月にある宇宙海堡(11)

文字数 1,696文字

 巨人兵は左右から、其々(それぞれ)20体。右腕に手甲(てっこう)の様な物を着けていて、そこからビームサーベルの様な剣を出している。
 純一少年たち3人は、その巨人の群れが近づくのを少し待った。確かに、その位置で巨人兵を迎撃するのは、左右の敵を同じタイミングに受けてしまうので不利だ。だが、それよりも、彼らは敵の観察の方を優先したのである。
 純一少年と縫絵は気付かない……。だが、ベアトリスには、明らかに超巨人とは別の物であることが分かった。
「超巨人ではないわ……、似ているけど、身長が3メートル弱しかない。本物は100メートルもの身長があるもの……。それに、超巨人には触覚など無いわ。頭部は普通の人間と同じ形をしている筈よ。あれでは、まるで、カミキリムシ人間じゃない……」
 純一少年は成程と思う。
 元々巨人とは、このカミキリムシ人間を模した物だったのだろう。ピグマリオン博士は、その技術をカミキリムシ人間から譲渡され、アンチマタードライブで動く、人間を模した超巨人を開発したに違いない。
 だが、だとすると……、逆に、この巨人兵たちを動かしている動力源とは、一体何なのだろうか……?
 その答えは直ぐに分かった。カミキリムシ巨人の触覚が天井から少し離れた際に、青白い閃光が天井と触覚の間で輝いたのである。それに、良く見ると、カミキリムシ巨人の頭上に、天井からの雷が、幾つも幾つも落ちているではないか……。
「天井と床に高い電位差を設け、触覚をパンタグラフとし、そこから給電して電車の様に動いているらしいですね……」
 純一少年は、皆が既に気付いていることを口にしてから、一番近い1体に向かって斬り掛かった。だが、それは、爆音と伴に容易く右腕の剣で跳ね返されてしまう。
「あいつらの剣、ビームサーベルではありませんね。普通の金属ですよ……。でも、酷く帯電してます。雷電剣ってところでしょうか……。ちょっと厄介かもしれませんよ」
 純一少年が2人の女性の方に戻って来ると、今度は反対側からの巨人兵1体が、剣を手甲(てっこう)に収め、右手を手刀にして縦に構え、左手を右手の肘に添える。
 ベアトリスは、その構えを見て、恐怖の為に悲鳴を上げていた。それは、超巨人が反物質スプレーを発射する時に用いる構えだったのである。
 純一少年は、スライディングをする様に床を滑って、反物質スプレーの構えを取ったカミキリムシ巨人の足を払う。それでバランスを崩した巨人は、倒れないまでも後ろによろけ、スプレーの発射を停止した。
 彼の後ろでは、別のカミキリムシ巨人がベアトリスに襲い掛かっていた。ベアトリスも巨人に銃を連射して抵抗したのだが、銃弾は全て巨人の皮膚に撥ね返され、相手の進行すら押し留められはしない。
 カミキリムシ巨人が、ベアトリスを唐竹割りに切ろうと手甲の剣を振りかぶり、ベアトリスが恐怖に目を閉じた将にその時、巨人の右手は金色に輝くロープに由って、その動きを封じられていた。それをしたのは、縫絵の袖口から出ているフリンジと呼ばれるロープであった。
 縫絵は、水平チョップを打つ様に左腕を横に振り、振り上げられていた巨人の手首にフリンジを巻き付けたのだ。そして、今度は右手のフリンジで、その巨人兵の触覚を縛り上げて引っ張り、巨人の触覚と天井の接触を遮断する。
 カミキリムシ巨人は、給電が阻害され動きが鈍くなった。そこを縫絵は一気に駆けて、跳び蹴りを巨人の胸板に見舞う。それで流石の巨人も、数メートル吹き飛んで尻餅を搗いた。
 だが、縫絵の思惑とは異なり、天井との接続を断たれた筈の巨人兵は、縫絵がフリンジを解いて回収すると、素早く触覚を天井まで伸ばして給電を再開し、何事も無かったかの様に立ちあがったのである。
「参ったわね……。でも、大丈夫だった? ベアトリスさん……」
 縫絵が、そうベアトリスに言おうと振り返った時、彼女の目に映ったのは、反物質スプレーに狙われ、(すく)んで動けなくなっているベアトリスの姿であった。
 縫絵は咄嗟にベアトリスを突き飛ばし、ベアトリスを狙っていたカミキリムシ巨人と正対した。
 その縫絵に向かって、白い粉末状の霧が襲い掛かっていく……。
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登場人物紹介

新田純一(要鉄男)


時空を放浪している大悪魔。偶然、訪れたこの時空で、対侵略的異星人防衛システムの一員として、異星人や襲来してくる大悪魔から仲間を護り続けていく。

新田美菜(多摩川美菜)


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊に所属するエリート女性隊員。養父である新田武蔵作戦参謀の命に依り、新田純一の監視役兼生け贄として、彼と生活を共にする。

蒲田禄郎


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊隊長。本人は優柔不断な性格で隊長失格と思っているが、その実、部下からの信頼は意外と厚い。

沼部大吾


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊に所属する古参隊員。原当麻支部屈指の腕力の持主。豪快な性格の様で、純一少年が戦闘嫌いであることを悟り、彼を戦闘に参加させない様にするなど、細かい気配りもできる人物。

鵜の木和志


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊に所属する隊員。幼少期に見たマカロニウエスタンに憧れ、銃を自由に撃てるという理由で航空迎撃部隊に入隊したと云う変わり種。非常識な言動で周りを驚かせることもあるが、銃の腕と熱い心には皆も一目置いている。

下丸子健二


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊に所属する隊員。原当麻基地でも屈指の理論派。同期入隊の新田美菜隊員に密に憧れを抱いている。

矢口ナナ


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊に所属する入隊一年目の若手女性隊員。明るく誰とでも仲良くなれる性格。

ピグマリオン


謎の女大悪魔。人形などの非生物を生身の身体に変える大悪魔能力を有している。

ベアトリス


ロートルテラス星の老王フレデリック五世の孫娘。

フレデリック王(フレデリック五世)


ロートルテラス星の王。

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