第59話 すれ違い ~想いの交錯~ Aパート
文字数 5,582文字
咲夜さんと電話していた昨晩、そのまま寝てしまったのかいつも日課にしていた予復習をしていた記憶が無い。
仕方なしに朝起きてから今日の学校の準備をして今日は少し大き目の朱先輩からのブラウスを着る。そして、今月も私の周期的にはぼちぼちと言う事もあって、朱先輩以来のポーチの中身を確認して女の子ならではの準備を済ませてから、登校するまでの少しの時間だけでも充電をしようと携帯を手に取ると、
「優希君?」
何回かのメッセージと着信が昨日の夜に入っていた。
さすがにお付き合いをしているからと言っても、親しき中に礼儀あり。
早朝から電話するのも非常識だからと一旦メッセージの方に目を通す。
題名:明日のお昼
本文:今週何回か愛美さんのクラスまで行ったけど全く姿を見る事が出来なかった
から明日のお昼、愛美さんに話したい事があるから、先に予約しても良いか
な。
まさかの優希君からの誘いに嬉しくなるけれど、雪野さん絡みで色々聞く今、優希君に会ったら絶対に嫌な事を言ってしまうに決まってる。
私が蒼ちゃんとお昼を一緒している間に優希君が来ていた事すら知らなかった。
私が返事をどうしようかと迷っている時、私のやきもちで優希君は喜んでくれていると言っていた妹さんの言葉を思い出した私は
題名:今日のお昼
本文:私も優希君とお喋りしたいから待ってる
メッセージの返信だけをして、携帯を充電しながら優希君とお昼だからと、お弁当に手を抜くわけにはいかなくなった私は急いで朝ごはんとお弁当の下ごしらえからの用意を始める。
急ぎ用意をしたものの案の定いつもより遅くなった私は、携帯を忘れずにカバンに放り込んで
「今週はお母さんが帰って来るって連絡があったから。それと朝ご飯はテーブルに置いてあるから」
「分かった」
玄関で靴を履きながら、背中越しに慶に伝えて学校へ向かう。
私が今日のお昼を優希君とどこで楽しもうかと考えながら教室へ入ると
「そう言えばあの副会長、新しい彼女出来たんだって」
朝早くに来ていた例のグループの一人が別の女子グループと雑談しているのが耳に入る。
「あーあ。あのサッカー部のスターに続いて
クールな
頭脳派の副会長もかぁ。せめて告白くらいすれば良かったかなぁ」優希君の事をよく知りもしないで好きな事を言う女子グループ。
私は気にせず自分の席へ向かったのだけれど
「いや無理でしょ。後輩の女子と一緒に帰ったり放課後にデートしたり、かなり仲良いらしいよ」
デートって言葉で私の足が止まってしまう。
「あれ? でも三年でも良い雰囲気の女子がいるんじゃなかった?」
そんな私を楽しそうに横目で見ながら
「なんか言葉が “薄汚い” らしくて引いたんだって。そして前から猛アタックしてた後輩の子が副会長の胃袋を掴んだらしいよ」
優希君の話を続ける。
「男も料理をする時代になったとは言っても、やっぱり男を捕まえたかったら料理は必須かぁ」
「それに強引に副――の――ったらしいよ」
そしてこっちを見ながらわざとなのか、私に聞こえない様に何かの話をする。
「それが本当なら後輩女子、大胆」
そして少し頬を赤らめて反応するクラスメイト。
ただ私の内心はそれどころじゃない。
何回か見ている雪野さんから優希君へのお弁当箱に手作りのお菓子までもらって美味しかったと言っていた優希君。それに中条さんから聞いていた通り、登下校中の話に
――愛先輩。雪野に負けちゃったんですか?――
反論したいのに何も反論できない私。
私はこれ以上何も見聞きしたくなくて机に突っ伏す。
そして狙ったかのような優希君からの話したい事があるメッセージ。
「愛ちゃん」
いつからいたのか、どこから聞いていたのか、蒼ちゃんが私の背中をさすってくれる。
「ごめん蒼ちゃん。今はそっとしておいてほしい」
私の背中をさする手は無くなったけれど、近くにいてくれているのは何となく気配で分かる。
今週は日曜日の図書館デート以来、優希君の顔も見てないし声も聞いていない。優希君が私のクラスに来てくれていた事も咲夜さんを含めて、誰からも聞いていない。
確かに私と優希君の事は蒼ちゃんと中条さんにしか言ってないけれど、咲夜さんは私の優希君への気持ちは知っているはずなのに。昨日咲夜さんが電話口で言おうとしていた事はこの事なのか。
それでも昨日の電話で蒼ちゃんと実祝さんに手を出さなければって咲夜さんに言ったのは私なのだから、咲夜さんを責めるのはお門違いなのだ。
「まぁ、女子代表として副会長を射止めた女子には幸せになって貰わないとねー」
机に突っ伏した私にも聞こえるように雑談を終えたらしい例のグループの女子の声が聞こえなくなる。
いつまでも机に突っ伏しているわけにもいかないからと、顔を上げた所で携帯の着信にメッセージが入る。
今日はよくメッセージが入るなって思いながら確認すると、
題名:
本文:じゃあ昼休みにそっちに行くから、待ってて
タイトルも何もない優希君からのメールだった。
さっきの話と、雪野さんとの放課後デートの話、朝起きた時には嬉しくて時間が無くても急いで手抜きじゃないお弁当を作ったのに、今じゃ優希君から雪野さんに気移りしたと別れを切り出されるのが怖くて会いたくない。
今日が統括会だったら私はどうしたんだろう。
私は優希君の返信メッセージをどうするかと、両方を悩みながら午前中の授業を受ける事になった。
昼休み。迷いに迷った挙句怖さの方が勝った私は、優希君に親友とお昼をする旨を伝えて、
「蒼ちゃん朝はごめん。お昼一緒して良い?」
蒼ちゃんに声を掛けた所で
「岡本さん」
教室の外からお弁当を手に私を呼ぶ倉本君。
私は蒼ちゃんに少しだけ待ってもらうようにお願いしてから
「どうしたの?」
最近あからさまになりつつある倉本君の態度。
「先週の雪野の件で岡本さんに相談したい事があって」
最もらしく言ってくるけれど、それがただの口実だって事くらいは私にだって分かる。
そして私は彩風さんの気持ちも知っているから、倉本君には悪いけれど
「今ちょうど私の親友をお昼に誘ったんだけれど、一緒でも良いかな?」
そう言いもって視線で倉本君を蒼ちゃんへ誘導する。
その際にニタニタといやらしい表情を浮かべた例のグループと、逆にハラハラした咲夜さんの表情も視界に入る。
「……」
蒼ちゃんが倉本君に軽く会釈をしたところで
「統括会での話だから部外者はちょっと」
倉本君がやんわりと拒否の意を示す。この辺りが優希君と決定的に違う所だ。
優希君なら私の親友も大切にしてくれる。時に私がやきもちを妬きそうになるほどには。
私は今まで何回か他人と比べる事はその人にとても失礼だし、人にはそれぞれ良い所も悪い所もあるのだと言って来はした。
にも拘らず、私の気持ちを恐らくは知った上で私に気があると言うならば、今回ばかりは誰から非難を浴びようとも優希君と徹底的に比べさせてもらう。
「統括会での話なら、彩風さんも呼んだ方が良いよね」
倉本君に聞きもって、この場所だと目立つからと教室から少しだけ離れる。
私は近くにいる女の子の事も気遣えない人には本当になびかない。
ましてや私の親友の事を外そうとする男の人には私は絶対に惹かれない。
私は男子とお付き合いを始めても、親友や友達はやっぱり大切にしたいのだ。
「分かった。霧華には連絡する」
そう言って渋々と言った感じで彩風さんに連絡を取る。それを確認した上で
「私も親友をもう誘ってるから、一緒に食べたいんだけれど、どうしてもダメって言うんだったら、先約していた親友と食べるけれどどうする?」
これでもダメなら私は躊躇いなく親友を取る。それに倉本君には私に期待を持たせたくないと言う気持ちもある。
ただその方がかえって彩風さんと倉本君が二人きりのお昼になって良い気もする。むしろこの案は良い話なんじゃないかとさえ思う。
一方で倉本君がこの条件を飲んでくれるなら、私が倉本君と二人きりになる時間は、今このタイミングしかないから彩風さんも余計な心配をしなくても済むと思う。
「分かった。今日は四人でお昼を食べよう」
果たして倉本君は私の親友を混ぜる方を選択する。
その後私は一旦教室に戻って、蒼ちゃんを呼んでいる間に彩風さんがもう来ていたから、そのまま四人で前に咲夜さんと座った場所でお昼をする。
「岡本先輩。今回もありがとうございました」
素直に私にお礼を言ってくれる彩風さん。
因みに前と大体同じで、私の正面に彩風さん。私の隣には何故かホッとしている蒼ちゃん。私のはす向かい、蒼ちゃんの正面に倉本君が座っている。
「えっとそっちの人は前の人と違いますよね」
彩風さんの悪気の無い疑問に思わず苦笑いをこぼす。
「私の親友の
「
蒼ちゃんのあいさつに
「アタシは
少し慌てて自己紹介をする彩風さん。
「と言う事は
にこやかな蒼ちゃんの話に、
「理っちゃんって誰です?」
私が彩風さんに
「中条さんの事だよ」
補足すると、私の方にちょくちょく視線をやっていた倉本君が
「雪野の事を?」
びっくりしたように聞いてくる。
そんな聞き方をしたら、せっかく交代の話を伏せて雪野さんのアレコレを話していたのに、何かあるのかって思われても仕方が無くなってしまう。
倉本君と言い、担任の先生と言い、この二人だからなのか男性特有なのか、一つに集中する事が原因なのか回りが見えていない時に不用意な言葉が目立つ気がする。
「違うって。中条さんと蒼ちゃんと三人で甘いものを食べにお茶をしただけだって」
私の返答に今度は彩風さんがびっくりしたみたいだったから
「あの険悪な雰囲気から、もうそんなに仲良くなったんですか?」
「仲良くっなったって言うか、中条さんすごく良い子だよ」
そのままの感想を伝える。
「やっぱり岡本先輩ってすごい」
どうして中条さんの話をしただけで、尊敬の目に変わるのか。
「すごくないって。中条さんと話してみればわかるよ」
横を見てみると、私たちには何も言わずに笑顔で見ている蒼ちゃん。
「じゃあ今度その女子会にアタシも参加させてください」
彩風さんが尊敬の目を向けたまま、私にお願いしてくれるけれど、勝手に決めてしまって良いのかと迷っていると
「やっぱり愛ちゃんだねぇ。蒼依は愛ちゃんが少しでも元気なれるなら歓迎だよ。理っちゃんだって愛ちゃんが言えば大丈夫だと思うけどなぁ」
蒼ちゃんが先に中条さんの分の返事までくれる。
「じゃあ中条さんには聞いてからにはなるけれど、二年はあれから大丈夫?」
彩風さんは大丈夫そうだけれど、中条さんの話からして雪野さんを取り巻く状況は厳しそうなのだ。
私の質問にそれまでの表情を一転、気まずそうな表情に変えて
「アタシは大丈夫ですけど……」
私の方を見て言葉を止める彩風さん。
「やっぱり二年でも優希君と雪野さん噂になってる?」
私が代わりに言葉を引き継ぐと、とても気まずそうに “はい” と返事をする彩風さん。
「その代わりトラブルと言うトラブルは起こって無いんだろ」
彩風さんの返事に倉本君が自分は間違ってないって事を主張するけれど、
「そうかも知れないけれど、アタシはこんなやり方納得できない」
彩風さんの方も前回同様好きな人相手に、自分の意見を曲げずにぶつけてる。
端から見ててもとてもいい関係に見えるのに、どうして倉本君は彩風さんを見ようとしないのか。
彩風さんもまた私には、とても魅力的な女の子に見えるのに。
「もし霧華が岡本さんの事を気にしているなら、俺が責任をもってフォローする」
倉本君がはっきり口にするけれど、私はそんな事頼んでもいないし、私の事よりも彩風さんの事をもっと大切にして欲しい。
「霧華や雪野の件はともかく、困った事があったらいつでも力になるから」
いくら倉本君が私に優し
そうな
言葉をかけてくれたとしても、目の前で泣きそうになっている女の子に気付けない倉本君の言葉では、私の心はやっぱり動かない。「それよりも先週統括会の時に言っていた考えはまとまった?」
倉本君に徹底して期待を持たせないためと言うのもあって、話題を変えてしまう。
さすがに二人ともが驚きを見せると
「
蒼ちゃんが席を離れようとするから
「蒼ちゃんは中条さんの話を聞いてくれているし、統括会目線じゃなくて生徒目線で考えてくれるから遠慮しなくて大丈夫だよ」
私は理由を作って残ってもらう。
ただそれ以前に倉本君の方も考えはまとまっていないはずなのだ。
でなければ仮に口上だけだったとしても、私に “相談したい事がある” なんて言わない気がする。
「いや大丈夫だ。俺の方もまだどうしたら良いのかよく分かってない」
そう言ったきり、倉本君の方も黙り込んでしまう。
これ以上話の展開が望めないと踏んだ私は
「明日の統括会の時に、雪野さんをのぞいた四人でもう一度みんなで考えよう」
「分かった」
倉本君の返事を聞いて立ち上がる。
そしてそのまま倉本君に聞こえない様に、彩風さんの耳元に口を近づけて
「倉本君の事よろしくね」
彩風さんにお願いをして教室へと戻る。
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