小説みたいな恋がしたい

文字数 1,976文字

 はい、どうも。
 お待たせしました。
 どうも、こんにちは。

 長男です。
 次男だよ。
 三男っす。

 実の兄弟ですが、俺が初代。
 俺が二代目。
 そして、俺が三代目。母親が違います。

 イボブラザーズです。よろしくお願いします。

 まず、二人に報告があります。実はネタが書けておりません。
 おいおい、二代目、冗談は顔だけにして。
 二代目、ちゃんと働けよ。お前だけギャラ多いんだから。
 ちょっと、待って。冗談は顔だけにして欲しいのは、初代、あんただろ。それにギャラは三等分しているよね、きっちりと。三代目こそ、ちゃんと働けよ。このギャラ泥棒が。
 おーっ、こわ。二代目って冗談通じないんだね。冗談みたいな顔しているのに。
 ネタを書いてから言えよ、この泥棒野郎が。開き直ると、人間ってこうなるんですね。あぁ、いやだ、いやだ。
 お前らがそういう態度なら、もう知らない。ネタを書けない二人でどうにかしろ。

 自分だって書けなかったくせに、偉そうなこと言いやがって。俺達だって、やる時はやるんだよ。初代、何かない?
 偉そうなこと言って丸投げとは、さすが三代目。
 まぁまぁ、落ち着け。ここは長男に任せて。そうだなぁ、三人でお題を出し合って、即興コントはどう? お題があれば、どうにかなるんじゃない?
 あぁ、それ、いいね。初代にしては、グッドアイデア。
 なんだよ、二代目。結局、仕切るのかよ。ここから三代目の見せ場なのに。
 悪いな、三代目。リーダーは、俺だから。じゃあ、せーのっ、でお題を言うぞ。せーのっ。

 パイセン
 コーヒー
 小説

 えっと、コーヒーと小説とパイセン?
 二代目、パイセン知らないの? 先輩の略語。
 長男だから殴らないけど、略語じゃないから。先輩、コーヒー、小説ね。

 なんかさぁ、小説みたいな恋がしたいなぁ、と思って。俺が先輩で三代目が後輩の女の子、初代が喫茶店の店員ね。じゃあ、店員スタートでよろしく。
 いらっしゃいませ、お客様、ご注文は? 
 いつもの。
 えっ? 
 だから、いつもの。
 パイセン、常連なんですね。
 いや、はじめて。
 なのに、いつもの?
 かしこまりました。
 えっ、しかも通ったの? じゃあ、私はクリームソーダで。
 かしこまりました。

 お待たせしました。エスプレッソです。
 すごいすごい、パイセンはエスプレッソを飲むんですね。
 いやぁ、まぁな。
 小学6年生なのに、すごいです。
 いや違うよ、俺は高3だから。
 えっ、でも、私は小4なので、これはもう犯罪ですよね。店員さん、助けて下さい。
 任せて、お嬢さん。もしもし、警察ですか。
 分かった。分かりましたよ。俺は高3ではなく小6です。設定を変更します。

 あら、佑樹、今日は違う女の子なのね。父親に似て、ほんと女好きなんだから。はい、お嬢さん、クリームソーダね。
 ありがとうございます。
 えっ、どういう展開? あんた誰? 
 母親に向かって誰? なんて言うもんじゃないわよ、この馬鹿息子が。
 えっ、母さんなの? 
 はじめまして、いつも班長にはお世話になっております。集団登下校ではいつも手をつないでくれます。
 この子、手が早いから気をつけてね。
 はい、パイセンは気が多いって有名ですから。
 まずい、二人の会話に入れない。設定も展開も読めない。どうしよう、俺がリーダーなのに。
 どうしたんですか? パイセン、本当はエスプレッソ飲めないんですよね。私のバニラアイスあげます。はい、どうぞ。
 あぁ、ありがとう。
 あんた優しいね。うちでバイトしない?
 はい、分かりました、お母様。
 いやいや、小4には無理だろう。無茶苦茶だな、二人とも。
 時給はいくらですか?
 もういいよ、現実的な話はやめて。小説みたいな恋がしたいの、俺は。

 はい、灰皿。
 えっ? なんだよ、急に。
 パイセンは煙草吸うんですか? 
 エスプレッソも飲めないのに、吸う訳ないだろ。
 だって、あんた6年生は何年目だい? 去年、成人式だったから十年目か。
 えっ、班長ってそんなに年上? やっぱり、犯罪です。
 お嬢さん、任せて。もしもし警察ですか?
 だから、設定を捻じ曲げんなよ。
 喫茶店で小6の二十歳男が小4の少女からバニラアイスを恵んでもらい、煙草を吸っています。直ぐ来て下さい。
 ちょっと待って、何も悪いことしてないけど。
 えっ、私ですか? 犯人の母です。更生して欲しくて電話しています。
 更生より、まず卒業させろよ。
 罪名ですか? 小説みたいな恋がしたいと言っています。
 それって罪なの? 
 ねぇ、班長。私も小説みたいな恋がしたい、です。
 えっ、店名ですか? 小説みたいな恋がしたい、です。
 なんだよ、二人とも。小説みたいな恋がしたいって言いたいだけじゃん。

 ねぇ、パイセン。小説みたいな恋ってどんな恋ですか?
 知らないよ。俺も言ってみたかっただけだから。
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