大悪魔 vs.超巨人(6)
文字数 1,722文字
「長く続かなかった?!」
「あ、別に不慮の事故とかではないのよ。純一には分かると思うけど、大悪魔から見ると、人間の一生は酷く短いの。そうよ、彼にも寿命って物があって、死を避けることが出来なかっただけのことなのよ。
彼は『お前と暮らした30年、とっても幸せだった』と言ってくれたわ。そうね、今考えると、彼は、私が大悪魔だってことを、ちゃんと理解していたのね。前の奥さんと合わせると、40年の筈だもの……。
それで私は、また1人ぼっちになったわ。
そして、王位を大臣の息子を養子にして譲り、その時空を去った。だって、彼のいない時空なんて、いても仕方がないもの……」
純一少年も、今度は話にチャチャを入れなかった。彼にも、そのピグマリオンの気持ちが痛い程分かったからだ。
「別の時空に行った時、妻を亡くしたばかりの男に『生き返らしたいか?』と私は訊ねていたわ。彼があまりに悲しんでいたので、見るのが忍び難かったの……。うん、確かに、もう一度、私自身が幸せになりたかったのかも知れないわね……。で、彼は私の申し出を承諾した。
石像と違って、死体は人間化しなくとも、私が憑依するだけで、簡単に生き返る。病気で死んだ場合は、その病巣を、健全なものに造り直せば良いだけでね……。
私は憑依のコツも掴んでいた。そして、面白いことに、死んだ人間に憑依すると、その死人の記憶を共有できるのよ。恐らく、脳に記憶の電子パタンが残っているのね。
で、彼も喜んでくれた。でも彼は、私が何を言っても、自分の妻が生き返ったと、信じて疑わなかったのよ。彼の妻の記憶や仕草を、私が受け継いでしまっていたから……。
こうして、私はこの男の女房に収まった。勿論、それで不満は無かったわよ。大悪魔時代に比べたら、多少のことなら何だって、私、我慢できるもの……。
でも、どうしても我慢できなかった……。大切な人が、私より先に、みんな死んでしまうってことが……」
ピグマリオンは息を吐いた。
「私はその時も時空の旅に出たわ。なんか、それがルールの様な気がしてたのよね。
そして、行く先々の時空で、妻を亡くした男、恋人を失った若者、老妻に別れを告げたかった老人……、そんな人に声を掛けていった。『生き返らして欲しいか』ってね。
勿論、その中には『大悪魔が憑依した妻は、自分の妻ではない!』って言って拒否する男もいたわよ。それはそれで良いの。そう言う人には、そう言う人の想いがあるんだもの。私が邪魔する話じゃないわよね……。
私は騙したい訳じゃないの。感謝されて、愛されて、幸せになりたかっただけ……」
純一少年が通信機から問いかけた。
「それが、どうして、こんなことをしているんですか?」
「私はねぇ、何もしてない癖に、恵まれてる人たちが大っ嫌いなの。分かる? ベアトリスって、なんであんなに美しいのかしら? おまけに王家の血筋で、性格まで良いときてる。腹立たしいわよね。それと、フレデリックの糞爺。何の取り柄も無い癖に王なんて遣ってる。あんなの、さっさと退位したら良いのよ……」
「ピグマリオン博士はどうなのですか?」
美菜隊員が毅然と尋ねる。だが、大悪魔ピグマリオンは、彼女の言葉にも鼻で笑ってあからさまに馬鹿にした態度を取っていた。
「ピグマリオン博士? あいつが一番最低の男だわ。あいつ、自分の妻のソフィアが死んだ時に、私に頼み込んできたの……。『この女が死んだら、私は王家との繋がりが無くなってしまう。嘘でも何でも良い。この女の身替わりを務めてくれ』ってね。だから、私は早々に、あの男を殺してやったのよ。カミキリムシ人間を使ってね……」
「カミキリムシ人間とあなたは……」
「そうよ、知らなかった? カミキリムシ人間と私は同盟を結んでいたの。そして私、フレデリック王とベアトリスを殺し、仲間のカミキリムシ人間の口を封じて、王女ソフィアとして、ロートルテラスを乗っ取ろうと考えたのよ!」
「そんな……」
「その為、今度はね……、カミキリムシ人間の替わりに、あなた方地球人と純一と云う馬鹿な大悪魔を、私の野望に利用しようと思い立ったって訳なのよ!」