逆転の発想

文字数 1,003文字

 どの対策も意味をなさず進み続ける少子高齢化。
 ついに政府は特別対策本部を設置し、根本的な解決の糸口を探りだした。
 その結果、今まで打ち出してきた出産費・小児医療費・学費などの無料政策は、そもそも子供がいないと何の意味もなさない事に気づいたのである。

 政府はまず、AIを活用した男女マッチング事業に取り組んだ。
 相性が90%以上の人間を全国データベースから割り出す画期的なシステムは連日メディアに取り上げられ、成婚者が右肩あがりに転じた。
 一方で子供の出生数はなおも減少し続けている。

 そこで特別対策本部は子供がいない結婚家庭にアンケートを実施した。
 すると、現代の若者は性行為そのものに興味が薄い事がわかった。

 次なる対策は「アムール作戦」と名付けられた。

 非常に快適なダブルベッドを新婚家庭に無償で配り、その後に妊娠がわかれば子供に関わる費用は全て国が負担する、というものである。
 新婚の二人が居心地の良いベッドで何時間も過ごせば、自然とそういう雰囲気になりやすいというもの。
 センシティブな問題でもあるため、アムール作戦は極秘に進められた。
 一級の家具職人を登用し、人間工学に基づいた快適な設計、音を立てないスプリング、硬すぎず柔らかすぎない枕、ふかふかの羽毛布団、雰囲気を演出するライトなどを造り上げていく。
 こうしてできあがったベッドは、満を持してモニターの新婚家庭10戸に配られた。

 だが。
 結果は驚くべきものであった。

 ベッドを配った全家庭の人間が餓死したのである。

 快適すぎるベッドから出たくないあまり、会社を無断欠勤し、惰眠をむさぼり、食事は出前で済ませ、そのうち食事さえ億劫になり、寝たきりの身体は弱り、衰弱していく……。

 モニター家庭の監視レポートを読了した特別対策本部長は、デスクから立ち上がった。
「ベッドを増産するよう工場に連絡を入れろ」

 とたんにざわつく本部内。意を決した副部長が声をあげた。
「なにをお考えですか! 人が死んだんですよ?! それも1人じゃない……全員だ!! 我々は……っ未来ある若者を殺すためにベッドを作ったんじゃない!」

「落ち着きたまえ。配るのは新婚家庭ではない」

 その言葉に虚をつかれ、副部長は怪訝な顔をして次の言葉を待った。
 本部長は副部長の肩に手を置き、薄く笑う。

「80歳以上の高齢者に無料介護ベッドの名目で送るのだよ。これで少子高齢化に歯止めがかかる」
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