瞬間移動装置はどこに(9)
文字数 1,484文字
発射予定時刻までの短い時間、ベアトリスは、純一少年に対し、ごく簡単に発射システムの説明をした。
「通常はね、外部制御装置から銀河系座標入力や発射指示などをするんだけど、今回は内部ユニットから私が操作するのよ……」
「そこら辺はベアトリスさんにお任せします。が、ひとつお願いがあるのです……」
「何?」
「あなたの心に、発射の直前から10分間だけ、僕の妹を憑依させてくれませんか? 勿論、馬鹿な事を言ったり、勝手に行動しないようには注意しておきますので……」
「そんなこと……、出来るの?」
「正直、難しいです……。あいつに『大人しくしろ』と言うのは……」
ベアトリスは「そっちじゃない!」と思ったが、それは口にしなかった。
「でも、どうして?」
「僕が思うに、発射時からの10分間が一番危険ではないかと……。ですから、これはその保険です。僕の妹が憑依していれば、最悪の場合、大悪魔の力を借りて、危険を回避することが出来るのです。但し、妹は仮の姿、僕の『思い出』に過ぎず、10分間しか存在できません」
ベアトリスがそれを聞いて頷くと、純一少年は左手の小指を額にあてがった。
「耀子、頼んだぞ!!」
白い霧が現れ、それが何時しか純一少年よりの小柄なブレザー姿の少女へと変わって行く。2代目耀公主にして
現れるなり、すかさず耀子は純一少年に文句を言ってくる。
「テツ……、お前、直ぐに私に頼りやがって……。人にばかり頼るんじゃないぞ! この位、お前にだって出来るだろう?」
「僕が女性に憑依出来る訳ないだろう!」
純一少年が血の繋がらない妹に言い返す。だが、妹はそれを馬鹿にした様に笑った。
「何が『出来る訳ない』だ。本当は憑依して女体を弄びたい癖しやがって!」
純一少年は真っ赤になって妹に怒り出す。それをベアトリスが仲裁に入った。
「す、すみません。私が無理に……」
「あ、ベアトリスさん。兄がお世話になってます。こいつ、天然なんで、色々とご迷惑お掛けしますが、許してやってください」
「そ、そんなこと……」
耀子はベアトリスとの挨拶もそこそこに、純一少年の方に向き直った。
「テツ、するなら早くしろ。タイムリミットまで、もう時間が無いぞ! 大体な……、憑依させるなら……、エロブス年増の方だろう? なんで私なんだ?」
純一少年は、妹のクレームとも愚痴とも付かない文句を無視し、胸元から自分の愛刀である
その光が収まった時、少女はやつれた姿となって崩れ落ち、ばたりと床に横たわった。
「これでOKです」
「純一君、一体あなた、妹さんに何をしたの?!」
「僕の剣に納められている琰を使って、耀子の精神を抜き取ったんです」
「そ、そんな……」
「今、耀子の意識は、ベアトリスさんの脳にいます。あいつがいることで、ベアトリスさんの身体は、一時的に大悪魔の強度と能力を身に付けているんです」
「それでは妹さんが……」
「あいつは『思い出』なんで、10分経つと嫌でも憑依が解除されますよ。気にされることはありません……」
「でも……」
「10分間です。あまり時間がありません。早く移送用カプセル発射してください!」
ベアトリスは言われる儘に、移送用カプセルの発射スイッチを押下した。