳す。すると強烈な突風が起こり、2人を攻撃していたジャンパースーツの者たちを吹き飛ばした。
そして、相手の攻撃が止まった瞬間、彼は小部屋から飛び出し、銃を持って起き上がろうとしている敵5名を一瞬の内に切り倒していた。純一少年の手の甲の皮は、伸ばし固めることで黒いブレードに変形させることが出来るのだ。
純一少年は敵の死骸を確認し、ベアトリスに声を掛けた。
「カミキリムシ人間の様ですね……。当てずっぽうだったけど、どうやらここが、カミキリムシ人間の生き残りの隠れていた場所だったようです」
「全部殺しちゃったの? 色々と訊き出せた筈だったのに……」
純一少年は「しまった!」と思う。
「それにしても、ここにいたカミキリムシ人間は、全滅した筈なんだけど……」
ベアトリスの疑問に、純一少年は少し考えてから、ひとつの答えを提示してみた。
「タイムラグがあったのかも知れませんね。
「でも、それでは……」
「ええ。
「そんな馬鹿な……」
「これは単なる想像ですが……、フレデリック王は、超巨人がこんなロートルテラスの近くで爆発することを恐れ、カミキリムシ人間の軍備だけを破壊し、早々に超巨人を帰還させたのかも知れませんよ」
ベアトリスは「そんなことはない」と言いかけた。だが、あのカミキリムシ人間の星の惨状を思い出すと、老王がその判断を下したとしても、強ち誤りだったと断言することは出来ない。
「そして、無駄に市民がパニックを起さないよう、カミキリムシ人間は宇宙海堡にはもう残っていないと偽った……。ま、そんな仮説も成り立つって話ですけどね!」
純一少年はそう言って笑った。だが、それは充分あり得る仮定だ。ベアトリスは思わず眉を
「それより、先を急ぎましょう。どうも、思ったよりも、カミキリムシ人間は少なくないみたいですよ……。それに、もっと恐ろしいものが、ここにはあるみたいです……」