時空を超えた彼方へ(1)
文字数 1,803文字
実際、攻撃方法に対する懐疑や、地球側に相手を圧倒する戦力が無いのではと云う不安は残存している。この事が原因で、満票とはいかなかったのだと思われるのだが、結果、カミキリムシ人間の星への攻撃は、三分の二の賛成を持ってAIDS参謀会議にて可決されたのである。
その中で意外に思われたのは、カミキリムシ人間への攻撃を最初に提案してきた、極東日本支部の新田参謀が、攻撃への反対票を投じたことであったろう……。
その先制攻撃の具体的な内容であるが、ピグマリオンと云う異星人の指揮の元、異時空航行装置を開発。それを備えた宇宙船に極小範囲攻撃ミサイルを搭載し、それを使って敵方の超兵器開発基地だけをピンポイントに叩くと云うものであった。
この異時空航行理論の真偽にも賛否が分かれたのだが、侵攻の発議を行った日本支部原当麻基地の航空迎撃部隊が、その責務を負うことで渋る懐疑派を妥協させた。
尚、異時空航行用に改造される爆撃機には、最新型万能戦闘艦ジズが推薦されたのだが、新田武蔵参謀から「万が一、ジズが敵の手に渡った場合、ジズの性能を解析されてしまう
この異時空航行装置は、原当麻基地内で開発され、その儘ガルラに搭載されることになっている。そして、この異時空航行装置の設計図は、AIDS本部の資料室に保管されることになっていた。
しかし、純一少年は、その様な物、この後、誰が設計図通り造っても、決して時空間航行など出来はしないことを知っている。あれは、大悪魔が開いた時空を暫く開いたまま固定するだけの装置に過ぎない。恐らく、時空の裂け目を開くのは、ピグマリオン自身の悪魔能力が使用されるのであろう。
一方、ソフト面。ガルラへの搭乗者の選出であるが、当初、沼部隊員が未成年である純一少年の搭乗に懸念を示した為、純一少年と女性隊員である美菜隊員、矢口隊員は、この遠征から除かれる予定であった。だが、新田美菜、矢口ナナ両隊員から「性差別である」との強硬な抗議があった為、沼部隊員も最後には折れざる得なくなり、結局、航空迎撃部隊全員とピグマリオンの計八名が、遠征メンバーに選出されることになった。
ここで皆が驚いたのは、純一少年が進んでガルラに乗ると申し出たことである。彼はこれまでガルラの搭乗を頑なに拒否し、戦闘には決して加わろうとして来なかったのだ。
だが、これに依り、純一少年との別行動を絶対しないことが暗黙の了解であった美菜隊員も、何の障害もなく、搭乗者のひとりとして、遠征に加わることが出来たのである。
その決定から数日が経ったある日、純一少年がトイレに行った時のこと……。彼が一人で用を足していると、隣に来た沼部隊員が、純一少年にしか聞こえない程度の小声で彼に質問してきた。
「純一君、いいのか? 君は殺し合いは嫌だと言っていたじゃないか。今回は戦いですらない。相手に不意打ちををし、無慈悲に爆弾攻撃を仕掛けるだけのことだぞ……」
「僕はこの遠征に同行はしますけど、攻撃には参加しませんよ」
純一少年は小さく答えた。
「では何故? まさか、純一君は俺たちの作戦行動の邪魔をする為に?!」
「いいえ、邪魔もしません。僕は攻撃には反対ですし、自分で進んで戦おうとも思いません。でも、みんなの邪魔する気もありませんよ。その点は安心してください」
「じゃぁ、なんで?」
純一少年はその質問には答えず、沼部隊員の脇を離れ、手を洗いに洗面台の方に歩いて行ってしまうのだった。
純一少年は考えている。
「ピグマリオンは何かを隠している。そうでなければ、あんな矛盾したことを言い出したりはしない……。だが、彼女自身が直接僕への脅威と云う訳ではない。何かがある……。取り敢えず、ピグマリオンに何か遭った場合、大悪魔の僕が行かねば、時空の裂け目を創る者がいなくなる。そうなると、ガルラに搭載した異時空航行機能も作動しなくなり、皆が地球に帰れなくなってしまう……」
そう、彼は決して、ピグマリオンを信用している訳ではないのだ。