瞬間移動装置はどこに(11)
文字数 1,631文字
「地下か、どこかに基地があるのかも?」
「ありません。誰一人もいません。それどころか、生き物は何一つ存在していません。完全に……、死の星です……」
だが、純一少年は、口惜し気に、ただそう返すしかない。
「ざ、座標を間違えて入力したのかも」
「ベアトリスさんが、そんな単純なミスをする訳ないでしょう? それに、間違いだったとしても、正しい場所が分かりません。どうにも出来ないんですよ……」
「……」
「ベアトリスさん、言ってましたよね……、超巨人で、カミキリムシ人間の星は滅亡したって……。一発でカミキリムシ人間を全滅する様な、そんな、途轍もない爆弾が爆発したんです。都市も人も、何も残っている筈など、無かったんです……」
「そんな……」
それは間違いではなかった……。
超巨人が爆発した時、その対消滅は、光エネルギーとともに、膨大な熱エネルギーを発生させていた。その時、大地は震え、世界は光で包まれた。
それだけではない。付近一帯は地表が吹き飛んで地形が替わり、火山からは噴煙と溶岩が一斉に吹き出した。大気は一瞬に何千度と云う温度となり、海や湖は一気に干上がってしまったのだ……。
カミキリムシ人間の都市の多くは、直接的な爆風で破壊されたものではない。それは、都市の近くにあった兵器工場などの燃料や爆弾が一斉に誘爆し、其々の都市を焼き尽くしたのが原因であった。
大気の高温化、都市の爆発、山林の消失、これらはカミキリムシ人間の星の大気から酸素を全て奪い去っていた。そしてそれは、カミキリムシ人間だけでなく、この星に住む全ての生物の生き残る可能性を奪い去っていたのである。
カミキリムシ人間の星を覆っていた溶岩の海が冷えて固まった時、この星の質量は半分以下となり、大気は全てが宇宙に飛び散っていた。大地は黒く固い岩で覆われ、カミキリムシ人間の星は、太陽系の多くの小惑星の様に、固い岩石の塊りへと、その姿を変えてしまったのである……。
純一少年はベアトリスに笑みを返した。
「ロートルテラスに帰りましょう。僕たちには今、何も出来ません。仮に場所が分かったとしても、着陸と再度の離陸は不可能です。出直すしかありませんよ……」
ベアトリスには、純一少年がどれほどショックを受けていたか、それが分からなかった訳ではない。しかし、彼女には最早慰めの言葉の用意も無く、黙って頷いて彼の指示に従うしかなかった。
ベアトリスは、操作パネルから制御コンピュータに、ロートルテラスの銀河系座標と惑星軌道などを入力し直した。これで加速度設定を調整し再度発射ボタンを押せば、ロートルテラス上空へと、このカプセルは戻ることが出来るだろう。
純一少年は、ベアトリスが発射ボタンを押下する前に、彼女に近づき声を掛けた。
「耀子に憑依させることが、今は出来ません。ですが、僕がベアトリスさんの質量を低下させ、発射時の加速のダメージを低減させます。とは言っても、ベアトリスさんは生身の身体です。僕の身体の上に乗って、クッション替わりにしていてください」
ベアトリスはそれを聞いて微笑んだ。
「純一君の上に座っていろってことかしら? 抱っこをしてはくれないの?」
「え?」
「一層のこと、純一君が私に憑依したら? 純一君だって、憑依、出来るんでしょう?」
純一少年は頭をポリポリと掻いた。彼が照れる時の癖だ。
「止めておきます。僕はあまり憑依に熟練していないのです。と言うか、生身の人間に憑依したことは未だありません。憑依したことがあるのは、自分自身の死体にだけです」
純一少年は、そう言って大きな声で笑っていた。そして両手を前に差し出した。
「僕なんかに抱っこされるなんて、酷く嫌でしょうけど、確かにこの方が安全ですね。宇宙服を着た上からですから、少しの間、我慢していてください」
ベアトリスはそれには何も答えず、純一少年が抱っこし易い様に、両手を彼の首に掛けるのであった。