魔法の粉対決

文字数 2,145文字

 なんだそれ、と聞いてきたのはちー兄だ。

「シャービックだよ。ほら、水で作るアイスみたいなやつ。昔みんなで作ったじゃん」

 トントンと台所のテーブルに積み重ねる、シャービックの箱たち。
 100円ショップで売ってて、つい3箱も買ってきちゃったんだ。いちご味しかなかったけど。「暑ぃ~、豆乳飲みてぇ~」と言いながら入ってきたあき兄も、箱を見ると

「良子? また変なの買ってきたんか」
「ちがう、シャービックだよ! あき兄とも昔作ったじゃん」

「ん、そうだっけ?」

 この人たちの記憶力はホントあてにならない。
 シャービックといえば、小さい頃の夏の思い出ベスト10……うーん、ベスト50には入るし!

 ちいさな箱の中に入ってる粉を全部ボウルに入れて、水入れて、かきまぜて、製氷皿に入れて、余った液はお椀に入れて、あとは冷凍庫で冷やすだけ。
 超簡単なアイスシャーベットのできあがりってワケ。
 さっそく、積んであった箱をひとつ、あけて、シャービックを作り始めた。
 水を少しずつ入れて、スプーンで潰すように混ぜる。まぁ、今から冷やすから、できあがるのは明日だけど。丁度いいじゃん。明日は猛暑日だっていうし……。

 翌日。
 暑い。
 やっぱりシャービック作って正解だった、なーんて思いながら冷凍庫を開けると、

「――なっ?!」

 冷凍庫が一面シャービックだらけ!! なにこれ?!
 ハッと後ろをふりかえると、テーブルに積んでおいた残り2箱がない!

「お母さん! もしかして勝手にシャービック作ったの?!」

 流し台で漬け物を切っている後ろ姿にきくと、
「千一郎と秋斗が夜にやってたわよ」
 という声。
 あんっのバカ兄ども、マジ最悪!

 カラカラと冷凍庫を閉めると、階段を降りてくる足音。タンクトップから出たムキムキの筋肉を光らせて、ちー兄が登場した。

「ちーにぃ……、なんか謝る事ない?」

「お。良子、お早う。一緒にラジオ体操するか?」
「要らないし!」

 と、また階段から足音。長めの黒髪をわしゃわしゃさせながらTシャツ姿のあき兄が登場した。

「あき兄! 謝ってよ。シャービック、勝手に使ったでしょ?!」

「おは。兄貴、良子。あーこの続きはCMのあと、10時のおやつの時間から」
「なにそれ!」

 突っ込みをいれつつも、やっぱり甘いものは朝食じゃなくておやつの時間に食べるものだと考えて結局10時。
 ドン、と置かれたシャービックの器。
 というか、家にある食器が並んでる。

 わたしのシャービックは製氷皿とお椀ふたつ。
 ちー兄のシャービックはお椀なみなみふたつとコップ。
 あき兄のシャービックはコップを4つも使っている。

「じゃ、良子のから試食な」
 とちー兄。

「ドォーン、じっしょく!」
 とあき兄。

 試食も実食もなにも、普通のシャービックだよふたりとも……。
 製氷皿で固まったままのピンクのそれを、フォークですくい出す。
 シャク、シャクシャク。
 うん、そうそう。
 この味。
 シャービックだよ、懐かしい。

「次は俺のな、」
 ちー兄が、お椀になみなみ固まっているシャービックを差し出す。
 しょうがないからスプーンを持ってきて、固まっているのをゾリゾリ削いで食べるー…

「ん!」
 なにこれっ、
「え、なんか、味増えてない?! なんか、えっ、美味しいんだけど!」

 シャクっと噛むと広がる、じんわりとした甘い味わい。
 ちー兄は「フフン」と鼻を鳴らした。

「これはな、水のかわりに牛乳を使った、牛乳シャービックだ」
「ウソ!」
 牛乳なんて、だって、昨日切らしてたハズー…。

「おいおい、俺を誰だと思ってるんだよ。車でスーパーに行ったら何でも買えるお年頃だぞ」
「えっ、ちー兄テリオス君乗ったの?!」
 テリオス君っていうのは、ウチの車の愛称。
 ていうかちー兄、免許取ったばっかりなのに!
「あ……ちーにぃ、ごめん……後ろ……っ!」
 筋肉男が気配に気づき、後ろを見上げるとそこには

「千一郎、お母さんのテリオス君……乗ったとか聞こえたけど。ちょっと来なさい」

 チーン。退場。
「んじゃ良子、オレの食ってみ」
 あき兄がコップを差し出してきた。暑さで早くも外側がとけてて、簡単に引き出すことができた。食べてみる。

「! これ、美味しい!」

 ちー兄のより更にクリーミーで、やさしい味に仕上がってる!
 これ食べたら、もう、水で作ったのなんてビショビショなだけの氷にしか思えないよ!

 あき兄は、ちー兄と同じように「フフン」と鼻を鳴らして、自分の後ろから緑のパックを取り出した。
「ヒミツは……コレだ!」

 ――ドン!

「とッ、豆乳――――!?!」
 豆乳!
 豆乳シャービック!!

「いや、オレも結構驚いてて。全然豆乳ってカンジしねえのな」
「うんっ、これ美味しいよあき兄! ホント、今まで豆乳苦手だったけど、これなら食べれるっていうか!」

「そうそう、豆乳好きとしてはあの豆くささがねえのは不満だけど、まぁ、こんな美味いならアリだな」
 お母さんにコッテリしぼられてきたちー兄も、あき兄の豆乳シャービックに完敗のハタをあげた。

 小さい頃、みんなで作ったときの楽しさをふっと思い出して笑う。
 なんか変わんないなぁ……。

 結局全部は食べきれず、お椀もコップも冷蔵庫。
 午後のおやつもシャービックになっちゃうけど、ま、いいかな。
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