第6章 9・11とメディア

文字数 4,042文字

第6章 9・11とメディア
 バランスという点では、合衆国政府のメディアへの対応は偏っている。二十世紀の戦いはメディアの戦いでもある。メディアで勝った方が勝利を手にする。テロは反響が大きければ、大きいほど、成功である。相手にテロに対して断固たる態度を示すことが、むしろ、テロの目的である。政府はテロを口実に自由を制限したり、民主主義を軽視したりするようになり、自由民主主義体制は自壊する。テロリストは、メディアを使い、自己の存在を大きく見せることに成功している。一方で、メディアは当局側が巧妙に用意したプロパガンダを流している。しかも、多くの場合、それをプロパガンダという自覚もなしに放送している。それどころか、さらに煽っているメディアさえ少なくない。戦時下の日本でも、ラジオから流れてくる大本営の発表を信じていた人もいたが、それを批判的に認識していた人たちにとって重要な情報源は口コミである。「政府の発表はあてにしなかったが、街の噂でポツダム宣言も原子爆弾も知っていた。もっとも、風船爆弾でハリウッドが大火事になって、アメリカ映画が見られなくなるという噂もあった。噂というものは、真実と虚構がいりまじって物語りになっていくもので、真実だけのつもりで痩せている公式発表より面白い」(森毅『自由を生きる』)。

 アフガニスタンの人々が合衆国の市民よりも今の国際情勢を知らないとは限らない。タリバン政権下では、テレビの視聴が禁止されているため、人々はラジオを聞く。政府の放送よりも、BBCの放送をよく聞いているし、タリバン政府もそれを承知している。アルカイダのスポークスマンの声明を合衆国政府は放送しないようにと三大ネットワークやCATVに自粛を求めている。二度目以降、各テレビ局は短縮して放映している。何しろ、ウエストヴァージニア州の高校生ケイティ・シエラが反戦クラブを結成しようと「世界平和」や「テロ反対」というロゴ入りのTシャツを着て、登校したことで、停学処分を受けたが、裁判所まで高校側の対応を違法と認定しない状況である。ジョージ・W・ブッシュ大統領はプリッツェルを喉につまらせたのも、アルカイダの陰謀だと言い出しかねないほどヒステリックになっている。

I would love to tour the Southland
In a traveling minstrel show
Yes I'd love to tour the Southland
In a traveling minstrel show
Yes I'm dying to be a star and make them laugh
Sound just like a record on the phonograph
Those days are gone forever
Over a long time ago, oh yeah

I have never met Napoleon
But I plan to find the time
I have never met Napoleon
But I plan to find the time
'Cause he looks so fine upon that hill
They tell me he was lonely, he's lonely still
Those days are gone forever
Over a long time ago, oh yeah

I stepped up on the platform
The man gave me the news
He said, You must be joking son
Where did you get those shoes?
Where did you get those shoes?

Well, I've seen 'em on the TV, the movie show
They say the times are changing but I just don't know
These things are gone forever
Over a long time ago, oh yeah
(Steely Dan ”Pretzel Logic”)

 マッカーシズムさながらのムードの中、報復戦争に「必要で適切なあらゆる軍事力」を行使する権限を大統領へ与える決議に対して、上下両院の議員のうち、バーバラ・リー下院議員(民主党)がただ一人賛成していないのは救いである。ジョン・アッシュクロフト司法長官(Attorney General John Ashcroft)は、ことあるごとに、アメリカ市民にテロの再発の可能性を呼びかけているが、具体的な言及を避け、メディア操作を疑われている。

There is a town in north Ontario,
With dream comfort memory to spare,
And in my mind I still need a place to go,
All my changes were there.

Blue, blue windows behind the stars,
Yellow moon on the rise,
Big birds flying across the sky,
Throwing shadows on our eyes.
Leave us

Helpless, helpless, helpless
Baby can you hear me now?
The chains are locked and tied across the door,
Baby, sing with me somehow.

Blue, blue windows behind the stars,
Yellow moon on the rise,
Big birds flying across the sky,
Throwing shadows on our eyes.
Leave us

Helpless, helpless, helpless.
(Neil Young "Helpless")

 BBCは、アメリカのメディアと違い、アルカイダの声明を全世界に向けて放送すると同時に、現在行っている空爆はテロリストのネットワークを破壊するためであって、イスラム教徒に向けてはいないというトニー・ブレア英国首相のメッセージも流している。

 湾岸戦争がCNNと通じた戦争だったとすれば、今回の同時多発テロをめぐる一連の出来事はカタールの衛星テレビ局アルジャジーラをクローズアップしている。タリバン政権崩壊まで、世界中のメディアは、アルカイダやタリバンに関して、このアラビア語の放送局が入手した情報を通じて番組を構成している。その影響力を無視できなくなった合衆国政府は、コンドリーザ・ライス国家安全保障問題担当大統領補佐官(National Security Adviser Condoleezza Rice)をアルジャジーラに出演させている。

 アルジャジーラの報道はゲリラ的であるが、そもそもゲリラは不正規な武装集団による遊撃的戦闘などの軍事行動だけでなく、その集団や構成員を指す。二十世紀に限らず、民族自決の闘争はすべてゲリラ戦である。ゲリラの目的は二つに大別できる。一つは、敵の軍隊による占領を放棄させるための遊撃戦、もう一つは現存の政権を倒し、新政治体制を築く目的で行う革命戦争ないし民族解放戦争である。ゲリラという語は、十九世紀初頭にナポレオンがイベリア半島に侵入した際、スペインの農民たちが抵抗しナポレオンの征服を中断させた戦いをカステーリャ語で「小さな戦争」を意味する「Guerrilla」と呼んだことに由来する。国民国家に対する戦いがゲリラの起源である。国家の要請に屈服したCNNは大きな戦争のメディアであって、アルジャジーラは今回の事件を報道するのにふさわしいメディアである。

Imagine there's no heaven
It's easy if you try
No hell below us
Above us only sky
Imagine all the people
Living for today...
Imagine there's no countries
It isn't hard to do
Nothing to kill or die for
And no religion too
Imagine all the people
Living life in peace...

You may say I'm a dreamer
But I'm not the only one
I hope someday you'll join us
And the world will be as one

Imagine no possessions
I wonder if you can
No need for greed or hunger
A brotherhood of man
Imagine all the people
Sharing all the world...

You may say I'm a dreamer
But I'm not the only one
I hope someday you'll join us
And the world will live as one
(John Lennon “Imagine”)

ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み