月にある宇宙海堡(4)
文字数 1,930文字
「僕はひとつの仮説を立てました。カミキリムシ人間は、ピグマリオン博士に、超巨人の開発を依頼したのではないかってね」
「超巨人の開発?!」
「はい。これも想像の域を出ませんが、それを2体造り、
「どうやって資材なんかを……」
「カミキリムシ人間の工場から、ピグマリオン博士の地下工場に送れば、誰にも気付かれず開発可能ですよね……。瞬間移動装置を使って移送するならば……」
「そうやって、瞬間移動装置を研究所内に造らせたのね……」
「超巨人2体が完成した時、理由は分かりませんが、ピグマリオン博士は、その引き渡しを拒否したのではないかと思います。そして、その報復から、カミキリムシ人間は、彼に危害を加えようとしたのではないでしょうか?」
「……」
「身の危険を感じた彼が起こした狂言が、レプリカ盗難騒動であり、超巨人奪回こそが、カミキリムシ人間のロートルテラス侵攻の真の目的だったのではないかと僕は考えているんです」
「ピグマリオン博士の失踪は?」
「普通に考えると、失踪ではなく、抹殺されたと云うことになるでしょうね……。彼が生きているならば、超巨人の使用が可能でしょう。奪回作戦を開始する前に、彼の自由を奪っておく必要があります……。ただ……」
「でも、超巨人は発射された……」
「ええ。その時、既にフレデリック王は超巨人の使用法を知っていました。それで、カミキリムシ人間の星は、僕たちが見てきた様な結果となってしまった……と云う訳です」
「万が一の事を考えて、拉致される前に、ピグマリオンは、お爺様に超巨人の使用法を伝授していたのね……」
「全て僕の想像に過ぎませんが……」
語り終えた純一少年も、それを聞いていたベアトリスも、酷く疲れを感じ、大きく息を吐いた。だが、本題はこれからである。この後の、大悪魔ピグマリオンの行動こそが、カミキリムシ人間の居住地に繋がるヒントになる筈なのだ。
純一少年は、戦後から話の続きを始める。
「その後、ソフィアは王宮で暮らしました。それはベアトリスさんも確認されていると思います。しかし、半年前、突然、彼女は失踪してしまったのです。彼女が僕たちの前に現れたのは三ヶ月前。では、それまでの三ヶ月の間、彼女はどこにいたのでしょう?」
「各地を転々としていたのかも……」
「そうではありません。彼女は自分の研究所に籠っていたものだと思います。基本的には、研究所を本拠地として、そこで暮らしていたのではないでしょうか? 生活の痕跡が、彼女の研究所にはありましたから……」
「生活の痕跡?」
「コーヒーが湿気たり、酸化してなかったでしょう? 電源のブレイカ―は落されていたけど、それはフェイクで、恐らく彼女は、地球に来るまでは、ひと月たりとも家を空けたことはなかったんじゃないかと思いますよ」
「成程ね……。それで?」
「彼女はどうやったのか、地球の存在を自分の研究所で調べ上げました。そして、地球へ行くことを決意したのだと僕は思っています」
「何の為に……?」
純一少年はそこで少し間を置いた。
「何の為に……。僕にもハッキリとは分かりません。ソフィアが地球に住みたいだけなら、カミキリムシ人間を誘き寄せる必要などありません。ですから、矢張り、カミキリムシ人間の星を、僕たち地球人に、攻撃させる為だったのではないかと思います……」
「でも、カミキリムシ人間の星は、既に壊滅状態にあったわ……」
「そうなんですよ……。それと謎なのが、彼女は、『カミキリムシ人間の星に行く』と僕たちに言っておきながら、このロートルテラスへとガルラ……、僕たちの宇宙船です……、を誘導したのです。僕たちは、カミキリムシ人間の兵器工場を破壊すると彼女に偽っていましたので、彼女は、この星の何かを破壊させようと考えていた筈なのです」
「そんな場所、考えも付かないわ!」
「それと……、ちょっと疑問だったのは、カミキリムシ人間が攻めてきたと、ベアトリスさんは言いましたよね……」
ベアトリスは頷く。
「奴らは、どこから攻めて来たのでしょうか? カミキリムシ人間の星に行くのは、僕たちでもやっとだったんですよ。宇宙船を飛ばしたとしても、一年や二年で、簡単に移動できる距離ではないですよね……」
「それなら、私にもお答え出来ますわ。カミキリムシ人間は、月にある宇宙海堡に前線基地を造っておりました。そこに密かに宇宙船を集結して、そこから攻撃を仕掛けて来たのです」
「そ、それだ!!」
純一少年は思わず大声を上げていた。