第2章 タリバン

文字数 3,685文字

第2章 タリバン
 バーバラ・エーレンライクは、『ヴィレッジ・ボイス』誌に、これまで自分自身が批判してきたグローバリゼーションと軍事力に基づいたアメリカの世界支配への反撃が、女性虐待のイデオロギーを信奉するグループによってなされたことは残念であると言っている。しかし、タリバンに対する懐柔策を拒否し、アフガンの女性たちを苦境に追いやったのはアメリカのフェミニスト団体である。フェミニストの道徳主義がアフガンで女性の置かれている状況を悪化させている。

 タリバンは最初から頑だったわけではない。彼らは、カブール制圧直後、女性の教育も認めている。タリバンの政策を非難することはたやすいが、内戦により政治・経済に携える人的資本が不足している現状を考慮しなければならない。

 タリバンが偏狭になっていくのには、ある経過を辿っている。タリバンを支援し続けたのはパキスタンだが、それを合衆国は黙認している。アメリカは、自国の石油資本ユノカル社がカスピ海の天然ガス資源をアフガン経由でパキスタンに送るのを援助するため、タリバンに武器を供与させている。ユノカル社も経済的・人的援助をしていたが、荒廃しきっていたアフガンの現状には十分に補えることはできない。国際社会はタリバンの承認に二の足を踏み、タリバンは追いこまれていく。

 その苦境に手を差し伸べたのがオサマ・ビン・ラディンである。オサマは、アルカイダなどのイスラム主義者のネットワークを通じて、高等教育を受けた人物をタリバンに提供を申し出る。タリバンは、その代わり、行く場所をなくした彼に滞在を許可している。タリバンは、この時から、極端なイスラム主義に傾斜していく。アラブから来たイスラム主義者によって、女性の権利は奪われ、凧揚げの禁止など奇妙な布告を施行され始める。アフガンでは、凧揚げは人気がある。インドやパキスタン、アフガンの地方によっては、凧をあげて春を祝う習慣がある。ユノカル社は国内のフェミニスト団体から人権を抑圧する政権を支援しているという理由で訴訟を起こされ、タリバンから手を引かざるをえなくなってしまう。

 タリバン指導部のメンバーはアメリカに渡り、苦境を訴え、援助を求めたが、拒否される。内戦のため、アフガンから人的資本が流出し、産業的資本は破壊され、海外資本は投資を手控え、追い討ちをかける。タリバンの指導部とアルカイダはさらに接近し、後は悪循環に陥るだけである。タリバンの政策の多くは保守的な農村共同体の慣習を適用しているため、都市生活者には苦痛だが、農村では不満は少ない。

 アフガンやイランで王制が廃止されたのは、農村部を中心にした民衆の近代化への反発である。近代化を通じて、経済発展を達成する過程が不可欠であったとしても、それが成功するわけではない。近代化は急激な経済成長が可能な時代においてのみ有効である。近代化がうまくいかない結果として、近代化がテロリズムを生み出す土壌になる。近代化を素朴に否定するだけでは支配地域を統治ができないことくらいタリバンも承知している。地域によっては、タリバンも、私塾での女性の教育を黙認している。彼らは、女性の教育自身を禁止しているわけではなく、男女を分けて学校を作る経済的余力がないために、女性の修学をさせていないだけだと弁明している。

 つまり、イスラム主義者とフェミニストの性急で極端な道徳主義がアフガンの女性の自由を奪っている。「講演が終わって、質問を受ける段になってひとりの高校生が、『そやけどうちの高校まったく駄目なんですけど、どうすればよくなりますか』と尋ねてきた。ぼくの答えは、『高校生の分際で高校を良くしましょうなんて思わんことよ』。自分の通う高校を良くしたいと思う心根は見上げたものである、と一応は褒めよう。しかし、いくら彼が孤軍奮闘して学校の改革を唱え、それに賛同する仲間がいても、一朝一夕には母校がかわるわけもない。たっぷり十年はかかる。十年後にいくら高校が良くなったとしても、その恩恵にあずかるのは自分ではなく、見ず知らずの後輩だ。「そんなバカなことやめとき」が、ぼくのアドバイスである。どうせなら、今の制度のなかで自分にメリットになる良いところだけをうまく利用したほうがいい。肩ひじ張って改革してやろうなどと思うより、むしろそのほうが結果的に母校を良くすることにつながると思う」(森毅『オール・オア・ナッシングでは悲しすぎる』)。

 テロを生む原因は貧困に始まり、民族浄化、民族間の復讐、難民、麻薬、武器密輸、宗教的狂信、グローバリゼーションへの不信感と限りない。この原因の多くは途上国と言うよりも、先進国の生活様式にある。地球温暖化の結果、世界各地で干ばつや洪水が生じ、農産物の生産が激減している。テロを生み出す抑圧機構は先進国から途上国へ向けて網の目のように広がっている。中東や中央アジアの多くの国では、行政は腐敗し、インフレが進み、失業率が高い。先進国は、思惑から、それを見て見ないふりをしている。この状況が将来への希望を持てない若者たちをイスラム主義に走らせ、イスラム主義の指導者も影響力を確保すべく、利用している。サルマン・ラシュディは、「これはイスラムの問題ではないと世界の指導者は呪文のように唱え続けている。しかし、実態をありのままに見よう。これはイスラムの問題である」と言い、さらに「過激派の土壌は貧困であり、果実は妄想症である」と付け加えている。「宗教にはたいていクレージーな時期があり、千年くらいしてやっと落ち着いてくる。キリスト教の新約聖書などを読むと、美談ばかりだ。しかし、これはずっと後世になって書かれるから美化されるのであって、誕生した当時は、周囲からは変なものが出てきたとしか思われなかったのではないだろうか。迫害され、邪教のそしりを受けた時期があったに決まっている。そして、めちゃくちゃ暴れる時期があり、社会と摩擦を起こす。最初に高揚期があって、お祭り気分のなかでの論理が働く。が、その段階を過ぎるとお祭り気分がハイであればあるほど、反動がきて、社会と厄介なことになる。そのうち馴化し、長い間かかって安定してくるというステップを踏む」(森毅『幸福の科学の正念場はこれからやって来る』)。テロリズムとそれを基盤とした思想を区別する傾向があるが、テロリズムはその思想が社会と共生する前に、荒れ狂う症状である。新たに出現した感染症の病原体が時間経過とともに弱毒化・無毒化されていくように、一定期間がすぎると、テロリズムが消え、思想は社会と共生する。思想にとってテロは大腸菌におけるベロ毒素に似ている。

If I, I get to know your name
Well if I, could trace your private number, baby

All I know is that to me
You look like you're lots of fun
Open up your loving arms
I want some,want some

I set my sights on you
(and no one else will do)
And I, I've got to have my way now, baby

All I know is that to me
You look like you're having fun
Open up your loving arms
Watch,out here I come

You spin me right round, baby
Right round like a record, baby
Right round round round

You spin me right round, baby
Right round like a record, baby
Right round round round

I got to be your friend now, baby
And I would like to move in a little bit closer

All I know is that to me
You look like you're lots of fun
Open up your loving arms
Watch out, here I come

You spin me right round, baby
Right round like a record, baby
Right round round round

You spin me right round, baby
Right round like a record, baby
Right round round round...
(Dead Or Alive ”You Spin Me Round (Like A Record)”)

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