ロートルテラスの王宮(6)
文字数 1,890文字
蒲田隊長以下、航空迎撃部隊メンバーは1人を除いて全員待遇が変ったことに満足している。その満足していない唯一の男、鵜の木隊員は、純一少年が戻ってくると、直ぐ様、彼に文句を言ってきた。
「何だか知らねえけど、衛兵の奴ら、俺たちのことを、化け物でも見る様に怯えて見やがるんだ。純一、お前、奴らに何かやったんじゃねえか?」
「可笑しいですね……。鵜の木隊員があまりに怖い顔をしているんで、きっと、それを怖がったんじゃないですか?」
「んな訳ないだろ!」
そんな鵜の木隊員を他所に、蒲田隊長は沼部隊員と下丸子隊員を呼んで、今後の対応について検討をしていた。
「沼部、どうやって地球に戻るかだが、何か良いアイデアは無いか?」
「この星と友好関係を築き、機会を待って、彼らの船で地球に送って貰うと云うところでしょうか……」
「下丸子、お前の意見は?」
「僕も同感です。ただ……」
「ただ?」
下丸子隊員の言葉に、蒲田隊長と沼部隊員は同時に反応する。
「純一君です。彼はピグマリオン博士とソフィア夫妻の研究所に、何かがあると考えていた様に思います。そして、彼はその研究所の存在も予言していました。純一君は、何かを知っているのではないでしょうか?」
蒲田隊長と沼部隊員は、彼の言葉を聞いて考え込んだ。彼ら2人は、純一少年の特別な能力に薄々感付いている。そう考えると、確かに下丸子隊員の言う様に、彼なら何か知っていても不思議ではない。
「純一君!」
蒲田隊長は純一少年を呼んだ。
「鵜の木と遊んでないで、こっちに来てくれないか?」
「隊長!!」
鵜の木隊員が、大声で蒲田隊長に不満を伝える。だが誰もそれを気にせず、当の蒲田隊長も聞こえない振りをし、純一少年も何事も無いように蒲田隊長の方に駆け寄って来た。
「何でしょうか?」
「純一君に訊きたいことがあってね……」
蒲田隊長は、下丸子隊員が提起した疑問を、そのまま純一少年にぶつけてみた。それに対し、純一少年は少し迷ってから、言葉を選ぶように答えを口に出し始めた。
「下丸子隊員が思う程、僕に確信があった訳ではありませんよ……。僕は、ベアトリスさんの言うソフィアさんがピグマリオンの正体だと考えています。だとすると、彼女はこの星の住人で、この星から地球まで旅をして来たことになります。ですが、ここから地球までは何万光年も離れています。では、彼女はどうやって地球に来たのでしょうか?」
実の処、純一少年は、この答えを彼女自身から既に受けている。彼女は悪魔能力で、時空の狭間を移動して来たのだ。だが……。
「僕は繭玉型の超巨人移送用カプセルを見た時、『それだ!』と思いました。ピグマリオン博士は、瞬間移動装置の開発に成功し、超巨人移送用カプセルに搭載していました。ピグマリオンは、それを使って地球に来たに違いありません」
純一少年の説明は、幾つかの誤魔化しと省略が含まれている。
ピグマリオンは、悪魔能力で時空移動できる。だから、瞬間移動装置などで時空移動する必要などはない。勿論そこまでなら、それで終わりだ。
しかし、あの日、カミキリムシ人間は、
地球で
ピグマリオンに襲い掛かっていた。つまり、カミキリムシ人間も、彼女と伴に地球へとやって来たと云うことになる。大悪魔でないカミキリムシ人間の肉体では、時空の狭間の移動などは到底不可能だ。恐らくカミキリムシ人間は、ソフィアを追って瞬間移動装置に乗り、地球に来てしまったのに違いあるまい。勿論、恐らくそれも、ピグマリオンの計略の一部だったのだと思われるのだが……。
「その瞬間移動装置ですが……」
純一少年は説明を続けた。
「僕は、ピグマリオン博士とソフィアの住居で研究・開発されたのではないかと思っています。ベアトリスさんたちは、その発明の存在に気付いておられなかった様ですので、2人は超巨人の開発とは別に、秘密裏にそれを応用して瞬間移動装置を開発していたことになります。そう考えると、ピグマリオン博士が、大っぴらに家の外で研究していたとは、僕には到底考えられなかったのです」
実はそれと……、純一少年は、カミキリムシ人間の星にも、瞬間移動装置が存在しているのではないかと考えている。
彼女は、カミキリムシ人間の星に拉致されたピグマリオン博士を救出する為の脱出口として、カミキリムシ人間の星にも、それを準備していたのではなかろうか?
そして、今度はそれを利用して、カミキリムシ人間を研究所に、そして地球へと誘い込んだのではないだろうか……とも。