初友

文字数 1,434文字

 生まれてからずっと、私には友達がいなくて、私の中にいるもう一人の私が唯一の友達だった。いや、違う。もう一人の私は何人もいて、自由自在に生み出すことができるから、いくらでも現れて、気に入らなくなればいくらでも消せた。だから、私には友達は必要なくて、一人で十分に楽しい日々を過ごしていたのだ。

「僕と友達になってくれませんか」

 大学に入っても、いつも一人でいた私に声を掛けた君を、当然ながら私は無視した。今までも、自分も一人だから、いつも一人でいる私を仲間だと思い違いして、声を掛けてくる奴はいたけれど、無視すると近寄らなくなったから、君も同じだと思っていた。

「僕と友達になるのは嫌ですか」
「僕を友達の一人に加えてくれませんか」

 加えるも何も友達はいないし、必要もないのに、君は今までの奴らと違って諦めが悪かった。来る日も来る日も声を掛けてくる君を、思い違いにも程があると呆れた私は、ついつい笑ってしまい、はじめて友達が欲しいと思った。

「私と友達になって下さい。お願いします」
「えっ、ほんとに? こちらこそ、お願いします。やった」

 私にとっても、君にとっても初めての友達だったから、緊張しながらも嬉しくて、いつも一緒に時間を過ごすようになった。
 楽しかった。
 けれど、いくらでも思った通りの新しい友達ができた私の中の私と違い、君はいつも同じ君で直ぐに飽きてしまった。

 私は友達を失くす覚悟で話し始めた。
「実は、私の中にはもう一人の私がいて、君と友達になる前は、私の中の私と楽しく過ごしていたんだけど、君の中には、もう一人の君はいないの?」
「僕もずっと一人だったから、もちろんいるよ。君に話したら、笑われると思って隠していた」
 馬鹿にされるか、気味悪がられると思っていたので、全身の力が抜けた。やはり二人は友達になるべくしてなったのだと運命を感じ、絆はより強くなった。

 私と君だけでなく、私の中の私と君の中の君とも交流が始まり、時間はいくらあっても足りないくらいだった。君の中の君は実に魅力的な人が多く、私の中の私は君の中へ行ってみたいと夢見るようになり、一人また一人と私の中の私は、君の中へと移り住むようになり、私の中の私は、いくらでも生み出せるはずだったのに、だんだんと生み出せなくなり、どうせ生み出しても君に奪われるのだと思うと、なんだか面倒くさくなって、気づけば私は私だけになってしまった。私は私の中の私と過ごした時間を懐かしみ、後悔した。
 君と友達にならなければ良かった。

「改めて、僕と友達になってくれませんか」

 君は、空っぽになった私にそう言ってくれた。私の中の私が一人もいなくなり、何一つとして面白みもない私に、だ。君の言葉を聞いて、一気に重力から解放された。私の中の私はいなくなってしまったが、私は私のままでいい、私は私の中の私を外に求めれば良いことを君は教えてくれたのだ。


 今、こうしてたくさんの友達に恵まれているのは君のおかげだ。二年生になってから大学に現れなくなってしまった君は今、どこで何をしているのだろう。私の中の私は元気でいるだろうか。音信不通になってしまったが、私の初めての友達は君で、私に友達を作るきっかけを与えてくれたのも君だ。


 時々思うんだ。君はほんとうに実在したのだろうか、と。もしかしたら、君は私の中の私だったのではないのだろうか? ふと、そんな気がするのだけれど、きっと気のせいだよね。君は君だもの。ありがとう。いつか、また会おう。
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