第106話 寄り添いとは 終 ~絶対の味方~ Aパート

文字数 7,873文字



 

には分からなかった。優珠希ちゃんがどうしてそこまでして私なのか。優希君本人じゃなくて優珠希ちゃんなのか。
 通話を終えた今、当たり前だけれど朱先輩が私の心配をして、今の電話の内容を知りたがってくれている。
「それよりも今の電話の相手は妹さん?」
 だから私のお願いはさておいて、知りたそうにしてくれている内容を先に話す事にする。
「はい。優希君の妹さんからで、金曜……いえ、木曜日の放課後からの一連の事を兄妹揃って謝りたいって言うその一点の電話でした」
 もちろん私のお願いの事も今の電話からだから、その理由もかねて全てを話す事にする。
 本当に昨日からいくら私の初恋だからって周りに心配かけて、こんなにたくさんの人を振り回して、私って最低だなって思うのに、色んな人から心配してだと思うけれど電話をもらっている。
 それにお母さんだってお父さんとの事、女の立場での話、そして男の人の立場の話とか、本来子供である私に話す事ではない、夫婦での事まで話してくれた。
 そして朱先輩に至ってはこれだけ色々な醜態を晒して、迷惑をかけ続けているのに、何一つ嫌な顔をするどころか、ほとんど全部私の話を嬉しそうに聞いてくれる。
 まだ優希君の事が好きだって言う私の気持ちも合わせて、私の本音を見つけてくれる。
 本当に驚いたのが、私が人の心を弄んでいる、私自身が酷い人間だと思っていたところを、本当に当たり前のように、何でもない事のように

くれた上で、優希君と同じように、それは私の優しだって言ってくれた事だ。
 そんな朱先輩だから、私の尊敬する朱先輩だから、私は朱先輩の事が好き――ああ。やっぱり私は優希君の事が好きなんだなって、嫌いにはなれないんだなって、自分の正直な気持ちに気づいてしまう。
「……愛さん? 何か悲しい事があるんならわたしに全部教えて欲しいんだよ」
 気づいてしまったのなら、何の涙か分からない涙が目からあふれ出てしまう。
 私は優希君の気遣い、私の心を、気持ちを大切にしてくれるその優希君の心に惹かれたはずなのに……
 親友である蒼ちゃんも、優珠希ちゃんも、優希君も、私が好きだ。私から気持ちは離れていないって言ってくれているのに、どうしてこんなに辛くてしんどいんだろう。
 私は優希君の心に惹かれたわけじゃないのかな。そう思うととても悲しい。そう、悲しい涙が目からあふれ出る。
 そしてまた、自分の気持ちが分からなくなる。
「私、優希君の気遣いに、優しい心に惹かれたはずなのにどうして雪野さんと口づけしちゃって私、辛いのかなって。私は優希君の心が好きじゃなかったのかなって」
 これだけ私自身の気持ちを包み隠さず話して、今更一つだけ言わないとかそんな器用な事は出来なかった。
「愛さんは空木くんの事がとっても大好きだから、今もしんどい。そして初めは空木くんの心が好きだったのかもしれないけど、今は心だけじゃなくて全部が好きなんだよ。好きの気持ちが大きく、強くなってる証拠なんだよ。だから空木くんが愛さん以外の女の子に何をしてもダメなんじゃないかな?」
 言われて心当たりもある。名前も顔も知らない女生徒と喋っているのを遠目に見ただけで、なんとも言い様のない感情が胸の内に広がっていたけれど、そっか。これも嫉妬だったんだ。
 私の隣に座った朱先輩が私に寄りかかりながら、私の中に広がる、名前すらも知らなかった自分自身の感情をゆっくりと、私の気持ち、感情すらも大切に扱ってくれるかのように、丁寧に教えてくれる。
「それに女の子にとっては、やっぱり初めてだけはどうしても特別だから愛さんが傷ついてしまうのは当たり前だし、そんなの許さなくて良いんだよ」
「え? 許さなくてもって……」
 それまでは丁寧に教えてくれていたはずなのに、突然許さなくて良いと言われてびっくりする。
 私の驚きに対して、優しげに微笑んだ朱先輩が
「空木くんは愛さんの彼氏なんだから、全部愛さんを傷つけた空木くんのせいにしちゃえば良いんだよ。そうやって空木くんに、他のどの女の子でもない、愛さんにとっては初めてって、とっても大切だったんだよって伝えれば良いんだよ。これもジョハリの窓で言う愛さんの“秘密の窓”なんだよ」
 ――良い男にしてやるのも良い女の務めだからね―― (84話)
 ――それに良い男に鍛えるのも、良い女の一つだから、ビシッと行かないと駄目な事あるのよ―― (102話)
 朱先輩の言葉を聞いて、あのおばさんとお母さんの言葉を思い出す。
「なんかあのおばさんと、お母さんが言ってた事と朱先輩も同じような事を言うんですね」
 そうしたらなんか自然に笑えてきた。
「あ! 愛さんが浮気してるんだよ。あんなポッと出のおばさまの言葉を覚えてるんだよ。それにわたしはあんなおばさまよりも、愛さんのおばさまよりも若いし、瑞々しいんだよ」
 いや若いって、瑞々しいって、それに浮気って……夜も10時を回っている遅い時間になってようやく、いつもの私と朱先輩の雰囲気が出始める。
「でも年齢の事だけは私のお母さんに言わない方が良いと思いますよ」
 私も驚くくらいの情熱を持ったお母さんに年齢の話をしようものなら、どんな言葉が返ってくるのか分からない。
「わたしは、どんな事があっても愛さんの味方なんだから、愛さんのおばさまは二の次で良いんだよ」
 そして朱先輩がふと表情を元に戻す。
「わたしはどんな事があっても愛さんの味方だから。だから愛さんはもう少しワガママになっても良いし、愛さんは空木くんのたった一人の彼女なんだから、その空木くんに対してもっともぉっとワガママになっても良いし、空木くんの事をポイさえしてしまわなければ、許さなくても良いんだよ。そんなのは愛さんとの初めてを自分からポイしてしまった空木くんのせいなんだよ。こんなにも空木くんの事が大好きな愛さんを、たくさん涙させるまでハラハラさせた空木くんに、愛さんの気持ちを分からせたら良いんだよ。そう言う“開放の窓”の広げ方もあるんだよ」
「いやでも、私みたいな思いを好きな人にはして欲しくなくて……」
 いくら甘えても良い、ワガママを言っても良いとは言ったとしても、好きな人相手に目には目を、歯には歯をなんて言うのは私には出来る気がしないと言いたかったのだけれど、朱先輩は私から一旦離れて、さらに優しい表情を浮かべて、
「違うんだよ愛さん。愛さんがそんな事出来ないのなんてわたしは、お見通しなんだよ」
 なんか分からないけれどそう言う事じゃないという。
 そして大体の時において私が意味を分かっていない場合は、朱先輩が私の心を拾ってくれている時だ。
「愛さんがワガママを言って、空木くんが愛さんにドキドキ、ハラハラをしてくれていて、愛さんがどんな気持ちだったか、どういう気持ちになったかを分かってもらってる間、ジョハリの窓の“開放の窓”を大きくしてる間に、愛さんは、

倉本くんの相談に思う存分乗る事が出来るんだよ。そうやって空木くんにもハラハラしてもらったら良いんだよ。そして空木くんに雪野さんをフッてもらうように、愛さんも倉本くんをフっちゃえば良いんだよ。どうせなら空木くんの前で倉本君から愛さんに告白してもらって、フッてしまえば良いんだよ。わたしは、愛さんの味方なんだから、倉本くんとか、雪野さんなんて知らないんだよ」
 朱先輩の言葉を聞いて、私の全身に鳥肌が立つのが分かる。
 そうすれば確かに優希君に私のこの苦しい気持ちも分かってもらえて、ジョハリの窓の私と優希君の“共通の窓”が大きくなるし、一方私の方もどうしたら良いのか分からなかった、統括会として倉本君の相談にも乗れる。
 本当に私の希望が全部入っている。こんなに私ばっかり思い通りに行って良いのかと迷っていると、
「愛さん? もっとワガママになっても良いって、さっき言ったばかりなんだよ?」
 私の気持ちを分かってくれているのかのタイミングで声をかけてくれる。
 本当に私にとっては朱先輩は魔法使いどころか大魔法使いみたいだ。
「今晩だけ考えても良いですか?」
 なんとなく即答するのが恥ずかしくなって、答えを先送りにしてしまう。
「分かったんだよ。そしてお風呂に入るんだよ」
 当然そんな私の気持ちというか、恥ずかしさなんてお見通しなのか、朱先輩が私の頭を一撫でしてから、普通では考えられないくらい遅い時間の入浴になる。


 気づけばまた朱先輩と同じ布団に入っている私。
「そういえばさっきの電話での件ですけれど、どうしてそうなったのか明日兄妹揃って私に謝りたいって話になって……どうしても私一人だとまだ『わたしもついて行くんだよ。そしてわたしも空木くんの愛さんに対する本心をちゃんと聞きたいって思ってるんだよ』――えっと。ありがとうございます」
 さっきの電話の事を思い出して、改めて朱先輩にお願いしようと口を開いたら逆に朱先輩の方からまくし立てられる。
「わたしもちゃんと空木くんに愛さんを任せられるのかどうか、この目で見ておきたいんだよ」
 そして私の両親みたいなことを言い出す。
 そういえば私のお母さんも機会があれば優希君に会いたいって言ってくれていたっけ。
「明日学校近くの公園なんですけれど――」
「――あの公園の事はわたしもよく知ってるんだよ」
 私が不安の中、口を開いているのに朱先輩が嬉しそうなのが何となく嫌だ。
「……朱先輩。なんだか楽しんでいませんか?」
「そんなの当たり前なんだよ。だって愛さんはちゃんと自分の気持ちを分かったんだから、後はしっかりと空木くんの気持ちを

もらうだけなんだよ」
 でもその言い方だと優希君はまるで
――でも朱先輩も優希君の気持ちは変わってない――
 って初めから言ってくれたっけ。
「だから明日は、わたしが気合いを入れて愛さんをおめかしするんだよ。そして空木くんの男心を刺激するんだよ」
「いや、おめかしって……私はありのままの私でいたいんですけれど……」
 もちろんお化粧自体を否定するわけじゃないし、やっぱり優希君から可愛いって言われたい。でも私は見かけで判断して欲しくはないのだ。
「違うんだよ愛さん。愛さんに涙したお顔は似合わないんだよ。だから……ね? それに空木くんには愛さん以外の女の子と初めてを済ませてしまった事を、後悔するくらいはしてもらった上で、ハラハラしてもらわないと、これっぽっちも割に合わないんだよ」
 何となく私が言いくるめられているだけのような気もするし、朱先輩の本心のような気もする。
「……ひょっとして朱先輩。怒ってます?」
「そんなのは当たり前なんだよ。愛さんに涙させてご機嫌でいられるほど、わたしはお人好しじゃないんだよ」
 案の定だった。
「それじゃあ今日はもう寝るんだよ。睡眠不足はお肌の敵なんだよ」
 それだけを言って、私を抱き枕代わりにでもするつもりなのか、私を抱き寄せてそのまま寝入ってしまう。
「朱先輩。ありがとうございます。また朱先輩に私の心を守ってもらえました」
 私は朱先輩にされるがまま、小さく小さくお礼を口にして、朱先輩の温もりの中、意識を手放す。


 翌朝、暖色のカーテンの隙間から差し込む光で目が覚める。もちろん前回と同じように朱先輩はまだ眠ったままだ。
 そして私が目を覚ました原因を考えると、やっぱり昨日の雨は上がって今日は持ってきた傘と同じ青空が広がってそうだ。
「……」
 前回と同じようにまた朱先輩があの男の人の名前を呼ぶのかと待っていたのだけれど、今日は気持ちよさそうにスヤスヤと眠っているだけだ。
 おととい金曜日の夜にはあれだけ辛かったのに、昨日一日朱先輩に話を聞いてもらって、自分でもびっくりするくらい気持ちが軽くなっている。
 もちろん今日私に謝りたいと言ってくれた二人ともに内緒にされていた事は、今でも悲しいし、雪野さんとした初めての事とか、何もかもがずっと忘れられないんだろうなって思う。
 それでも朱先輩は、優希君の気持ちは動いていないって言うし、私に許さなくても良いって言ってくれた。
 ここまで自分の気持ちがハッキリした以上、怖くても朱先輩を信じて優希君ともう一度ちゃんと話をしようって思える。幸い朱先輩も私に付き添ってくれるという。
 もうこれだけ赤裸々に話して、涙を見せてしまったのだから、今更朱先輩の前でカッコつけるのも取り繕うのも辞めてしまって甘える事にする。
「……」
 一通り考えをまとめたところで、ずっと朱先輩の穏やかで幸せそうな寝顔を見ていたかったのだけれど、妹さんに今日の時間を伝えないといけないからと、朱先輩に声をかけて起こす。
 そうしたら起き抜けに前回と同じように力を入れて私を抱き寄せてくれる朱先輩。
「朱先輩って寝ている時すごく可愛いですよね」
 本当なら年上の朱先輩にこんな事言うと失礼なのかもしれないけれど、真近くで朱先輩の寝顔を見てしまうとどうしてもそう思えて仕方がない。
 ただそうなると、朱先輩の彼氏さんも気が気でないのかもしれない。
「それって普段のわたしは、愛さんから見て可愛くないの?」
 そして遅ればせながら私の言葉に語弊があった事を悟る。
 それでもこれだけキレイと可愛いを両方兼ね備えているのだからずるいと思う。
「普段の朱先輩は可愛いって言うより、キレイですよね」
 だから今まで何度も心の中で思っていた、キレイと可愛いを足して二で割らなかった事を伝えると、
「そんな良い子の愛さんには、わたしが気合いを入れておめかしをするんだよ」
 その一言で朝の起床となる。

 題名:待ち合せ時間
 本文:今日の午後一時にあの公園で。後、昨日電話でも言ってたとおり私の方も
    一人ついてきてもらうから。もちろん金曜日の話もしているから。

 もちろん私も優珠希ちゃんにメッセージを飛ばして。

 朱先輩に今日の待ち合せ時間の事を伝えてから少し遅めの食事を頂く。
 その後、気合いの入った朱先輩に施してもらった自分の顔を見て驚く。
 目の周りの腫れといい、涙の跡といい何もかもがキレイになくなっている。
 本当に自分が自分でなくなるような感覚にもなる。本当に漢字で書くとおり人を()かす粉だけの事はあると思う。
「なんか自分で言うのも何ですけれど、本当の私ってこんなにキレイでも可愛くもないですよね」
 時折鏡に向かって笑顔を作りながら、鏡越しに見えている得意気な表情を浮かべた朱先輩に聞く。
「愛さん? 愛さんはもっと自分が可愛いって事を自覚しないとダメだってわたしは言ったんだ――」
 鏡越しではあるけれど、久々に顔の前で人差し指を立てた朱先輩を見ていたら、何かに気づいたらしい朱先輩が途中で言葉を止める。
「――愛さんは今の自分を見て可愛いって思ってくれたんだよね?」
 何故か朱先輩が鏡越しに、私の顔をキラキラさせながらのぞき込んでくる。
「いや……あの……朱先輩?」
 改めて聞き返されると恥ずかしくて、自意識過剰みたいで返答に困る。
「さっき愛さん。自分の事可愛いって言ってくれたよね?」
 それでも答えない私のそばまで来た朱先輩が、私の肩を持って振り向かせて、鏡越しではなく直接私の顔をのぞき込んでくる。
 間違いなく余計な一言を滑らせてしまったみたいだ。
「朱先輩のお化粧がうまいなって」
 それでも何とかと思ったのだけれど、
「わたしのお化粧がうまくて、愛さん自身が可愛いって気づいてくれたんだよ」
 全部の言葉をまとめてひっつけてしまった朱先輩が、話をおかしな方向に転がしてしまう。
「と言う事は毎週わたしが愛さんのお化粧をすれば、愛さんはちゃんと可愛いって自覚してくれるって事なんだよ」
「いや朱先輩がって……お化粧道具ってかなり高いじゃないですか」
 そんなの受験を控えた学生が、どうこう工面できる話じゃない。
「それでも今までわたしが何回愛さんは可愛いって言っても聞いてくれなかったのに、今日は愛さんが自分で言ったんだよ。それに愛さんの好みのメイクもばっちり把握したんだよ」
 ……私が口を滑らせた一言で、朱先輩に火をつけてしまうとは全く想像していなかった。
「あの。私はあくまで普段の私と比べて。ですからね?」
 ホント、どうして自分で自分の事が可愛いなんて、思い上がりみたいな事を口にしてしまったのか。
「でも可愛いって思ってくれたから、愛さんも否定しないんだよね?」
 私を鏡越しではなく正面から見ている朱先輩が、私の顔をのぞき込んで――
「ちょっと先輩?!」
「今度から空木くんとデートする時は、わたしが愛さんのおめかしをするんだよ」
 まだ優希君の気持ちを聞いていないのに、優希君とのこの先の話をする朱先輩。
 そしてまた何か思いついたのか、これ以上何を思いつく事があるのか、朱先輩がどこかへ行ってしまう。

 もう少ししたら待ち合せ場所へ向かうからって事で、外着に着替えようとしたところで、
「愛さんにわたしの服を着てみて欲しいんだよ」
 朱先輩が服を手に持ってきてくれるけれど、
「い?! あ、朱先輩の服をって、そこまではしなくて良いですよ」
 そこまではさすがにしてもらえないのと、色々なところのサイズが違ってどうなんだろうとも思う。
「でも今日の愛さんの服って、空木くんとのデート用の服じゃ無いよね?」
 いやデート用って……私そんなにたくさん服持ってないよ。
「ダメなんだよ。いつも言ってるとおり、わたしと愛さんの中では遠慮はなしなんだよ」
 そう言って私の気持ちなんて気にする事なく、私の好きな空色の、全体にシフォン加工って言うのかな、キレイな皺になっているワンピースを広げて見せてくれる。
「今日は空木くんに愛さんを涙させた事を絶対に後悔させてやるんだよ」
「でもこれ、肩の所キャミソールじゃないですか」
 見た感じスカート丈は膝くらいまではありそうだから、普段の制服と長さは変わらないけれど、これは私には恥ずかしくて着られない。それにこれって絶対見えるんじゃ……
「そしたら上からカーディガンを羽織れば良いんだよ」
 私の腕にワンピースを引っかけたかと思うと、再び姿を消した朱先輩が手にもう一つ上着を持って姿を現す。
「えっと……」
 気づけばどんどん退路を断たれている気がする。
「今の愛さんの可愛さを出来る限り引き出したおめかしと、大人可愛く着飾った愛さんを見たら、空木くんも後悔と反省は間違いなしなんだよ」
 そういった朱先輩は引く気は全くなさそうだ。
「愛さん? 今日は愛さん自身が可愛いって分かってもらう日でもあるんだよ?」
 いつの間に今日の項目が増えたのか。今日は優希君の話を朱先輩も含めてしっかりと聞く日じゃなかったのか。
「……分かりました。じゃあ朱先輩のおすすめの服をお借りします」
 結局は変わっていく朱先輩の表情に押し負ける形で、朱先輩のワンピースに袖……は無いから、体を通す事に。


 朱先輩から借りた全体にシフォン加工されたワンピースの上にカーディガンを羽織った私は、姿見の前に立たせてもらうけれど、これ誰よ。
「うん。これなら空木くんも後悔間違いなしなんだよ」
 私の戸惑いに気づかない朱先輩が満足げにしきりに首を縦に振っている。
「それじゃあ待ち合せ場所に向かうんだよ」
 私の戸惑いはさておいて、朱先輩の満足そうな雰囲気を背に身支度を調えたところで、朱先輩の一言により、そのまま朱先輩の家を後にする。

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